病気と生きる当事者が安心して子育てをできる社会を、一般社団法人てくてくぴあねっと

遺伝性疾患プラス編集部

ご自身の持つ病気が社会に広く知られていないことで生じる、生きづらさがあります。闘病しながら子育てをする当事者もまた、お子さんの通う学校側から理解を得られないといった、さまざまな生きづらさを抱えています。

今回ご紹介するのは、闘病しながら子育てをする当事者の支援団体「一般社団法人てくてくぴあねっと」です。幼少の頃から「若年性特発性関節炎(小児リウマチ性疾患、以下、小児リウマチ)」と共に生きてこられ、現在、ご自身もまた闘病しながら子育てをするうえやまさんが立ち上げられました。今回は、てくてくぴあねっとの活動やうえやまさんの経験についてご紹介します。

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一般社団法人てくてくぴあねっと事務局の皆さん。(左)代表 うえやまさん

啓発活動、交流会、ピアサポートなど幅広い活動で支援

現在の活動内容について、教えてください。

私たちは、闘病しながら子育てをする方々や、その家族を応援する支援団体です。「様々な病気で闘病しながら子育てをしている人たちが暮らしやすく、自分らしく輝ける社会づくり」を目指しています。具体的には、大きく以下の4つの活動を行っています。

  • 啓発活動:闘病しながら子育てをすることに対する、社会的な認知を高めるための情報発信
  • 結びの活動:オンラインカフェ、LINEオープンチャットでの交流
  • 応援活動:ピアサポート、セミナー、講演会、シンポジウム
  • 調査研究活動:Webアンケート調査の実施
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公式ウェブサイトより

「啓発活動」は、闘病しながら子育てをする当事者への認識を高める目的で行っています。現状は、社会的な認識が低く、当事者への支援が足りていないと感じています。また、当事者への偏見といった課題もあります。それらを改善していくために、啓発活動を行っています。例えば、てくてくぴあねっと創立記念日でもある11月15日「闘病子育ての日」を記念し、絵本のプレゼントイベントを開催しました。これは、病気を抱えながら子育てをするお父さんやお母さん、そのお子さんが、絵本をきっかけに家族で楽しく過ごす時間を作っていただくために企画・実施したものです。SNSなどを中心に発信し、多くの方々に知っていただけました。

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絵本の発送など、イベントの準備をする様子

「結びの活動」は、当事者同士が交流できる場をつくる活動です。つながることで、悩んでいることも気軽に相談できるような場づくりをしています。

「応援活動」では、当事者を応援するさまざまな活動を行っています。その一つに、ピアサポート事業があります。お話を聞くのは「闘病子育てぴあサポーター」といって、さまざまな病気を抱えながら子育ての経験を持つ親御さんたちです。

「調査研究活動」では、闘病しながらの子育てに対する課題、当事者の悩みについて、定期的にアンケート調査などを行っています。調査結果を発信していくことで、啓発活動にもつなげています。

「結びの活動」について、もっと詳しく教えてください。

LINEオープンチャットでは、闘病中のお父さんやお母さん限定でコミュニケーションを取っています。ニックネームでの投稿になるので、SNSのように気軽に参加することができます。もしつらいことがあっても、自分が抱えているものを安心して吐き出せる場所があるというのは大切なことだと思います。抱えている病気はそれぞれ異なりますが、皆さん同じように闘病しながら子育てをする当事者です。そういった仲間だから、安心して吐き出せるのだと思います。LINEメンバー限定で、交流会なども定期的に開催しています。

その他、LINEメンバーに関わらず、闘病中のお父さんやお母さんであればどなたでも参加できる交流会「オンラインカフェ」も開催しています。オンラインでの交流会なので、ぜひ気軽に参加いただけたらと思います。

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オンラインカフェの様子
「応援活動」について、詳しく教えてください。

ピアサポート事業の「ピアカフェ」は、月1回開催しています。個別相談は、申し込みがあれば随時対応しています。相談者の話したい内容をもとに、闘病子育てぴあサポーターとマッチングさせていただくことで、より話しやすい場をご提供しています。また、私を含め運営側も当事者のため、基本的にオンラインでの活動が中心です。お住まいの地域に関わらず、どなたでも気軽に参加いただけたらうれしいですね。

闘病子育てぴあサポーターには、どのようにしてなるのですか?

病気を抱えながら子育ての経験がある方で、かつ、私たちが運営している養成講座を受講して趣旨を理解していただいた方々にお願いしています。

養成講座は今年度に第1回を開催し、2023年1月現在7名が闘病子育てぴあサポーターとして活躍されています。養成講座の開催は年に1~2回を予定していて、受講料は無料です。次回の開催は、2023年春頃を検討しています。詳細は公式ウェブサイトやSNSで発信しますので、ぜひご覧ください。

「1人で抱えてきた思いを吐き出して、気持ちが楽になった」の声

活動に参加される方々からは、どのような声が寄せられていますか?

「これまでずっと1人で抱えて込んできたけど、思いを吐き出したら気持ちが楽になった」「話を聞いてもらったら、自分の気持ちが整理された」という声をよくいただきます。こういった声をいただくたびに、安心して話せる場は大切だなと感じます。

これまでは、闘病しながら子育てをする当事者が安心して話せる場所が無かったのだと思います。私もそうでしたが、自分の中に思いを閉じ込めておくことしかできなかったのが現状です。例えば、思いを話し始めて涙が止まらなくなる当事者の方もいらっしゃいます。それだけ、知らず知らずのうちに追い詰められている方が多いのでしょう。

活動を通じて、当事者からはどのような悩みが寄せられていますか?

参加される皆さんはさまざまな病気をお持ちなので、病気の種類によっても悩みは異なります。病気に関わらず、皆さんが共通してお持ちなのは「利用できる支援」に関わる悩みです。

病気を抱える親御さんに対する子育て支援制度は、現状、なかなか十分と言えません。そのため、「自分が利用できるものはないか?」とお問い合わせいただくことが多い印象です。公的な子育て支援制度だけでは足りない場合が多いので、民間の支援に関わるお問い合わせもいただきます。例えば、自分もそうだったのですが、「自身の通院や入院の際に、子どもを誰に見てもらうか?」といった問題があります。パートナーがいる場合でも、きっと急に仕事を休むことは難しいでしょう。実家や義理の実家が遠方の場合であれば、より支援が必要になります。一方で、常に民間の支援を利用することになれば、金銭的な負担も大きくなります。闘病しながら子育てをする当事者ですと、こういった悩みは日常的にあると思います。

今後、新たな活動に取り組む予定はありますか?

当事者の皆さんのお悩み解決につながるような活動を考えています。例えば、まだ企画検討中の段階ですが、闘病中の親御さんへ家事負担軽減のための物資提供を考えています。当事者の方々へのアンケート調査などから、家事の中でも特に「食事づくり」に関わる負担を感じている方々が多いことがわかっています。そこで、食事の支援をできないかと考えています。

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検討中の「ごはんサポート(仮)」

また、お子さんへの支援も検討中です。これも、当事者へのアンケート調査の結果から見えてきた課題です。具体的には、お子さんの悩みや不安な気持ちを共有できるような場をつくりたいと考えています。親御さんの病気により、お子さんが日頃から心配しすぎるようになったり、ふさぎ込むようになったりする場合があります。例えば、お子さんが「お母さん(お父さん)が、いなくなっちゃうんじゃないか」と不安に感じる、といったケースです。こういった不安を和らげるような支援をしたいと考えています。

うえやまさんご自身もまた、闘病と子育ての両立で追い詰められた経験

活動を始めたきっかけについて、教えてください。

私は、1歳10か月頃の時に小児リウマチと診断され、病気とともに生きてきました。小児リウマチは、慢性的に関節の炎症が生じる原因不明の病気です。結婚、妊娠・出産を経て、子育てが始まると、闘病との両立の難しさを知りました。そして、私は次第に孤立していったんです。中でも、さまざまな制度のはざまで利用できる制度が少なかったというのは大きな要因の一つだったと思います。また、振り返れば当時は、周りに同じような境遇の方がおらず、上手に気持ちを吐き出すことができなかったことも大きかったですね。

当時は支援団体などもなかったことから、「それなら、自分で始めよう」と決意しました。2020年10月に、前身となる任意団体「Be yourself~闘病も子育てもがんばるあなたと~」として活動を開始し、2021年11月には一般社団法人「てくてくぴあねっと」として活動を始めました。

子育てと闘病との両立は、どういった所で難しさを感じていましたか?

気軽に頼れるような支援制度がなかったことは、大きかったと振り返ります。私の場合は、1人目の子どもを妊娠するまで仕事をしていました。しかし、リウマチの症状が活発化していたこともあり、妊娠のために仕事を辞めて療養に専念することにしたんです。そして、ようやく妊娠できたのですが、出産後にまた症状が悪化しました。そのため、強い痛みがある中で、育児をしなければなりませんでした。痛みは、泣いている子どもを抱っこしてあやすことができないほどのものでした。当時、あまりにも痛みがひどくて病院を受診したいと思っても、自分の場合は、子どもを一次的に預かってくれるような支援を利用できませんでした。主人も日中は仕事をしていますし、頼ることは難しい状況だったんです。

また、子どもの通う保育園とのやり取りでも困難な状況が生じました(現在は、とても理解のある先生方にお世話になっているのですが、当時は、今とは別の先生方が担当でした)。例えば、リウマチの症状がひどくなると、保育園への送り迎えさえ難しくなります。代わりに主人にお願いする場合は、仕事の前後でないと難しい状況です。しかし、自分が仕事をしていないことを理由に「病気はあっても、送り迎えはできる」と判断されました。先生方に、自分の病気のことを理解してもらうことは本当に難しく、そのやり取りだけで精神的に追い詰められていました。

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身体的にも精神的にも、つらい状況が続いた(写真はイメージ)

2人目の子どもが生まれた後は、コロナ禍の影響も受けることになりました。具体的には、感染症対策を理由に、以前は利用できていた支援を利用できなくなるといったことです。保育園の親御さんたちは働いている親御さんが多く、自分と同じように病気を抱えていることで感じる育児の不安などを気軽に相談することも難しかったです。こういった状況が重なり、次第に孤立していったように感じます。

もし、通院時に子ども(赤ちゃん)を確実に預かってもらえたり、保育園の送迎時間を配慮してもらえたりするなど、病気を抱える親が利用できる支援制度があったら、また、安心して気持ちを共有できる場があったら…。少し、状況は変わっていたのかもしれません。

さまざまな状況が重なり、追い詰められていったのですね。

そうですね。こういった経験を強いられる当事者は多くいらっしゃる印象です。しかし、たった一人で声をあげるのは決して簡単なことではありません。ですから、団体としてこのような状況を発信していくことが大切だと考えます。

「自分が悪い」と思わないで。あなたは、すでにたくさん頑張っている

遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

病気を抱えながら、さらに子育ても…という状況では、精神的に追い詰められることが多くあると思います。でも、あなたは、決して1人ではないことを知っていただきたいです。仲間はたくさんいます。

また、これまでに関わらせていただいたお父さんやお母さんの中には、自分のことを責めている方々、お子さんに対して「何もできなくてごめんね」と罪悪感を抱いている方々がたくさんおられました。でも、「自分が悪い」と思わないで欲しいです。なぜなら、すでにたくさん頑張っている親御さんたちばかりだからです。

もし、一人で思いを抱えていることがしんどくなっている方がいらっしゃったら、ぜひお話を聞かせてください。また、もし他のお父さんやお母さんたちの話を聞いてみたいと思ったら、私たちの活動に参加してみてください。交流会はもちろん、まずはLINEのオープンチャットから気軽に参加してもらうのもおすすめです。みんなで一緒に頑張りたいと思っているので、ぜひ、つながりましょう。


ご自身もまた、闘病と子育てにより追い詰められた経験をお持ちのうえやまさん。同じようにギリギリの所で踏ん張っている親御さんたちにとって、てくてくぴあねっとの活動は大切な拠り所の一つなのだと思います。「これまでずっと1人で抱えて込んできたけど、思いを吐き出したら気持ちが楽になった」という声からも、当事者が安心して思いを共有できる場だということが伝わってきました。

もし、つらい思いを抱えている方がいらっしゃったら、支援の選択肢として、てくてくぴあねっとの活動を知ってもらえたらと思います。当事者が安心して子育てをできる社会をつくるために、これからも、てくてくぴあねっとの活動は続きます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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