入院中のお子さんへアートを届ける活動、認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン

遺伝性疾患プラス編集部

遺伝性疾患をお持ちのお子さんやご家族では、幼少の頃から入院生活を送られている場合もあります。ここ数年、コロナ禍をきっかけに、以前よりも入院生活における制限が増えていると伺います。プレイルームで遊ぶ時間や使えるおもちゃの種類、ご家族との面会時間の短縮など、制限の内容もさまざま。入院中のお子さんやご家族、そして医療従事者の方々にとっても、大変な状況が続いています。

今回ご紹介する「認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン」は、音楽の演奏などさまざまなアート活動を入院中のお子さんへお届けする活動を行っています。全国160~170名ほどのアーティストが所属。現在もさまざまな制限を強いられる入院中のお子さんたちへ、オンライン配信なども用いてアートをお届けしています。代表理事の松本恵里さんは、教員として7年間院内学級のお子さんたちと関わった経験をきっかけに、活動を始められました。今回の記事では、現在の活動内容や実際に参加されたお子さんたちの声をご紹介します。

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認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン代表理事 松本恵里さん

音楽の演奏・絵本の読み聞かせ・バルーンアートなど、オンラインでの配信も

現在の活動内容について、教えてください。

医療施設などに訪問し、アーティストが参加型のプログラムを提供する活動を行っています。音楽の演奏、絵本の読み聞かせ、バルーンアート、大道芸といった幅広いアートをご提供しています。新型コロナウイルスの影響で感染症対策がより求められるようになった現在は、医療施設側の状況にあわせてオンライン配信でのアート提供などが中心になっています。

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アーティストが参加型のプログラムを提供する(※写真は、コロナ禍前の様子)
オンライン配信では、どのようなアートを提供されていますか?

訪問していた頃と大きく変わりはないですが、オンライン配信では、一方通行ではなく双方向のやり取りが成立するよう工夫しています。音楽と組み合わせたアートなど、お子さんたちは特に喜んでいますね。

音楽だけでなく、ものづくりもオンラインを通じて行っています。例えば、事前に医療施設へ作業セットをお送りして、折り紙やペンケースづくりを一緒に行う活動です。カメラを2台用いて、1台は手元を映して作り方を詳しくお届けし、もう1台でアーティストの顔を見ながらお話を聞いていただくなど、オンライン配信ならではのやり取りを行っています。その他、工作、塗り絵、バルーンアート、大道芸などの動画を公式YouTubeアカウントで公開しています。どなたでもご覧いただけますので、ぜひチェックしてみてください。

トランプのマジックもお子さんたちからご好評いただいています。実際に参加したお子さんが、「退院したら、学校の友だちにマジックを披露するんだ!」と、今も練習してくれているそうです。そのお子さんは、お贈りしたトランプを今も宝物のように大事にしてくれているとのことで、そういったお話を伺うと、私たちもうれしいです。

コロナ禍の影響で、以前より、入院生活を送るお子さんやそのご家族、医療従事者への負担が大きくなっていると伺います。私たち自身も活動が制限されている状況ですが、今だからこそ活動を続けていきたいと考えています。お子さんたちの楽しそうな笑顔を見るたびに、私たちも活動を続ける勇気をいただいています。

登録されているアーティストボランティアは、全国でどのくらいいらっしゃいますか?

北海道から沖縄まで、全国で160~170名ほどのアーティストがいます(2023年8月現在)。中には、ご自身もまた闘病生活を送った経験がある方、ご家族が病気や障がいと向き合っておられる方もいらっしゃいます。

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アーティストは、北海道から沖縄まで全国にいる(※写真は、コロナ禍前の様子)

以前は、アーティストの活動拠点から近い医療施設に訪問するスタイルでしたが、コロナ禍でオンライン配信が中心になってからは、遠方の医療施設へもアートをお届けできるようになりました。YouTubeでアーティストの紹介動画を配信するようになったのも、コロナ禍がきっかけです。

活動を通じて、医療従事者からはどのような声が届いていますか?

「子どもたちの生活の質が上がりました」など、いつも前向きなお声をいただいています。感染症対策の強化で制限が増え、以前よりもお子さんの抱えるストレスが増えていると伺います。そして、医療従事者側も心苦しい思いを抱えていらっしゃいます。ですので、私たちの活動が少しでもお子さんたちの笑顔につながったらと思い、活動しています。

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「活動が少しでもお子さんたちの笑顔につながったら」と、松本さん(※写真は、コロナ禍前の様子)

小児がんのお子さんのエピソード

活動を通じて、特に印象的だったお子さんやのエピソードについて、教えてください。

特に印象に残っているのは、小児がんのお子さんとプロのバイオリン奏者、そしてピアニストのエピソードです。そのお子さんとは、私たちが活動を始めてすぐに訪問するようになった医療施設で出会いました。小児がんの治療で長く入院しておられた男の子で、当時は小学校高学年でした。プレイルームに集まって行う活動には、高学年の男の子だと照れてなかなか参加できないケースもあるんですね。彼も、少し照れていた様子で、自分の病室に戻ってはプレイルームに戻ってくることを繰り返していました。その日は、バイオリンとピアノのセッションの活動日で、お子さんたちからリクエストをもらった曲を即興で演奏したり、皆さんと一緒に歌ったりしていました。

私は、彼が何かを言いたそうにしている気がして、話しかけてみたんです。すると、彼は「フルートをずっと習っているんだ」と話してくれました。アーティストが「もしかして、病室にフルート置いているのかな?」と尋ねると、「うん、置いているよ」と教えてくれたんです。そこで急きょ、彼にもフルートを持って来てもらい一緒に演奏してもらうことに。プロのアーティストたちと一緒に、彼にも皆の前で演奏をしてもらいました。演奏を聞いたお子さんや親御さん、近くのナースステーションにいた看護師さんたち、皆さんが感動されている様子で、中には泣いている方もいるほどでした。演奏が終わり、しばらく拍手が鳴りやまなかった光景が今でも思い出されます。その光景と、彼の照れたようなうれしそうな表情を見て、本当にうれしく感じました。

参加されたご家族の言葉で、印象に残っているものはありますか?

「私自身も救われた」というご家族の言葉は、特に心に残っています。私たちの活動に参加されるお子さんの様子を見て、喜んでくださるご家族は多くいらっしゃいます。中には、涙を流して喜ばれるご家族もおられます。病気と向き合いながら生きていくことは、当事者のお子さんはもちろん、そばで支えるご家族にとっても大変なことが多いでしょう。ですから、私たちの活動に参加されている時だけでも、ご家族の負担が和らぐようなお時間をお届けできたらと思います。

当事者・ご家族が、ご自身の入院する病院へスマイリングホスピタルジャパンを新規でお呼びしたいと考えている場合、お問い合わせは可能でしょうか?

はい、ぜひお問い合わせいただければと思います。公式ウェブサイトのお問い合わせフォームからご連絡ください。その際に、当事者・ご家族からも病院側へご希望をお伝えいただけると、私たちの活動がお届けしやすくなるかと思います。

活動の原点は、院内学級の子どもたちと過ごした経験

活動を始められたきっかけについて、教えてください。

教員として院内学級の配属になった際に、病気と向き合うお子さんたちと過ごした経験が、今の活動につながっています。私は、以前は別の仕事をしていましたが、子育てをしながら英語の教員を目指しました。そして、通信制大学で教員免許を取得した後、院内学級の配属となったのです。

院内学級で出会うお子さんたちの中には、亡くなっていく子もいます。自分の無力さを痛感する中で、「それでも、自分にできることをしなければ」という思いが強くなっていきました。大変な治療と向き合うお子さんたちには出来るだけ希望を持ってほしいと思いましたし、残り時間が少ないお子さんたちには、最後まで楽しい時間をお届けしたいとも思いました。そして、音楽や図工の時間などアートの活動をしている時、特にいきいきしているお子さんたちの姿に気付きます。その頃から、教員の枠を超えて、もっとお子さんたちに笑顔を届けられるような活動をしたいと考えるようになっていきました。その頃、以前の職場の上司から声をかけていただいたのが、ハンガリーで活動していたスマイリングホスピタルです。日本での活動を打診された時、「やりたいと思っていた活動そのものだ」と感じました。

夢中になって自分の世界に没頭する時間は闘病中においても生きる喜びや成長につながるという思いで、活動を続けています。コロナ禍による活動制限などさまざまな困難はありますが、活動をやめようとは一度も考えたことがありません。病気と向き合うお子さんたちが少しでも笑顔になれるように、これからも私たちは活動を続けていきます。

「学びサポート」など、活動はアート提供に留まらず

アートの提供以外では、どのような支援活動を行われていますか?

重症心身障害をお持ちのお子さんのご自宅を訪問し、学習支援をする「学びサポート」を行っています。2017年から始めた活動で、通常の環境では勉強が難しいお子さんたち向けに学習を支援しています。

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お子さんのご自宅を訪問し、学習支援

「学びサポート」では、お子さんたちの困難さに合わせて、オリジナルの教材をご提供しています。時に、学習支援員側が意図していなかった気付きがあったり、お子さんたちが自らさまざまな発見をしてくれたりします。

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「学びサポート」オリジナルの教材

「学びサポート」の活動で大切にしていることは、学習支援員と当事者・ご家族との信頼関係です。そのため、お子さんが特別支援学校を卒業した後、担任だった教員が学習支援員として継続して関わっていく形をとることが多いです。月に1回ご自宅を訪問し、卒業後も継続して学習できる環境を整えています。

今後、新たな活動に取り組むご予定がありましたら、教えてください。

学びサポートで関わっているお子さん向けに、服を着脱しやすくお直しする活動を始めました。重症心身障害をお持ちのお子さんの場合、体を動かすことが困難な場合があります。そのため、服の着脱も難しく、苦労されているというご家族や医療従事者の声を伺います。今後は、普段着から学校の制服までさまざまな服に対応し、お子さんにあわせてお直しする活動に発展させたいと検討中です。今は、事業化に向けて進めている段階です。

その他、お子さんの中心静脈(CV)カテーテル用の保護カバーを作り、提供させていただく活動も始めました。ご家族や医療従事者のお話を伺う中で、皆さんの負担が少しでも減ったらいいなという思いで始めた活動です。

新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類感染症になり、訪問活動を再開した医療施設もあります。しかし、今もなお、コロナ禍前と同じような活動は難しい状況です。一方で、つながりのある医療施設とは今もコミュニケーションを取っていますので、私たちが少しでもお力になれることを見つけながら、今後に向けて試行錯誤を行っている状況です。

一人でも多くのお子さんたちへ笑顔をお届けしたい

遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

私は病気と向き合う当事者ではないですが、医療環境を変えたいと考えているという点では当事者です。お子さんたちの療養生活が少しでも生き生きとした成長につながる楽しいものになるようにと芸術プログラムをお届けしたいと考え活動していることは、最後にお伝えしたいと思いました。もし、私たちの活動に興味を持ってくださいましたら、ぜひお声がけいただけるとうれしいです。アートに触れたり、一緒にものづくりに挑戦したりすることで、お子さんたちの中で新しい変化が生まれるかもしれません。これまでの活動を通じて、多くのお子さんたちが笑顔になっていく姿を見てきました。この体験を、一人でも多くのお子さんやご家族へお届けできたらうれしく思います。

最後に、医療従事者の皆さまへ。「アートの活動はお子さんの感情をつくるきっかけになる」と、私は考えます。つらく大変な入院生活の中で、感情をうまく表に出せずにいるお子さんもいらっしゃるかと思います。ですから、私たちの活動をきっかけに、お子さんに新しい発見や、生きる喜びをお届けできたらうれしく思います。コロナ禍の影響などもあり、今、医療の現場でお子さんたちと向き合われている皆さんは、以前よりも多くの困難と直面されているでしょう。もし、私たちの活動を通じて皆さんの負担を減らすことができたり、お力になれたりすることがありましたら、ぜひお声がけください。

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「アートの活動はお子さんの感情をつくるきっかけになる」と、松本さん

アートに触れて、笑顔になっていくお子さんたちのお話。そして、そのご家族もまた「救われた」とおっしゃっていたエピソードなど、スマイリングホスピタルジャパンの活動の影響を改めて実感する取材となりました。

一方で、病院を訪問する活動形態だったことから、コロナ禍の影響を強く受けたそうです。しかし、オンライン配信やYouTubeでの動画を通じて、活動を続けることをやめませんでした。「活動をやめようとは一度も考えたことがありません」とおっしゃっていた、松本さん。「病気と向き合うお子さんたちへ笑顔をお届けしたい」という松本さんたちの強い思いがあるからこそ、活動が続いているのだと実感しました。スマイリングホスピタルジャパンの活動に興味を持ってくださった方は、公式ウェブサイトのお問い合わせフォームからご連絡ください。(遺伝性疾患プラス編集部)

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松本恵里さん

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認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン代表理事