お子さんの入院に付き添うご家族を支える、キープ・ママ・スマイリング

遺伝性疾患プラス編集部

幼い頃から入院治療が必要なお子さんたちと、それに付き添い、病院などに泊まり込んでお子さんの世話をするご家族がいます。制度上、親の付き添いは「原則不可」とされていますが、実際はさまざまな理由により病院側から要請されることも多いといいます。一方、付き添うご家族は医療保険給付の対象ではないため、食事やベッド(睡眠)など入院生活に伴うサポートは十分ではありません。このように、入院に付き添うご家族は、厳しい環境の中でお子さんの世話をしています。また、感染症対策により制限が多くなった昨今では、面会時間・プレイルームの利用制限などが設けられ、お子さんとご家族を取り巻く環境はより一層困難なものになっています。

今回ご紹介するのは、NPO法人キープ・ママ・スマイリングです。理事長の光原ゆきさんは、ご自身もお子さんの入院付き添いを経験されていたご家族。入退院を繰り返していた2人目のお子さんが亡くなったことを機に、2014年から活動しています。入院付き添いのご家族を「食」で支援する「ミールdeスマイリング事業」を中心に活動を続け、コロナ禍になるとご家族への緊急アンケートでニーズを把握したうえで長期付き添い生活に欠かせない物品を小児病棟まで届ける「付き添い生活応援パック無償配布事業」の活動を始めました。また、2022年9月には付き添い経験者が集まるお役立ちクチコミサイト「つきそい応援団」をオープンするなど、さまざまな活動を続けています。今回は、活動内容や光原さんご自身の経験について、お話を伺いました。

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(右下)NPO法人キープ・ママ・スマイリング理事長 光原ゆきさん

コロナ禍で孤立するご家族へ「食」や「生活必需品」を届ける

お子さんの入院にご家族が付き添う際の、環境における課題点を教えてください。

生活に最低限必要なサポートがご家族へ届いていない状況があります。例えば、泊まり込みで入院の付き添いをしているご家族では、食事をとることさえ簡単ではありません。私も入院付き添いの際は、子どもが寝た一瞬の隙を狙って、急いで病院内のコンビニにご飯を買いに行って…といった状態でした。このように食事をとることでさえ精一杯の状況ですから、「栄養満点な美味しいご飯を食べたい」という願いを叶えることは難しいと感じていました。実際に、私たちが2019年に実施した調査結果では、回答者の約8割が「栄養不足だった」としています(調査結果の詳細は、コチラから)。

「ミールdeスマイリング事業」は、どういった支援活動ですか?

お子さんの入院へ付き添いするご家族を「食」で支援する活動です。私自身、付き添いの際に特につらかったのは食事でした。今も日本全国で同じようにつらい思いをされているお母さん・お父さんたちを、少しでも応援したいという思いで活動しています。私たちの活動の原点は、「美味しいご飯を届けること」です。コロナ禍以前は、みんなで集まり調理した食事を小児病棟へ届ける活動を中心に行っていました。しかし、2020年1月を最後に、みんなで集まって調理した食事を届ける活動は基本的にお休みしています。現在は、地域の飲食店と連携してお弁当をお届けしたり、独自に開発した缶詰をお届けしたりする活動を行っています。都内の医療施設を中心に、活動に同意いただいた施設へお届けしています。

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「美味しい料理でお母さんを笑顔に」の思いを込めて、「ミールdeスマイリング」

一方、コロナ禍により、お子さんの入院に付き添うご家族を取り巻く環境は変化しています。私たちも、アンケートを実施するなどして多くの声を伺ってきました。

コロナ禍で、お子さんの入院に付き添うご家族を取り巻く環境はどのように変化していますか?

ご家族への制限が、コロナ禍以前よりも明らかに増えています。入院する医療施設によってルールはさまざまなので、全てのご家族が同じ環境ではありません。その中でも例えば、「付き添いの泊まり禁止」「面会時間の短縮」「面会回数・面会者の制限」などが生じていると伺っています。入院中のお子さんにとって、ご家族と過ごす時間は大切な時間です。きっと、お父さんやお母さんが近くにいてくれるだけで安心できることもあるでしょう。しかしコロナ禍では、そういった環境を維持できない状況があり、入院中のお子さんにとっても精神的な負担がかかっていると考えられます。また、きょうだいのいるご家族では、きょうだい児への負担も大きくなっていると伺います。詳細は、2020年4〜5月実施のアンケート調査「入院中の子どもと付き添い家族の困りごとや不安について」の結果をご覧ください。2年半前のデータですが、現状はそれほど大きく変わっていないと思います。

アンケート調査の結果からうかがえるのは、ご家族が病院内で孤立している状況です。例えば、病院内のコンビニへ買い物に行く場合であっても、時間や回数が制限されるケースがあるようです。感染症対策により、家から物資を持ってきてもらうことも難しい状況です。入院に付き添うご家族は、食べ物だけでなく生活用品も満足に入手できない状況になっていることが明らかになりました。また、院内の感染対策により、同部屋での会話やプレイルームでのコミュニケーションも制限されているケースがあるようです。このように付き添うご家族は、物理的にも精神的に厳しい状況になっているのです。

同時に、医療従事者への負担も増えています。ご家族の大変な姿を見て、心を痛めている医療従事者のお話も伺っています。そこで、コロナ禍での緊急支援として「付き添い生活応援パック」の無料配布を始めました。

「付き添い生活応援パック無償配布事業」は、どのような支援ですか?

長期入院中のお子さんに付き添うご家族向けに、長期付き添い生活に欠かせない食品、生活・衛生用品を無料で全国にお届けする取り組みです。2020年10月からスタートして、これまで3,300人以上のご家族へお届けしてきました。2022年4月1日からは対象を拡大し、病院に加えてファミリーハウスやホテルなどに宿泊し病院に通っている方も対象となっています。最大で年3回応援パックを受け取ることが可能なので、ぜひお役立ていただけたらうれしいです。応募概要などの詳細は、コチラからご確認ください。

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全国に「付き添い生活応援パック」を無料でお届け

私たちは、「応援の気持ち」を込めてご家族へお送りしています。ですから、梱包物は付き添い経験のあるスタッフを中心にアイディアを出し合い、付き添い生活に本当に役立つものにこだわってお届けしています。この活動を通じて、ご家族に少しでも「自分のことを応援してくれる人がいるんだ」と、感じてもらえたらうれしいです。

先輩ご家族の声をもっと身近に「つきそい応援団」

コロナ禍での新しい取り組みとして、「つきそい応援団」を開始されましたね。これは、どういった支援活動ですか?

「つきそい応援団」は、お子さんの入院に付き添ったことのある経験者が集まる、お役立ちクチコミサイトです。どなたでも無料で会員登録でき、掲示板へ投稿することができます。2022年9月30日のオープンから、すでに120人以上の方が会員になりました。

入院付き添い時にあると便利なもの、服装、便利グッズやノウハウ…など、さまざまなテーマで先輩方の経験を知ることができます。つきそい応援団で共有される経験は、あくまでも入院付き添い生活をより良くするための内容です。医療に関わる情報や、病気の相談などの投稿は取り扱っていません。ですので、ふらっとサイトを訪れていただいて、SNSのような感覚で気軽に皆さんとつながっていただくことができます。

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「つきそい応援団」ウェブサイトより

きっと、ご家族の多くは心の準備ができないままお子さんの入院に付き添うことになるのではないでしょうか。ですから、そういったご家族が気軽に頼れる場所の一つとして「つきそい応援団」を知ってもらえたらうれしいです。先輩ご家族を身近に感じていただき、入院付き添いに関わる「〇〇が知りたい!」と思った時に、ぜひ利用していただきたいですね。

つきそい応援団を立ち上げたきっかけについて、教えてください。

自身の入院付き添い経験がきっかけでした。「つきそい応援団」は、約8年前に長女と次女と一緒に病院へ泊まり込んでいた当時から考えてきた企画です。当時は、入院付き添いを繰り返していたので、自分でいろいろな工夫をするようになりました。例えば、「多床室の狭い空間で収納スペースを確保するためにS字フックを使う」といったことです。

また、入院先ならではの情報もわかってきます。私が付き添い中の食事に困っていた時、病棟で知り合った方に「病院の近くに、美味しいお弁当屋さんがあるよ」と教えてもらったことがありました。美味しいお弁当を食べられるようになっただけで、QOL(生活の質)がとても上がったと実感したんです。感謝の気持ちと同時に、「これから入院に付き添うお母さんたちにも、この美味しいお弁当屋さんを教えたいな。でも、私が退院した後にこの情報は引き継がれないのか…」と、歯がゆい思いをしました。だから、これから付き添われるご家族へ、入院付き添い経験の情報を共有できる仕組みをつくりたいと思ったんです。

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ご自身の入院付き添い経験をきっかけに始まった「つきそい応援団」
つきそい応援団は、経験を共有する「先輩ご家族」にとってはどういった場ですか?

ご自身の大変だった経験を、別のご家族の「役に立った!」につなげる場と考えており、ぜひそのような場にして欲しいと考えています。お子さんの入院付き添いは、大変な経験です。だからこそ、「大変な経験だった」だけで終わらせて欲しくないのです。私もそうだったのですが、大変な経験であっても他の誰かの役に立った時、「この経験は、意味のあることだったのかも」と感じることができると思うのです。私の場合は、大変だった経験が誰かの役に立つことで、自分にとっても救いになりました。

また、先ほどの話とも重なりますが、コロナ禍になり、お子さんの入院に付き添うご家族は孤立しがちです。以前は当たり前にできていたようなコミュニケーションさえ、なかなかできずにいます。ですから、今こそ先輩ご家族の声が必要な時だと思うのです。ぜひ、「つきそい応援団」を通じて、皆さんのお力をお借りできたらうれしいです。

入院付き添いご家族が必要としている支援を届けたい

光原さんが活動を始められたきっかけについて、教えてください。

私の2人目の娘は、先天性疾患を持って生まれました。入退院を繰り返して治療を受けていましたが、生後11か月頃に亡くなりました。この経験から2014年に立ち上げたのがこの団体です。

娘がいたからこそ、今の活動があります。苦しかった経験を、もし誰かの役に立てることができれば娘が生まれてきたことも意味があるのではないかと思うのです。当時の私が「あったらいいな」と思っていたことは、ご家族を「食」で支援する「ミールdeスマイリング事業」、お役立ちクチコミサイト「つきそい応援団」などの活動につながっています。だから、活動を通じて多くのご家族から届く「うれしかった」「ありがとう」「助かった」という声が私のエネルギー源です。

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「娘がいたからこそ、今の活動がある」と、光原さん。

一方で、独りよがりな支援にしてはいけないという思いもあります。ですから、定期的なアンケートを実施することで、皆さんが今本当に必要としている支援をお届けできるように心がけています。

今後、新たなご活動予定がありましたら、教えてください。

お子さんの入院に付き添うご家族の実態を調査して、その結果を「付き添い白書(仮)」として発表することを予定しています。厚生労働省によるご家族への支援策の検討が、事実上進んでいないためです(2022年11月現在)。厚生労働省は付き添い家族へのアンケート調査を行いましたが、回収率が不調だったために具体的な審議には至りませんでした。

求められる支援は、ご家族ごとにさまざまです。一方で、お子さんが安心して医療を受けられる体制をつくっていくための議論が進められていないために、現状、ご家族側にそのしわ寄せの多くがいっていると感じます。ですから、この議論を少しでも前に進められるように、白書として皆さんの声や体験をまとめ、厚生労働省をはじめ小児医療関係者に届け、支援策を検討する際の資料にしていただきたいと考えています。アンケート調査の詳細は、来春以降に公式ウェブサイトで発表予定ですので、ぜひご確認ください。

「あなたは決して1人ではない」全力でサポートしていく

お子さんの入院に付き添うご家族にメッセージをお願いいたします。

きっと、これまで皆さんが想像もしていなかった世界に足を踏み入れていることと思います。お子さんの病気や障がいの種類、また、どこの病院に入院されているかなど、さまざまな状況から皆さんが抱えているお悩みも異なると思います。だから、私たちも全力で皆さんをサポートさせていただきたいと思っています。さまざまな支援を通じて、「あなたは決して1人ではない」というメッセージを多くの方々にお届けできればと考えています。

特に、お子さんの入院期間が2週間以上必要な方がいらっしゃれば、ぜひ「付き添い生活応援パック」をご利用ください。また、「つきそい応援団」も活用いただけたらうれしいです。


「苦しかった経験を、もし誰かの役に立てることができれば娘が生まれてきたことも意味があるのではないかと思う」とお話ししてくださった、光原さん。一方で、「お子さんの入院に付き添うご家族へ必要な支援を届けたい」という思いが強いからこそ、アンケートなどを通じて常にご家族の声に耳を傾けていらっしゃる姿が印象的でした。

コロナ禍により、入院に付き添うご家族を取り巻く環境は、以前より厳しいものになっています。そんな今だからこそ、「付き添い生活応援パック」や「つきそい応援団」といった支援活動を知っていただけたらと思います。今後予定されている「付き添い白書(仮)」も含め、これからもキープ・ママ・スマイリングの活動から目が離せません。(遺伝性疾患プラス編集部)

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