病気や障がいがある方のきょうだいにあたるお子さんを「きょうだい児」と呼ぶことがあります。疾患と向き合う当事者のご家族は、「思うようにきょうだい児と一緒に過ごす時間を確保できない」などの葛藤を抱えているというお話も伺います。今回は、そういったご家族に寄り添い、きょうだい児を応援する活動を行うNPO法人しぶたねの活動をご紹介します。
代表の清田悠代さんは、ご自身がきょうだい児だった経験をお持ちです。きょうだい児を取り巻くさまざまな課題を肌で感じた経験から、病院でのきょうだい児の居場所づくり、小冊子「きょうだいさんのための本 たいせつなあなたへ」の作成と配布など、さまざまなきょうだい児支援を展開。また、きょうだい児支援者向けの活動や、4月10日「きょうだいの日(シブリングデー)」を通じた啓発活動などを通じ、きょうだい児の現状を伝える“たねまき活動”を行っています。今回は清田さんと、きょうだいのためのヒーロー・たねまき戦隊シブレンジャーのシブレッドにお話を伺いました。
※今回の記事では、親しみをこめて「きょうだい児」を「きょうだいさん」とさせて頂きます。
「君は1人ではないんだよ」の言葉に、思わず涙が止まらなくなった経験
「しぶたね」という名前にはどのような由来があるんですか?
清田さん: 「しぶたね」の「しぶ」は、「シブリング(sibling:きょうだい)」に由来した文字です。「たね」は、きょうだいさんが安心できる「場所」や、安心して話せる「人」が増えるように、そのたねをまく活動をしていこうという思いを込めてつけました。
活動を始めたきっかけについて、教えてください。
清田さん: 弟が心臓病を持っており、私自身、きょうだい児として過ごした時期がありました。また、その中で、きょうだいさんたちの現状を知ったことが、今の活動につながっています。例えば、病院では感染予防を理由に、小さなきょうだいさんは病室に入ることができない状況があります。私は当時中学生で、自分よりも小さなきょうだいさんたちが廊下で一人ぼっちで座っていたり、泣いていたり…という姿を見かけていました。このようなきょうだいさんたちの姿は今でも鮮明に覚えており、活動の芯になっています。
弟が亡くなった後、アメリカのきょうだい支援団体とつながる機会があり、きょうだい支援の第一人者であるドナルド・マイヤーさんと出会いました。マイヤーさんは、私がきょうだい支援の神様として慕っている方です。印象的だった出来事として、ワークショップでマイヤーさんがきょうだいさんたちに「君は1人ではないんだよ」と声をかけている際、思わず涙が止まらなくなったことがありました。自分が直接声をかけられたわけではなかったのですが、まるで中学生の頃の自分に声をかけてもらったような感覚だったんです。それまでの私は「きょうだいさんたちに、何かしたい。でも、何をしたら…?」と感じていましたが、マイヤーさんのおかげでその道筋が見えた気がしました。そして、2003年にしぶたねを発足し、2016年にはNPO法人となりました。
マイヤーさんの言葉があって、きょうだい児支援への活動が見えたんですね。
清田さん: そうですね。今振り返ると、弟が病気になった当時、中学生だった私は周りの大人から「お姉ちゃんは、大人として一緒に頑張れるよね」と声をかけられていました。そのため、当時の自分は「私も頑張って、弟の命を守っていくんだ」という気持ちでいましたし、「しんどい」とは感じていなかったように思います。きっと、中学生なりに「家族を守ろう」と考え、毎日を一生懸命に生きていたのでしょう。ただ、大人になった今、きょうだいさんの支援活動をする中で思うのは、「中学生って、まだまだ子どもだよね」ということです。もし中学生の頃の私に、「お姉ちゃんも、頑張っているんだよね」と声をかけてくれる大人がいたら…と思うこともあります。
そして、今も「しんどい」気持ちを受け止められることなく生活しているきょうだいさんたちがいます。その状況を「当たり前」と思っていたり、「自分はサポートを受けるべき立場ではない」と思っていたりするきょうだいさんたちが多い印象です。だから、小さな体でがんばっているきょうだいさんたちが、子ども時代を少しでも安心して過ごせるように、みんなでできることを考えていきたいと思っています。
知って欲しい、きょうだいさんやご家族を取り巻くさまざまな課題
きょうだい児やご家族からは、特にどのようなお悩みが寄せられますか?
シブレッド: しぶたねでは、公式には相談事業は行っていません。それでも、親御さんを中心にお悩みが寄せられることはあります。その中で感じるのは、頑張っていらっしゃる親御さんほど「自分は、まだまだ頑張れていない」と、ご自身を責めているのではないかということです。ですから、お話を伺う中で、親御さんにはきょうだいさんをすぐ笑顔にする力があるということ、すでに頑張っていらっしゃることをお伝えするようにしています。
また、きょうだいさんから直接お悩みが寄せられるということは、ほとんどありません。理由は、清田さんの話にもあったように、「しんどい」気持ちを受け止めることなく生活しているお子さんが多いからなのかもしれません。ですから、いざという時のために、できるだけつながりを持ち続けられるようにしています。きょうだいさんたちがピンチの時、私たちが少しでも力になりたいと考えているからです。
印象に残っている、きょうだいさんからのSOSはありましたか?
シブレッド: 小学校のとき1回だけイベントに参加してくれたきょうだいさんが、大人になってから改めて連絡をくれたことがあったんですね。最初にお会いしてから10年くらい経っていて、「あの時、『病気は誰のせいでもないよ』と声をかけてもらって、救われた感覚だった」と連絡してくれました。その後、そのきょうだいさんのお母さんが急に体調を崩されて、危険な状態になったんです。
清田さん: その時、「お母さんが倒れちゃった」と連絡をもらいました。内容は「セカンドオピニオンを聞ける病院を教えてほしい」ということでしたが、心配で、急いで病院へ向かいました。その子は、駆けつけた私にぎゅっと抱きついてひとしきり泣いた後、「やっと自分のための人がきた」と話してくれました。
残念ながら、お母さんは亡くなられました。そして、障がいがある方のケアを誰がするかという問題が生じ、そのきょうだいさんは責任感の強い性格だったこともあり、「自分が全部を引き受ける」と決めていました。そのために、大好きな仕事を辞めようとしていたんです。
シブレッド: このきょうだいさんの場合は、私たちもつながりのある方々のサポートもあり、結果的に仕事を辞めずにすみました。しかし、このような事例は、きょうだいさんたちの中では決して珍しいことでありません。
きょうだいさんでは、何かを我慢したり諦めたりということが上手になるケースが多いように感じています。このきょうだいさんも、大好きな仕事と出会い、やりがいを持って働いていましたが、「自分が仕事を辞める選択しかない」と考えていたようです。こんな風に「もう、この選択肢しかない」と追い詰められているきょうだいさんがいたら、私たちは「大丈夫。もっと、いろいろな選択肢があるよ」と伝えられる存在でありたいなと思います。そして、「あなたは大事な存在なんだよ」と伝え続けていきたいですね。
きょうだいさんを取り巻く環境には、さまざまな課題があるんですね。これは、4月10日「きょうだいの日(シブリングデー)」を制定した理由にもつながってきますか?
清田さん: そうですね。広く社会の方々が、きょうだいさんたちやそのご家族の実情を知るきっかけにもなればと、趣旨に賛同くださった方々と「きょうだいの日」を制定しました。アメリカにはもともと、「きょうだいの日(シブリングデー)」があります。「父の日」や「母の日」と同じような位置付けの記念日で、日本でもいつかそうなったらいいなと思っています。そして「きょうだいの日」を通じて、いろいろなきょうだいのかたちを認め合い、きょうだいさんに応援が届くような社会を目指したいです。
きょうだいさんたちの声に支えられている、シブレンジャーの活動
「シブレンジャー」が生まれたきっかけについて、教えてください。
シブレッド: きょうだいさんの味方となる存在として、たねまき戦隊シブレンジャーは誕生しました。今でこそ全身衣装(※手作り)を着て活動していますが、初期のシブレンジャーはお面をかぶっただけの状態で活動していました。今のシブレンジャーの形態に変わっていったのは、きょうだいさんたちの声が大きかったからだと感じています。
例えば、一緒に遊んでいたきょうだいさんが「ねぇねぇ、シブレッド!」と自然に声をかけてくれた時、その言葉が不思議なくらい心に染みました。また、夢の中にシブレンジャーが出てきたことを教えてくれたきょうだいさんもいました。このきょうだいさんは、ストレスの影響で夜に怖い夢を見るお子さんです。その子が「怖い夢を見たけど、シブレンジャーが助けてくれたんだよ」と、教えてくれたんです。こういったきょうだいさんたちの声が、シブレンジャーの力の源になっています。
怖い夢の中でも味方でいてくれるシブレンジャー、とても心強いですね。
シブレッド: 本当にありがたいことだなと思っています。きょうだいさんたちがシブレンジャーを一緒に育ててきてくれたのだと思いますし、感謝の気持ちでいっぱいです。一方で、コロナ禍になり、以前のようにリアルでの交流が難しくなってきました。そこで現在は、毎週金曜日20時から、オンラインでの交流の場を設けています。Zoom企画「シブレッドの へやのとびら あけておくね」です。
この企画は、きょうだいさんたちが、誰かと「おやすみ」を言い合って、少しでも安心して眠りにつけたらいいなと思い、始めました。嬉しいことに、毎回楽しみに来てくれるきょうだいさんもいるので、今後も続けていく予定です。詳細や申し込みについては、コチラの記事をご確認ください。
これからもきょうだいさんたちがいる限り、活動を続けていきたいですし、もしきょうだいさんが怖い夢を見た時でも一緒にたたかえるように、ぼくももっと頑張ります。
きょうだいさんたちが安心して育っていける社会をつくるために
今後の目標について、教えてください。
清田さん: 皆さんと一緒に、きょうだいさんたちが安心して育っていける社会をつくっていくことです。これは、私たちが活動を始めた当初からずっと変わらない目標です。
そのために、直接きょうだいさんたちと過ごす活動と両輪で、社会がきょうだいさんにとって優しくなるように、多くの方々にきょうだいさんたちのことを知ってもらいたいですね。親御さんや、医療施設や学校などの支援者の方々も悩んでおられる現状があるので、みんなでつながっていけたらうれしいです。
遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。
清田さん: もし、遺伝性疾患の当事者のきょうだいさんがこの記事を読んでいたら、「あなたは、1人ではないよ」ということをお伝えしたいです。私たちだけでなく、多くの大人が、あなたを1人にさせないためにさまざまな活動に取り組んでいます。私は「自分は、ここにいていいのかな?」とずっと感じていました。もし、そう思っている子がいたら、「ここにいていいんだよ」、「ここにいてくれて、ありがとう」とお伝えしたいです。
また、日々お子さんたちと向き合う親御さんには、「すでに、十分頑張られています」とお伝えしたいです。きょうだいさんの素敵なところはお家の中だけで完成するわけではないので、いろいろな大人に出会えるといいなと思いますし、その中で親御さんにも支えになってくれる人に出会っていただけたらうれしく思います。
シブレッド: そして、遺伝性疾患と向き合っている当事者の中には、ご自身が大変な思いをしながらも「自分がきょうだいさんに大変な思いさせているのではないか」と感じている方もいるかもしれません。でも、決して、そうではありません。毎日あなたがとても頑張っておられることは、皆さんわかっていますよ。だから、私たちにできることは全力で行いますし、これからも一緒に歩いていけたらいいなと強く思っています。
これからも、きょうだいさんを含め皆さんの素敵なところを発見して、伝えて、支えていけるように活動を続けていきます。
今回のお話で特に印象的だったのは、きょうだい児の声にもあった、「『病気は誰のせいでもないよ』と声をかけてもらって、救われた感覚だった」という言葉です。病気の当事者、親御さん、きょうだい児…さまざまな立場の人が、ご自身を責めた経験をお持ちかもしれません。だからこそ、本当につらい時のために、しぶたねのような場所を知って頂けたらと思います。
コロナ禍の影響もあり、きょうだい児が我慢しなくてはいけない機会は増えているかもしれません。そんな時は、まずはオンラインで「シブレッドの へやのとびら あけておくね」に参加されてみてはいかがでしょうか?しぶたねの活動を知って頂き、ぜひ、つながって頂けたらうれしいです。(遺伝性疾患プラス編集部)
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