病気や障がいがある方の困りごと解決をお手伝い、みんなの〇

遺伝性疾患プラス編集部

病気や障がいがある当事者の皆さんは、日常生活の中でさまざまな困りごとと向き合っていらっしゃると思います。主治医の先生や同じ当事者に相談するなど行動してみるものの、きっと、中には解決が難しい困りごともあることでしょう。そんな時、当事者支援を行う団体に直接相談してみるという選択肢もあるかもしれません。

今回ご紹介する「みんなの〇(まる)」は、当事者の困りごとを解決するための活動や製品開発を行う社会的企業・社会活動家の団体です。例えば、視覚障害がある方向けの『高感度ナビてぶくろ』は、“目の代わり”となる手や指先の負担を軽減するために開発された手袋です。また、『ことば伝わるマスク』は、聴覚障害がある方が相手の口元を見て情報収集できるように開発されたマスクです。代表の吉岡忠助さんは、幼少の頃からさまざまな社会課題に関心を寄せ、活動してきました。現在も、病気や障がいがある方の声を直接伺いながら、課題解決のお手伝いをしています。今回は、同団体の活動内容についてお話を伺いました。

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みんなの〇代表 吉岡忠助さん

「コロナ禍」で誰もが困難を抱える当事者となったことが転機に

活動を始めたきっかけについて、教えてください。

僕たちは、2016年頃からチャリティーイベントの開催などを通じて少しずつ活動していました。そこから本格的に活動するようになったきっかけは、2020年から始まったコロナ禍です。理由は、大きく2つあります。1つ目は、新型コロナウイルスの感染拡大により、これまで以上に病気や障がいがある方からお悩みを伺うようになったことです。2つ目は、誰もが困難を抱える「当事者」となったことで、自分ごととして捉え考えてもらえるチャンスとなり普段は届きにくい声も届きやすくなるのではないかと考えたためです。

さまざまな社会課題と向き合ってきた中で僕たちが感じているのは、当事者意識を持ち続けることの難しさです。例えば、大きな災害が発生した時、被災した地域以外にお住まいの方々は、時間が経つにつれて当事者意識を持ち続けることは難しくなるのではないでしょうか。病気や障がいに関しても同じで、直接関わりのない方々が当事者意識を持ち続けることには限界があると感じています。もちろん、当事者や支援者から「課題を知って欲しい」と声をあげることは大切だと思います。一方、それだけで社会全体に高い関心を持ってもらうのは簡単なことではないとも感じています。

コロナ禍では長期間、誰もが同じ困難を抱える当事者となりました。そんな状況だからこそ、他の社会課題にも目を向けていただけるチャンスかもしれないと考えたのです。一緒に活動する仲間の中には、病気や障がいがある当事者もいます。仲間たちと話す中で、次から次へと課題が明らかになってきたこともあり、それらを解決する方法を一緒に考え始めました。

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(みんなの〇ご提供)
みんなの〇の活動には、どのような方々が参加されていますか?

病気や障がいがある当事者のほか、多くの社会課題と向き合っているメンバーも一緒に活動しています。医療や福祉に加えて、環境問題や世界の子どもたちへの支援といった幅広い社会課題と向き合う仲間がいます。多様な視点を持つ仲間たちのおかげで、一人では気付くことが難しい視点を得ることができたり、他の社会課題の解決策からヒントを得ることができたりするなど、僕自身も日々、刺激を受けながら活動しています。

視覚・聴覚障害がある方向けの製品開発など、一緒に課題解決を目指す

現在の活動内容について、教えてください

当事者の声を伺いながら、一緒に課題を解決する方法を考えることが主な活動内容です。最近では、さまざまな製品開発を進めています。

視覚障害がある方向けの『高感度ナビてぶくろ』は、点字をストレスなく読むことができる手袋です。自宅で簡単に洗濯できる素材を用いているため、繰り返しお使いいただけます。視覚障害がある方にとって、手はご自身の目の代わりとなります。しかし、コロナ禍では手で物に触る行為がはばかられる状況となりました。「市販のゴム手袋では、細かい部分の判別ができない」「頻回なアルコール消毒で手が荒れるようになり、指先での判別が難しくなった」など、当事者からの声をもとに開発したのが『高感度ナビてぶくろ』です。現在は、引き続き当事者のお話を伺いながら、改良を重ねています。

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視覚障害がある方向けの『高感度ナビてぶくろ』(みんなの〇ご提供)

聴覚障害がある方向けには、『ことば伝わるマスク』を開発しました。聴覚障害がある方の中には、話し手の口元の動きから情報を理解する方法でコミュニケーションを取る方がいらっしゃいます。コロナ禍に限らず、花粉症や感染症の流行シーズンなど、毎年マスク着用が増える時期にコミュニケーションが困難になると伺っていました。そこで、話し手の口元が見えるように開発したのが『ことば伝わるマスク』です。

また、開発中の製品の一つに、スマートフォンなどの電子機器操作をスムーズに行える冬用手袋があります。これは、視覚障害がある方からお寄せいただいた、「寒い季節、外でも読み上げ機能を使いたい」という声をきっかけに、開発を始めました。電子機器操作に対応している冬用の手袋は、きっと、皆さんも馴染みがあるのではないでしょうか。電子機器操作に対応している布が、一部の指先に用いられているものです。ただ、視覚障害がある方では、さまざまな角度から複数の指を使い、電子機器と接することになります。そのため、従来の手袋では課題があると伺っていました。特に、雪国などの地域のお住まいの当事者にとっては、屋外での手袋の装着は必須です。そこで、解決のお手伝いができないかと考え、開発を進めています。

その他、SNSでの情報発信や当事者団体さんと連携した講演などで、僕たちの活動を知っていただけるよう努力しています。また、当事者団体さんのイベントでは、多くの当事者と直接お会いする機会でもあるので、ざっくばらんにさまざまなお話を伺っています。

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社会福祉法人日本視覚障害者団体連合主催の講演会の様子(みんなの〇ご提供)

「当事者の声」を作り手へ還元し、難易度の高い技術での製品開発が可能に

視覚障害がある方向け『高感度ナビてぶくろ』の特徴について、詳しく教えていただけますか?

一番の特徴は、「手の甲」と「手のひら」で織り方・編み方の異なる素材を使っていることです。「市販のゴム手袋などでは、点字や物の判別ができない」という課題を解決するために、手の甲は伸びる素材を、手のひらには伸びない素材を用いました。

皆さんは、スーパーなどで野菜や果物を買うとき、「この部分に痛みがあるな」など視覚情報を頼りに物を選別されているのではないでしょうか。一方、視覚障害がある方の場合は、手で触ることで物を選別しています。そのため、手のひらや指先から詳細な情報を得る必要があります。当事者のお話を伺う中で、使い捨てのゴム手袋や一般的な布の手袋で物を触る場合、布部分が伸びて対象物にまとわりつき、詳細な情報を得られにくいという課題が見えてきました。一方、手にはさまざまな動きが求められますので、全く伸びない素材では負担がかかります。そこで、手のひら部分だけに「伸びない素材」を用いることで課題を解決しようと考えたのです。

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『高感度ナビてぶくろ』を使い、実際に点字を読む当事者(みんなの〇ご提供)

その他、汗を放出しやすい素材を用いています。そのため、夏の汗ばむ時期も含め、季節を問わず快適にお使いいただけます。

手の甲と手のひらで異なる素材を使うというのは、簡単にできるものなのですか?

いいえ。実は、とても難易度の高い技術が求められます。加えて、伸縮率の異なる素材を用いる手袋の開発は特許の問題などもあり、手袋を作るメーカーさん側への交渉は困難を極めました。

僕は、アパレル素材の専門商社を経営しています。そのため、普段からメーカーさん側のお話を伺う立場にもあり、この手袋の開発が難しい状況も理解していました。そこで、メーカーさん側には「なぜ、当事者が必要としているか」という背景を理解していただけるように、何度も話し合いを重ねました。このように、当事者の声や思いを理解していただけたことが、メーカーさんに協力いただけることになった理由の一つではないかと感じています。

製品開発に当たって、心がけていることはありますか?

大きく2つあります。1つ目は、一人ひとりの当事者のお話を伺い続けることです。その際に、同じ病気や障がいがある方だからといって「困りごとは〇〇だ」などと、ひとくくりに考えないことを心がけています。例えば、視覚障害の症状であれば、全く見えない方もいれば、見えづらい段階の方もいます。さらに言うと、見えづらさも人それぞれ異なりますよね。「高感度ナビてぶくろ」は、現在も当事者にお話を伺い続けており、さらなる改良に向けて動いています。もちろん、製品開発にあたり全ての個別対応が難しいことも理解しています。それでも、一人ひとりの声を伺っていきたいと考えています。

2つ目は、伺った当事者の声を作り手にお届けすることです。当事者がさまざまな困りごとを抱えているように、作り手にもさまざまな事情があります。第三者として僕たちが両者の間に入ることで、当事者の声を、作り手へ伝わる形に“翻訳”できればと考えています。そのために、1つ目でも触れた「当事者の声をお伺いし続けること」をこれからも大切にしていきたいですね。

「長文点字でも楽に」「まるで白杖、周りへのサインにも」当事者の声

『高感度ナビてぶくろ』を実際に利用している方からは、どういった声が寄せられていますか?

特に多くお寄せいただくのは、長文の点字を確認する際に「楽になった」「指先の負担が減った」という声です。点字の文章は多くの場合ひらがなで表記するため、一般的な漢字を用いた文章と比べて長い文章となります。そのため、例えば、本を1冊読みたいと思うと、それだけ指先の負担が大きくなるんです。手汗によって点字がスムーズに読めないなど、コロナ禍以前からストレスを感じている方のお話を伺っていました。『高感度ナビてぶくろ』で汗を放出しやすい素材を用いているのは、指先の負担を少しでも減らすためでもあります。

その他、「白色の手袋だから、白杖(はくじょう)のように目を引いて良い」というご意見をくださった方もいます。きっと、白杖を持っている人=視覚障害がある人、と認識されている方も多いのではないでしょうか。同じように、白い手袋で物を触って確認している人=何か確認する必要性がある人、と周りから事情を理解されやすくなったという声をいただいています。白色の『高感度ナビてぶくろ』が、そういった周りへのサインとしての役割も担っていければと考えています。

当事者のお気持ち部分については、どういった声が寄せられていますか?

お話を伺う際に「自分たちの困りごとに目を向けてくれて、嬉しかった」と声かけていただくことが多く、僕たちの活動を続ける原動力になっています。コロナ禍で活動が大きく制限されていた頃は、特に、孤独を感じられている方が多かったと思います。当事者の場合、コロナ禍以前から、社会的全体で困りごとが理解されているとは言えない状況だったと思いますし、なおさらだろうと想像しています。製品開発以前に、「まず、課題を知ってほしい」と感じておられる当事者の気持ちを改めて知る機会になりました。

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(みんなの〇ご提供)
当事者から「こんなものがあったら良い」などアイデアを伝えたい場合は、どのようにしたらよいでしょうか?

ぜひ、みんなの◯ インクルーシブデザインプロジェクト担当:吉岡(電話:090-2899-3751)までご連絡ください。その他、InstagramFacebookからもご連絡いただけます。全てを製品開発につなげられるとは限りませんが、まず、皆さんがどういったことにお困りなのか?など、お話をお伺いできればと思います。

誰もが当事者、広く社会課題を知ることが解決のきっかけになれば

吉岡さんご自身が社会活動に関わるようになったきっかけについて、教えてください。

両親から受けた影響が大きかったのだろう、と感じています。本好きな父のおかげで、幼少の頃から多くの本に触れる機会がありました。中には、アフリカの貧困問題など社会課題に関わる本もあり、自然と関心を高めていったのだと思います。また、チャリティー活動に関心を持つ母のおかげで、実際に活動を見る機会も多くありました。

そのような幼少期を経た中高校生の頃、自身の方向性を決定づけるターニングポイントがありました。それは、子どもなりに寄付の活動に参加するようになっていた頃でした。「寄付の活動は、自分でお金を稼ぐようになってから行うことかもしれないね」と、父から諭されたのです。自分が、“何となく”良いことをしている感覚にとらわれていたことに気付き、子どもながらにショックを受けたことを覚えています。そこから、受け身で参加する活動ではなく、自らできる行動はないか?と考えるようになっていきました。寄付ではなく社会課題を広く知ってもらうための活動を行ってみたり、当事者とコミュニケーションを取るために手話を学んだりといったことを始めたのが、この頃です。主体的に行動を考えるようになったことが、現在の活動にもつながっているのではないかと感じています。

今後、新たな活動に取り組む予定はありますか?

病気や障がいがある方の困りごとや課題の解決に留まらず、皆さんと一緒にイベントをつくっていきたいと考えています。具体的には、活動の拠点としている香川県を中心に参加型イベントを開催したいと考えています。イベントの内容は、当事者の皆さんが向き合っている社会課題とは別のテーマも扱っていきたいですね。例えば、病気や障がいがある方々に、環境問題を知るきっかけとしてイベントを開催します。香川県の海や山といった豊かな自然をフィールドに、普段はなかなか体験できないような内容を皆さんと一緒に楽しめたらと考えています。

普段関わりのない社会課題もテーマに含めたいと考えている理由は、「誰もが当事者」と知るきっかけになればと考えているからです。皆さん、きっと何かしら悩みを抱えていらっしゃると思います。その悩みを突き詰めていくと社会課題に行きつく、と僕は考えています。そういった意味では、誰もが何かしらの当事者なのではないでしょうか。ですから、直接関わりのない他の社会課題も知ることで、いつか、ご自身が向き合う課題を解決するきっかけにつながったらうれしいですね。

困りごとの多くは広く知られていない、共有することから始めよう

最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

ご自身の病気や障がいを知った時、「どうして、自分だけがこのようなことに…」と感じて、今もつらい思いを抱えていらっしゃる方もいるのではないかと想像しています。「自分だけ」と感じることで、孤独感にさいなまれることもあるかもしれません。ただ、ぜひ知っていただきたいのは、決して一人ではないということです。同じ病気や障がいと向き合う当事者はもちろん、その課題に目を向けて動いている方がいます。つらい時こそ、そのことを思い出していただければうれしいです。

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「同じ病気や障がいと向き合う当事者はもちろん、課題に目を向けて動いている方がいる」と、吉岡さん

社会には、病気や障がいなどを理由に困りごとを抱えていらっしゃる方がいます。ただ、その困りごとの多くは、広く知られていないのが現状です。ですから、ぜひ、皆さんが今困っていることや悩んでいることを共有していただきたいです。SNSで発信したり、僕たちの元へ届けてくださったり、ご自身のやりやすい方法で行ってみてください。加えて、ご自身の悩みを共有する中で、他の社会課題と向き合う当事者の悩みも知っていただく機会があると、解決に向けた行動の輪が広がっていくのではないでしょうか。僕自身、みんなの〇の仲間から、さまざまな社会課題を知る機会をもらっていることで、新たな視点を得ていると感じています。


今回の取材で、遺伝性疾患プラス編集部でも実際に『高感度ナビてぶくろ』で点字に触れる体験をしました。すると、思わず「全然違う…!」と言葉が出るほど、その触り心地は全く別物だと感じました。いわゆる普通の手袋の時は、生地が指にまとわりつくような感覚だったのですが、『高感度ナビてぶくろ』ではそういった感覚はありません。スムーズに点字と点字の間を移動することができ、より鮮明に点字部分を認識できたと感じました。現在、日本視覚障害者団体連合から販売されていますので、ご興味のある方は公式ウェブサイトでご確認ください。(遺伝性疾患プラス編集部)

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吉岡忠助さん

吉岡忠助さん

みんなの〇 代表

電話:090-2899-3751

メール:tadasuke@minnanomaru.org

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