手術痕や症状をカバーし「社会復帰」を目指す―『リハビリメイク』とは?

遺伝性疾患プラス編集部

やけど、事故などによる傷、手術痕、生まれつきのあざ、病気の症状など、さまざまな外見の変化をカバーするメイク『リハビリメイク』をご存知でしょうか?リハビリメイクの大きな特徴は、症状をカバーするだけではなく、当事者が自分の外見を受け入れ、社会復帰することを目指していることです。かづきれいこさんが考案され、現在も、一人ひとりにあわせた方法を提案されています。

かづきさんが、リハビリメイクを始めた経緯とは?また、対象となる疾患は?かづきさんに詳しくお話を伺いました。

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フェイシャルセラピスト かづきれいこさん

ご自身も、病気による顔の悩みに苦しんだ経験

かづきさんが、傷や病気の症状をカバーするメイクを学び始めたきっかけについて、教えてください。

私自身もまた、見た目の問題に悩まされていた一人だったからです。心房中隔欠損症(Atrial septal defect:ASD)という心臓の病気を、生まれつき患っていました。

ASDは、心臓の右心房と左心房の間を隔てる壁(心房中隔)に穴が開いている状態です。ASDでは、動悸やめまい、むくみ、息切れしやすい、といったさまざまな症状が現れます。ASDの影響により、私の場合は、寒い冬の時期は頬全体が真っ赤になりました。そのために小学校の頃のあだ名は「赤デメキン」。その後、30歳の時に過労で倒れたことを機に病名がわかり、手術を受け完治しました。

かづきさんご自身もまた、病気による症状で悩まれたお一人だったんですね。

はい。毎年、冬になって顔が赤くなるたびに、気持ちが暗くなりました。高校生の頃の自分の日記には、「『顔じゃないよ。心だよ』なんてウソ!」と書かれていたくらいです。ある日、赤い顔を隠そうとファンデーションを塗って登校したら、先生から「化粧を取りなさい」と叱られました。「私にとっては、おしゃれのための化粧ではなく、みんなと同じ白い肌になりたかっただけなのに…」と、悲しい気持ちでいっぱいになりました。

高校を卒業して化粧をするようになってからは、赤みをカバーするために、ますます厚化粧になっていいきました。自分の納得できる顔を完成させるために、毎日、長い時間かかったとしても、私にとってメイクは、心が楽になれる唯一の手段だったのです。

そんな私自身も悩んでいた経験から、見た目が自然で、短時間ででき、それでいて化粧崩れせず、一般と同じ化粧品を使用するリハビリメイクの考案につながったのです。

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「私も悩んだ一人だったからこそ、リハビリメイクの考案につながった」と、かづきさん。

薄塗り、短時間でできるリハビリメイク。対象疾患もさまざま

リハビリメイクという言葉が生まれたきっかけについて、教えてください。

全身にやけどを負った10代の女の子の患者さんを、看護師さんが私の主宰するメイクサロンに連れてきたことがきっかけでした。その患者さんは顔にやけどの痕があり、数度の手術を終え、運動機能のリハビリを行っている最中でした。看護師さんは「彼女の体のリハビリはもう終わります。しかし、ここから普通の生活に戻るために、体だけでなく外見のリハビリも必要だと思うのです」と言われました。

この言葉がきっかけで、けがや病気などによる外見の変化をカバーするためのメイクを『リハビリメイク』と名付けたのです。

欧米の『カモフラージュメイク』とは、何が違いますか?

カモフラージュメイクは、患部を隠すことを目的としたメイクですが、リハビリメイクは、隠すことを目的にしていません。患部を受け入れ、社会復帰を目指しています。メイクは手段であって、目的ではないのです。

また、私自身の経験から、崩れず、薄づきで、短時間で完了でき、一般の化粧品と同じものを使用していることも特徴です。

リハビリメイクの対象としている疾患は決まっていますか?

リハビリメイクは、さまざまな疾患に対応しています。例えば、以下の表にあるような疾患に対応しています。

専門領域

疾患名

精神科

双極性障害、神経症、更年期障害、摂食障害、身体醜形障害、自傷行為、ドメスティックバイオレンス、PSSD(Post-Surgical Stress Disorder:手術後ストレス障害)

形成外科

瘢痕(熱傷後瘢痕、外傷後瘢痕、術後瘢痕など)、血管腫・母斑(単純性血管腫、太田母斑など)、母斑症(プリングル病、神経線維腫症I型など)、口唇裂、口蓋裂、陳旧性顔面神経麻痺、眼瞼下垂

歯科・口腔外科・頭頸部外科

口唇裂、口蓋裂、審美歯科、下顎前突、顔の変形、頭頸部手術後瘢痕

美容外科

ざ瘡(ニキビ)、ざ瘡痕(ニキビ痕)、色素性病変、アンチエイジング全般(たるみ、しわ、しみ、毛穴の開き)、下顎角の張り、美容治療後のダウンタイム軽減(ケミカルピーリング、レーザー)

皮膚科

アトピー性皮膚炎、ざ瘡(ニキビ)、膠原病による皮膚症状、母斑、白斑、色素性病変、魚鱗癬

内科

膠原病、腎不全(透析)による様々な皮膚症状

婦人科

更年期障害、がん治療に伴う副作用(脱毛、くすみ)に対するQOL向上

眼科

眼瞼下垂、眼瞼痙攣、眼瞼内反

かづきれいこ 公式ウェブサイトより ※2021年7月現在の情報です。

ご自身の症状が対応可能かについては、お気軽に、こちらからご相談頂ければと思います。

リハビリメイクを受けるために、性別や年齢の制限はありますか?

制限はありません。女性だけでなく、男性の方も来られますし、小さいお子さんから年配の方、顔以外の腕や足まで対応させて頂きます。

例えば、男性のお子さんもいらっしゃいますよ。基本的に、リハビリメイクは患者さん一人ひとりにあわせて方法を覚えて頂き、お家に帰ってもご本人が一人でメイクできるようになって頂きます。ただ、お子さんの場合は、親御さんにリハビリメイクの方法をお教えし、お家で実践できるようにお願いしています。

神経線維腫症I型患者さんのリハビリメイクは?

神経線維腫症I型(レックリングハウゼン病)患者さんでは、どのようなリハビリメイクをされるのでしょうか?

リハビリメイクは、一人ひとりにあわせてメイク方法をご提案するため、一概に「これ」という方法はありません。

ただ、例えば、皮膚などにできた「神経線維腫」に対しては、リハビリメイクのテクニックの1つである上から下へ心臓に向かって血流を促進するマッサージ(血流マッサージ)を行い、凹凸の肌はメイクでは限界があるのでそのために開発した極薄粘着テープを用いてメイクすることが多いです。神経線維腫の大きさにもよるのですが、小さいもので、マシュマロ状のやわらかいものであれば、このテクニックで凹凸を軽減し自然にカバーすることができます。実際に、調査により神経線維腫症I型患者さんのQOLが上がったという結果も出て、2018年に日本レックリングハウゼン病学会で発表しました。

さまざまな領域の専門家連携の仕組みづくりへ…過去の後悔から決意

これまでのリハビリメイクの中で、かづきさんが特に印象的だった患者さんはいらっしゃいますか?

まだ、リハビリメイクという言葉が生まれていなかった頃の話です。当時、私は外見に悩みを持つ方々向けのメイクを模索していました。そんな時に、10代の頃に発症した病気により、顔に隆起と赤みが現れている患者さんと出会いました。この患者さんとの出会いによって、私の幼い頃から思っていた「顔が嫌な日は心がつらく、心がつらいと体がしんどい」「顔と心と体はつながっている」ことを、身をもって実感することになったのです。

当時、彼女へできる限りのメイクを行いましたが、なかなか満足のいく仕上がりにはなりませんでした。その後、彼女は形成外科で術的治療も受けるようになったのですが、症状を繰り返していたことなどもあり、次第に精神状態が不安定になっていったのです。そして、精神科に通院するようになり、私の元へも頻繁に電話がかかってくるほどでした。それでも、私は「精神科の先生にも診て頂いているから、大丈夫」と自分に言い聞かせ、彼女が元気になることを願っていました。しかし、彼女は自ら命を絶ってしまったのです。

これは、私にとって本当にショックな出来事で、さまざまな後悔に苛まれました。私のメイクの力が及ばなかったことはもちろん、メイク、精神科、形成外科、それぞれの専門家が関わっていたのにも関わらず、うまく連携できずに患者さんと接していたことも深く悔やまれました。「顔」「心」「体」それぞれの領域が連携し、一丸となって患者さんと向き合うことが大切だったのです。この経験は、現在の「公益社団法人顔と心と体研究会」の活動にもつながっています。

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公益社団法人顔と心と体研究会 公式ウェブサイトより

患者さんの死が、現在の顔と心と体研究会の活動にもつながっているのですね。

そうなんです。リハビリメイクだけでなく、医師・福祉・教育などさまざまな専門家と連携することで、外見に悩みを抱える方々の精神的・社会的自立を支援することが、大きな目標です。

「二度と、患者さんに自ら命を絶つようなことはさせない」と心に誓い、私は今も一人ひとりの患者さんと向き合っています。

また、福祉施設などへ伺い、メイクボランティアなども30年近く行っています。その他には、メンタルメイクセラピストという資格の認証事業も行っています。メイク技術、患者さんのメンタル面のケア、関連する医療の基礎的な知識などを学び、さまざまな外見の問題を抱える患者さんと、医療従事者の方々をつなぐ役割を担って頂きます。初心者向けの4級試験はオンラインで受験可能ですので、興味のある方はぜひチャレンジして頂ければと思います。

もっと家族で話そう、遺伝性疾患のこと

遺伝性疾患プラスの読者の皆さんへ、メッセージをお願いします。

ぜひ、もっと病気についてご家族で話す時間を持ってほしいと思います。なぜなら遺伝性疾患は、当事者だけでなくそのご家族へも影響の大きい場合が多いからです。

私は、これまでにさまざまな遺伝性疾患の患者さんやご家族にメイクさせて頂きました。その中で感じているのは、当事者だけでなく、そのご家族もつらい思いをされているということです。親御さんの場合、「自分のせいだ」と責任を感じながら生きている方もいらっしゃると感じます。恐らく、周囲の方から心無い言葉をかけられた経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

だからこそ、一度、病気について、家族で話してほしいと願うのです。例えば、リハビリメイクを通じて「もう、症状が気にならなくなった(受け入れられるようになった)」という当事者の方でも、「親は、いまだに症状を気にしている」というお話をよく伺います。家族で話すことで、一歩、前に進むきっかけになることもあるのではないでしょうか。

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「病気について、家族で話してほしい」と、かづきさん。

病気による外見の悩みをお持ちの方は、ぜひご連絡頂ければと思います。オンラインによるご相談にも対応していますので、どちらにお住まいの方でも、安心してご連絡ください。


記事の中ではご紹介できませんでしたが、取材時に、これまでにリハビリメイクを体験した方々のお写真を拝見しました。その症状はさまざまでしたが、皆さん、リハビリメイクを通じて顔の表情が明るく変化されているのが印象的でした。「症状をカバーする」という意味での変化はもちろん、「当事者が自分の外見を受け入れられるようになる」という意味での変化が、表情に現れていたのかもしれません。

また、ご自身も外見の悩みを抱えていた一人だった、かづきさん。そんなかづきさんだからこそ、当事者の気持ちを誰よりも理解することができるのだと感じました。かづきさんは、これからも多くの患者さんたちと向き合い続けます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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かづきれいこさん

かづきれいこさん

REIKO KAZKI主宰、歯学博士、公益社団法人顔と心と体研究会理事長。

医療機関と連携し、傷跡ややけど痕などのカバーや、それにともなう心のケアを行う『リハビリメイク』の第一人者として、多くの人が抱える「顔」の問題に、メンタルな面からも取り組むフェイシャルセラピスト。