副腎白質ジストロフィー

遺伝性疾患プラス編集部

副腎白質ジストロフィーの臨床試験情報
英名 Adrenoleukodystrophy
別名 X連鎖性副腎白質ジストロフィー、ALD
発症頻度 男性2~3万人に1人
国内臨床試験 実施中試験あり(詳細は、ぺージ下部 関連記事「臨床試験情報」
日本の患者数 推定400人程度(令和3年度末現在特定医療費(指定難病)受給者証所持者数252人)
子どもに遺伝するか 遺伝する(X連鎖性劣性(潜性)遺伝形式)
発症年齢 小児から成人までさまざま
性別 基本的に男性が発症するが、保因者の女性でも症状が見られる場合がある
主な症状 認知機能障害、知的障害、歩行障害、視力障害など
原因遺伝子 ABCD1遺伝子
治療 造血幹細胞移植など
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どのような病気?

副腎白質ジストロフィーは、脳や脊髄の神経の異常や、ホルモンを産生する臓器である副腎の機能の異常によって、歩行障害、認知機能障害、精神障害、まひなどが生じる遺伝性疾患です。その遺伝的な特徴から、男性の場合に重症化します。

ヒトの細胞には「ペルオキシソーム」という、脂肪酸の代謝などに関わる小器官が存在します。ペルオキシソームに脂肪酸の1種である極長鎖脂肪酸(分子に含まれる炭素数が23以上の長鎖脂肪酸)が取り込まれる際には「ALDP」というタンパク質が関与します。副腎白質ジストロフィーでは、遺伝子の異常によりALDPが欠損したり、不足したりします。これにより、ペルオキシソームの極長鎖脂肪酸の取り込みが障害され、生体内に極長鎖脂肪酸が増加・蓄積します。すると、副腎皮質や中枢神経の髄鞘(神経細胞の軸索の周りの脂質の層)が障害され、副腎白質ジストロフィーが発症すると考えられています。

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副腎白質ジストロフィーは、発症年齢と症状により複数の病型に分類されています。主な病型として、下記が挙げられます。

  1. 小児大脳型(CCALD):3~10歳に発症し、視力や聴力の異常、行動異常、成績低下、痙性歩行(脳・脊髄の障害でまひが出る側の足を引きずって歩くこと)などが見られます。症状は比較的急速に進行して、数年で寝たきりとなることが多いとされています。
  2. 思春期大脳型(AdolCALD):11~21歳に発症し、小児大脳型と同様の症状が見られますが、やや緩徐に進行する傾向にあります。
  3. 副腎脊髄ニューロパチー(AMN):思春期以降に発症することが多く、痙性歩行を主症状としてゆっくりと進行する。そのほかに陰萎(勃起障害)、排尿障害、感覚障害などが見られます。
  4. 成人大脳型(ACALD):22歳以降に発症し、精神症状、行動異常、認知機能低下などの症状が見られ、比較的急速に進行します。
  5. 小脳・脳幹型:小脳失調(複数の筋肉を協調させて動かすことがうまくできない状態)、痙性不全まひ(手足の硬直によるまひで運動機能が完全には失われない状態)を主症状とし、日本人に多いとされています。
  6. アジソン型:2歳以降から成人期にかけて発症し、易疲労感、全身倦怠感、脱力感、筋力低下、体重減少、低血圧、色素沈着などの症状が見られます。
  7. 女性保因者:女性保因者の20~50%で、加齢ともにAMN型のような症状が見られる場合があります。
  8. その他:発症前の男性は病型の予測が難しい。

厚生労働省が1990~1999年の10年間に行った全国調査によると、病型別の発症頻度は、CCALDが29.9%、AdolCALDが9.1%、AMNが25.3%、ACALDが21.4%、小脳・脳幹型が8.4%、発症前が4.5%という結果で、日本人の特徴として、欧米に比べてACALDが多く、小脳・脳幹型も多いとされています。また、この調査ではアジソン型がいなかった一方で、欧米ではアジソン型が6~14%を占めることから、国内では調査時点でアジソン型について十分に知られていなかった可能性も推測されました。

大脳型は、無治療の場合2年以内に寝たきりになることが多いとされていますが、進行が緩やかなケースも報告されています。AMNは一般に緩やかに進行しますが、大脳型に移行して急速に進行する場合があります。また、小脳・脳幹型、アジソン型からAMNや大脳型に移行する場合があります。副腎白質ジストロフィーの半数以上は成人期以降に発症します。小児期や発症前に診断された場合、現時点では病型の予測は難しく、定期的なフォローアップが行われます。

副腎白質ジストロフィーで見られる症状

99~80%で見られる症状

代謝異常、注意欠如・多動性障害(ADHD)、認知症、運動機能障害、歩行障害、頭痛、知的障害、下肢筋硬直、進行性聴力障害、進行性痙性対まひ(進行性で筋肉の硬直による左右両側性のまひ)、感覚障害、学習障害、視力障害

79~30%で見られる症状

副腎機能不全、攻撃的行動、失語症、抑制の欠如、片側不全まひ、不適切な性行動、血中ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)上昇、頭蓋内圧の上昇、神経因性膀胱(脳や脊髄などの神経の障害によって生じる排尿機能の障害)、膀胱括約筋機能障害、視野欠損、など

29~5%で見られる症状

複視(物が二重に見える状態)、陰萎(勃起障害)、まひ、など

割合は示されていないが見られる症状

大脳白質の異常、脱毛症、失明、便失禁、球まひ(延髄の障害によるまひ)、血中長鎖脂肪酸増加、聴覚障害、皮膚の色素沈着、性腺機能低下(性ホルモンの低下)、協調運動障害、四肢運動失調、下肢筋力低下、多発性神経炎、原発性副腎機能不全、精神病、てんかん発作、言語不明瞭、尿失禁、など

副腎白質ジストロフィーの発症頻度は、米国では出生男児2万1,000人に1人とされており、女性保因者は出生女児1万4,000人に1人とされています。日本国内の発症頻度は男性の2万~3万人に1人程度とされています。国内の患者さんの数について、2012年度の難病医療受給者証保持者数は193人でした。また、2016年度に厚生労働省難治性疾患政策研究班において実施されたライソゾーム病とペルオキシソーム病の全国調査では、一次調査の中間報告からの推定値として400人程度の国内患者の存在が推測されています。

副腎白質ジストロフィーは国の指定難病(指定難病20)および小児慢性特定疾病の対象疾患です。

何の遺伝子が原因となるの?

副腎白質ジストロフィーの原因遺伝子として、X染色体のXq28という位置に存在するABCD1遺伝子がわかっています。ABCD1遺伝子は、細胞内の小器官であるペルオキシソームが極長鎖脂肪酸を分解処理するために取り込む際に必要な、ALDPというタンパク質の設計図となる遺伝子です。この遺伝子の異常によってALDPが作られなくなる、または、正常に機能しなくなることが、副腎白質ジストロフィーの原因であると、これまでの研究から考えられています。

副腎白質ジストロフィーは、「X連鎖劣性(潜性)遺伝」という形式で遺伝します。人間は、XとYという2種類の性染色体を持っていて、組み合わせがXXなら女性、XYなら男性です。母親が、2本持つうちの1本のX染色体にあるABCD1遺伝子に変異を持つ保因者であれば、50%の確率で、自身の男児にラ副腎白質ジストロフィーが発症します。女児の場合には、50%の確率で保因者となります。父親が副腎白質ジストロフィーだった場合には、男児は病気ではなく、女児は全員保因者となります。一方、患者さんの約5%は母親にABCD1遺伝子の変異は見られず、その患者さんで新規に見られた遺伝子の変異(新生変異)によるものであるとされています。

X Linked Recessive Inheritance

どのように診断されるの?

難病情報センターに掲載の情報によると、副腎白質ジストロフィーは、以下の診断基準により診断されます。

まず、下記の【鑑別すべき疾患】に該当しないことが確認されます。

【鑑別すべき疾患】

小児:ADHD、学習困難、心身症、視力障害、難聴、アジソン病、脳腫瘍、亜急性硬化性全脳炎、他の白質ジストロフィー

成人:家族性痙性対まひ、多発性硬化症、精神病、認知症、脊髄小脳変性症、アジソン病、脳腫瘍、悪性リンパ腫、他の白質ジストロフィー

 

次いで、以下の①~④のいずれかに該当する場合に副腎白質ジストロフィーと確定診断されます。

①下記(1)~(3)の項目の全てを満たす(発症者)

②家族内に発症者または保因者がおり、下記(2)を満たす男児(発症前男性)

③下記(1)と(3)を満たす女性で、家族内に発症者または保因者がいる、または、極長鎖脂肪酸が高値や1対のABCD1遺伝子のうち1つの変異が確認された場合(女性発症者)

④ABCD1遺伝子変異が確認された男性

 

(1)下記の【主要症状および臨床所見】のうち、少なくとも1つ以上該当する

(2)下記の【参考となる検査所見】のうち、血漿、血清、赤血球膜のいずれかで極長鎖脂肪酸が高値

(3)下記の【参考となる検査所見】のうち、頭部MRI、神経生理学的検査、副腎機能検査のいずれかで異常がある

 

【主要症状および臨床所見】

  1. 精神症状:小児ではADHDや心身症と類似した症状が見られる。成人では社会性の欠如や性格変化、精神病に類似した症状が見られる。
  2. 知能障害:小児では学習の障害、視覚・聴覚・認知・書字・発語などの異常が現れる。成人では認知症、高次脳機能障害(失語、失行(まひなどの障害がないのに動作がうまくできない状態)、失認(認識できないこと))などが見られる。
  3. 視力低下:初発症状として多く、視野狭窄、斜視、皮質性の視覚障害などが見られる。
  4. 歩行障害:痙性対まひによる歩行障害が見られる(左右差が見られる場合もある)。
  5. 錐体路徴候:四肢の痙性(脳・脊髄の障害による手足のつっぱり)、腱反射の亢進、病的反射陽性でどの病型においても高頻度に見られる。
  6. 感覚障害:表在および深部知覚障害。AMNでは脊髄性の感覚障害を示すことが多い。
  7. 自律神経障害:排尿障害、陰萎(勃起障害)などが見られる。
  8. 副腎不全症状:無気力、食欲不振、体重減少、色素沈着(皮膚、歯肉)、低血圧などが見られる。

【参考となる検査所見】

  1. 極長鎖脂肪酸検査:血清スフィンゴミエリン、血漿総脂質、赤血球膜脂質などの極長鎖脂肪酸の割合が確認されます。
  2. 頭部画像診断(MRI・CT):脳の脱髄について確認されます。
  3. 神経生理学的検査:各種検査で、聴力、腕の感覚、視機能などについて確認されます。
  4. 副腎機能検査:副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の値などについて確認されます。
  5. 遺伝子解析:ABCD1遺伝子の変異について確認されます。変異は一様でなくさまざまで、病型と遺伝子変異には明らかな相関が認められていません。同一の変異があっても臨床病型が異なることが報告されています。
  6. 病理所見(中枢神経系・副腎)

どのような治療が行われるの?

現在、小児大脳型の副腎白質ジストロフィーに対して、発症早期の造血幹細胞移植(骨髄移植や臍帯血移植)が有効であるとの報告があり、期待が寄せられています。移植後1~2年は症状が緩徐に進行しますが、その後は進行が停止することが多いとされています。一方、進行期での移植例では十分な効果が得られないことが多いとされています。一方で、造血幹細胞移植に伴い、合併症が生じることもあるため、患者さんが造血幹細胞移植の適応となるかどうかは、医師により十分な検討が行われます。また、適合する骨髄ドナーが見つからなかった場合には、ウイルスベクターを使って、副腎白質ジストロフィー患者さんの造血幹細胞に正常なABCD1遺伝子を導入する遺伝子治療(自己造血細胞移植)が有効であったという論文報告もあります。

男性患者さんでは定期的に副腎機能検査を受け、必要があれば副腎ホルモンの補充が行われます。また、AMNおよび女性発症者で見られる足の痙縮に対しては、抗痙縮薬の使用や理学療法の早期開始などにより、症状の軽減や進行の予防が期待されます。直腸膀胱機能障害がある場合、泌尿器科医等に相談して早期に対応することが重要です。

長鎖脂肪酸であるオレイン酸とエルカ酸を4:1の割合で配合したロレンツォオイル(Lorenzo’s oil)の摂取は血中の極長鎖脂肪酸を低下させるという報告があります。しかし、ロレンツォオイル摂取による血中の極長鎖脂肪酸の低下以外の副腎白質ジストロフィーの症状への有効性は確立されておらず、診療ガイドライン(2019)でも、「ロレンツォオイルの投与はいずれの病型の副腎白質ジストロフィー患者に対しても積極的には推奨されない」と記載されています。

どこで検査や治療が受けられるの?

患者会について

副腎白質ジストロフィーの患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。

参考サイト

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クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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