「メタバース面会アプリ」臨床研究開始、ぬくもりを感じるコミュニケーション実現に期待

遺伝性疾患プラス編集部

順天堂大学と日本アイ・ビー・エム株式会社は、メタバース上で入院患者さんとの面会ができるメタバース面会アプリ「Medical Meetup」を共同で開発し、8月1日より、同アプリの運用・臨床研究を順天堂大学医学部附属順天堂医院で開始したと発表しました。

対面での面会が難しい状況において、ぬくもりのあるコミュニケーションの実現を目指し、開発されたという同アプリ。ぬくもりのあるコミュニケーションは、どのようにして可能になったのでしょうか?今回の記事では、同アプリのご紹介に加え、順天堂大学のご担当者に伺ったお話をご紹介します。

Medicalmeetup 01
JUNTENDO News&Eventsより

電話やオンラインによる面会、対面のようなぬくもりを感じにくいことが課題

ご家族や親しい人との面会は、入院中の患者さんにとってストレス軽減などにつながり、病気に立ち向かう力になることもあります。一方で、高度な医療を受けるために入院していると面会が難しかったり、感染症の流行などで面会が制限されたりする状況もあります。また、身支度などによる面会への気遣いや遠慮、時間的な制約により、面会がかなわないことも少なくありません。

このような状況では、電話やオンラインによる面会が行われることがあります。しかし、気軽にコミュニケーションできる一方で、対面のようなぬくもりを感じにくいことが課題として挙げられます。その解決策の1つとして開発されたのが、今回ご紹介するメタバース面会アプリです。

アバター同士でハイタッチなど、擬似的に触れ合える

今回開発されたメタバース面会アプリでは、アバター(利用者に紐付けられたキャラクター)を用いて、患者さんと面会者が仮想空間(オンライン空間)の中で交流します。アバターを通じて、仮想空間の中でなりたい自分に変身することができます。また、リゾート施設などの非日常空間で話すことができたり、気球などの乗り物に乗って一緒にお出かけしたりすることも可能に。通常の面会ではできないような体験を、患者さんと面会者で一緒に楽しむことができます。

また、同アプリの特徴の1つに、従来の電話やオンライン面会で課題だったぬくもりのあるコミュニケーションを可能にする機能があります。具体的には、アバター同士がハイタッチなどで、擬似的に触れ合うことができるようになりました。

Medicalmeetup 02
JUNTENDO News&Eventsより

その他、患者さん・医療従事者の使いやすさを考慮してデザインしていることも特徴の1つです。例えば、点滴を受けていて腕の動作に制限がある患者さんが利用できるように、アバターを操作するコントローラーの位置をご自身でカスタマイズできます。

なお、同アプリは、複数の利用者同士のコミュニケーションを支援するための環境を提供するものです。医学的アドバイス、診断、治療、予防などは目的としていません。対応OSは、iOS、iPad OS(11.0以降)(2023年9月現在)。対応デバイスは、iPhone 8以降、iPad第7世代以降です。8月2日より、App Storeで無料配信されています。

順天堂医院小児医療センターに入院中の小児患者さん・ご家族対象の臨床研究

8月1日より、順天堂医院小児医療センターに入院している小児患者さんとご家族を対象に、同アプリの運用・臨床研究が開始されました。アプリを通じて触れ合う機会が増えることにより、患者さんとご家族がより元気で心穏やかに過ごせることを目指しているそうです。臨床研究では、面会をサポートする医療従事者も含めて同アプリを評価。今後、その結果をもとに、改善が検討されるそうです。

実際に使った患者さんから「楽しかった」「簡単に使えた」の声

ここからは、順天堂大学にご協力いただき、メタバース面会アプリのご担当者に伺ったお話をご紹介します。

アプリの利用者は、どのような患者さんを想定されていますか?

アプリはApp Storeにて配信されているため、iPhone/iPadを利用されているユーザーさんでしたら、どなたでもご利用いただけます。ただ、まずは入院されている患者さんとそのご家族やご友人のご利用を想定しております。今回の臨床研究では、順天堂医院小児医療センターに3日以上入院されている白血病などの小児患者さんとそのご家族にご参加いただく予定です。今後は、患者さんのコミュニティーや、患者さんと医療関係者のコミュニケーションにもご活用いただけると考えております。

アプリの利用が難しいケースはありますか?

視覚障害(全盲)や手指が動かしづらい患者さんは、アプリの利用が困難なことがあります。しかし、アバターを動かすコントローラーの配置をご自身の使いやすいように設定できたり、音声だけではなく動きやテキストチャットによるコミュニケーションもできたりするなど、さまざまな患者さんにご利用いただきやすいように配慮しております。現在、臨床研究で患者さんの利用に対するご意見を収集している最中で、内容を精査のうえ患者さんにより使いやすくなるように改修を予定しております。

実際にアプリを利用した方からは、どのような声が寄せられていますか?

現在、順天堂医院小児医療センターに入院されている患者さんにご利用いただいており、感想を収集中です。その一例として、下記のような声をいただいております。

患者さん:「家族とお話したり追いかけっこができて楽しかった。このアプリをたくさん使いたい。お友だちにもこのアプリを使ってほしいと思う」

患者さんご家族:「アプリの中で色々歩けたり、乗り物にも乗れて(患者である)子どもが喜んでいた。このアプリがあれば面会の頻度はどちらかといえば増えると思う」

また、院外でのイベントで展示した際には、最初はアプリ操作に慣れていない方が一定数いましたが、来場された大人もお子さんもすぐに操作に慣れて使いこなしていました。実施後アンケートでは、特に、未就学、低学年のお子さん全員から「簡単に使えた」「利用は難しくない」との意見をいただくなど、皆さんが楽しくご利用された様子が確認できています。


今後は、メタバース面会アプリをさまざまな医療機関へ展開し、国内外の患者さんの面会体験の向上や病気に立ち向かう力を支援する基盤にすることを目指すそうです。また、身近な方との面会だけでなく、医療講演会や遠隔診療といった各種医療サービスも提供も視野に入れているとのことです。(遺伝性疾患プラス編集部)

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