どのような病気?
2q37欠失症候群は、軽度から中等度の発達遅滞、知的障害、3~5指の中節骨短縮症(中節骨は人差し指から小指にそれぞれある3本の骨の真ん中の骨)、低身長、筋緊張低下などのさまざまな症状が見られます。患者さんのほとんどは乳幼児期において筋緊張低下が見られ、通常は成長とともに改善します。およそ25%の人ではコミュニケーションや社交性に関わる自閉症スペクトラム障害(対人関係が苦手などの特徴を持つ発達障害)が見られ、約50%では手や足の形態異常が見られます。
2q37欠失症候群で見られる症状 |
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高頻度に見られる症状 全般的発達遅滞、筋緊張低下、知的障害、顔面中部後退(顔面の中央部が凹んでいる)、丸顔 |
よく見られる症状 心血管形態異常、上向きの鼻孔、行動異常、一重水平掌紋(手のひらの左右を水平に横断している線が1本であること)、短指症、広い鼻柱、第5指の湾曲、奥目、低い鼻梁(鼻梁は鼻すじ)、口角が下がった口、湿疹、合指症(隣接する手の指の一部または全部が癒合している状態)、前頭隆起(額が出ていること)、アーチ状の眉、関節過伸展(関節が正常な範囲を超えて曲がること)、小頭症、肥満、てんかん発作、短い足、短い中手骨(中手骨は手の甲にある5本の骨)、小さい掌、低身長、小さい手、粗な眉毛、粗な頭髪、過剰乳頭(乳首が3つ以上あること)、薄い唇、合趾症(隣接する足の指の一部または全部が癒合している状態)、臍ヘルニア、鼻翼発達障害、上斜眼裂(つり上がった眼)、乳頭間距離の開大 |
しばしば見られる症状 大動脈形態異常、注意欠如・多動性障害(ADHD)、自閉症、伝音性聴覚障害(音の伝わり方が悪いことによる聴覚障害)、先天性横隔膜ヘルニア(横隔膜に欠損部があって本来は腹部にある臓器の一部が胸部に脱出した状態)、喉頭軟弱症、大頭症、常同症(同じ言動や姿勢を繰り返す症状)、多嚢胞性異形成腎(腎臓に嚢胞が多数できる腎臓の形成異常)、腎芽腫(腎悪性腫瘍のひとつ)、強迫性障害、肥厚性幽門狭窄症(胃から十二指腸への出口である幽門の筋層の肥厚による狭窄)、短い首、睡眠障害、気管軟化症 |
2q37欠失症候群の発症頻度は不明です。患者数は世界で少なくとも150人以上とされています。
何の遺伝子が原因となるの?
2q37欠失症候群は、2番染色体の長腕にある2p37領域に欠失(一部の遺伝子とともに失われる)があり、欠失した部分の遺伝子の機能が不足することが原因で引き起こされます。この病気の原因となる中心的な遺伝子はHDAC4で、この遺伝子は脳、筋肉、骨の発達に関与すると考えられています。2q37欠失症候群で欠失する遺伝子の種類や量は、人によってさまざまです。HDAC4遺伝子以外では、CAPN10、PRLH、HDLBP、PER2の各遺伝子の欠失は体重、GBC1、GRP35、STK25、PDCD1、GBX2、TWIST2、FARP2、PER2の各遺伝子の欠失は骨格障害、GBX2、TWIST2、FARP2、PER2、PRLH、HDLBP、TRPM8、AGAP1、KIF1A、PASK、ATG4Bの各遺伝子の欠失は行動障害に関与すると考えられています。
2q37欠失症候群の患者さんのほとんどは遺伝ではなく、偶然に生じる染色体の一部分の欠失によるものです。一方、2q37欠失症候群は常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝します。両親のどちらかが2q37欠失症候群である場合、子どもは50%の確率で発症します。
どのように診断されるの?
2q37欠失症候群の確立された診断基準はまだありません。厚生労働科学研究難治性疾患政策研究事業において、2q37欠失症候群の診断基準案が作成されています。
下記のAのうち大症状のIを認め、Cの鑑別すべき疾患が除外され、HDAC4を含む染色体2q37領域の欠失を認める場合に2q37欠失症候群と確定診断されます。
A. 症状
【大症状】(Iは必須項目)
I. 知的能力障害(IQ70未満)
II. 神経発達症
III. 第3~5指の中手骨指骨短縮(全患者の50%、第4指のみが多い)
IV. 特徴的顔貌(丸い顔、前額突出、まだらな頭髪、眼瞼裂斜上、落ちくぼんだ眼、耳介低位など)
【小症状】(合併しうる症状)
I. 低身長(全患者の23%)
II. 肥満
III. 筋緊張低下
IV. 側弯症
V. てんかん
VI. 先天性心疾患
VII. 中枢神経異常(水頭症、脳室拡大)
VIII. 気管軟化症
IX. 胃食道逆流
X. 腎形態異常
XI. 腫瘍(Wilms腫瘍)
B. 検査所見
上記症状よりマイクロアレイ染色体検査を含む何らかの遺伝学的検査を実施し、2番染色体長腕q37領域の欠失を確認することにより確定されます(ただし、欠失領域にHDAC4を含んでいること)。
C. 鑑別診断
他の染色体微細構造異常による症候群を鑑別
D. 遺伝学的検査
染色体2q37領域の欠失
どのような治療が行われるの?
現時点では、2q37欠失症候群の病態に対する根本的な治療法はなく、合併症の早期発見と言語療法、理学療法、作業療法などが行われます。また、神経発達障害に対する発達支援、てんかんに対する抗てんかん薬の投与、低身長に対しては内分泌学的治療、などが行われます。症状が多岐にわたることから、小児科、神経内科、循環器科、消化器科、眼科、などの連携による健康管理が必要となります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本で2q37欠失症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
参考サイト
- MedlinePlus
- Genetic and Rare Diseases Information Center
- GeneReviews
- orphanet
- 厚生労働科学研究難治性疾患政策研究事業「マイクロアレイ染色体検査で明らかになる染色体微細構造異常症候群を示す小児から成人の診断・診療体制の構築」研究班、診断基準(案)「2q37 欠失症候群」