どのような病気?
アレキサンダー病は、脳のアストロサイト細胞にローゼンタール線維と呼ばれる異常なタンパク質が蓄積することを特徴とし、けいれん、頭囲の拡大、精神運動発達の遅延、自律神経の機能異常などの症状が見られる遺伝性疾患です。
この病気は、1949年にニュージーランドの病理学者であるアレキサンダー氏によって最初に報告された病気で、当時は脳の病理組織から診断され、乳児期に発症するけいれん、頭囲拡大、精神運動発達の遅れなどを主な症状とし、予後が悪く小児期に亡くなる可能性の高い病気だと考えられていました。2001年にアレキサンダー病の原因遺伝子が発見され、遺伝子検査によって診断が行われるようになったことから、学童期や成人以降に発症する病型があることがわかってきました。
アレキサンダー病で見られる症状や経過には個人差がありますが、その症状や発症時期などから大きく1型(大脳優位型)、2型(延髄・脊髄優位型)、3型(中間型)の3つの病型に分類されます。
1型(大脳優位型)は、乳児期に発症し、主にけいれん、頭囲拡大(大頭症)、精神運動発達の遅れの3つの症状を示します。頭部のMRI検査で、主に前頭部において広く大脳白質異常が見られることが特徴です。話しにくい(構音障害、発声障害)、飲み込みにくい(嚥下障害)、手足が動かしにくい(痙性や四肢麻痺など)、ふらつく/歩きにくい(歩行障害)、といったように嚥下や運動機能に異常が見られるほか、自律神経障害(尿が出にくい、立ちくらみ、睡眠時無呼吸など)なども見られ、症状は少しずつ進行します。また、この病型では日常生活動作や歩行などの身体機能に関する予後が悪い重症例が多いとされます。けいれん症状の適切なコントロールは身体の機能や生命の予後に関係します。1型の中でも、新生児期に発症する患者さんは難治性のけいれんや水頭症、胃食道逆流、重度の発達遅延などの重症な症状が見られ、早期に亡くなる可能性が高くなります。
2型(延髄・脊髄優位型)は、学童期~成人期以降に発症し、嚥下機能障害、手足の運動機能障害、立ちくらみや排尿困難などの自律神経機能障害が主な症状です。MRI検査では延髄・頸髄に信号異常や萎縮が見られます。学童期に繰り返すしゃっくりや嘔吐などが見られることからこの病気と気が付かれる場合もあります。1型で見られるようなけいれん、大頭症、精神運動発達遅延は通常は見られず、1型よりも進行は緩やかですが、急に進行する場合もあります。家族内発症が多く、ほとんど症状が見られない患者さんも存在します。
3型(中間型)は、1型、2型の両方の特徴がみられる中間型で、多くの場合学童期以降に発症します。主な症状は、嚥下機能障害、手足の運動機能障害などの自律神経機能障害ですが、2型よりも進行が早いことや、乳幼児期における数回のけいれん発作、精神発達遅滞、学童期の成績低下が見られることが多いとされます。頭囲拡大は見られません。また、学童期に繰り返す嘔吐と体重減少が見られる場合もあります。
アレキサンダー病で見られる症状 |
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高頻度に見られる症状 大頭症、前額部突出、顔が大きい、側弯症、巨脳症(大脳、小脳、脳幹などの脳実質の体積が増加)、異常な錐体路のサイン、脳梁の形成不全、クローヌス(間代性けいれん)、反射の異常亢進、てんかん発作、痙性(けいせい)、吐き気と嘔吐、成長障害、知的障害(精神遅滞)、神経学的な言語障害、睡眠障害 |
良く見られる症状 眼瞼下垂、脊柱後湾症、脳内石灰化、顔面まひ、眼振、複視(1つの物が2つに見える)、異常な眼球の動き、構音障害(はっきりと話せない)、発声障害、嚥下障害、繰り返すしゃっくり、便秘、四肢麻痺(手足のまひ)、身震い、運動失調、歩行障害、多汗症、低血圧、睡眠時無呼吸症候群、うつ、情緒不安定 |
しばしば見られる症状 高口蓋、短い首、腰椎の過度な前湾、色素沈着母斑、骨減少症、筋緊張低下、筋力低下、舞踏運動、水頭症、中脳水道狭窄症、感染性脳炎、呼吸障害、自律神経失調症、便失禁、高血圧、甲状腺機能低下、発達退行、思春期早発症、自傷行為 |
まれに見られる症状 心臓突然死 |
アレキサンダー病は非常に希少な疾患であり、その発症頻度はわかっていません。これまでに世界で約500人の患者さんが報告されています。日本の患者さんは、2009年に国内で実施された全国有病者数調査から、約50人と推定され、病型別では2型が最も多く約半数、1型が約3分の1、3型が約5分の1程度と考えられています。
何の遺伝子が原因となるの?
アレキサンダー病は、17番染色体の17q21.31という領域に位置するGFAP遺伝子の変異が原因で発症することが明らかにされています。患者さんの97%でGFAP遺伝子に変異があることがわかっています。
GFAP遺伝子は、脳や脊髄に存在するアストロサイトと呼ばれる細胞で働く「グリア線維性酸性タンパク質」を作成するための設計図となります。グリア線維性酸性タンパク質は、中間フィラメントと呼ばれる成分の一つで、いくつかの分子と結合して、細胞の形状や強度を維持するために重要な役割を持ちます。
アストロサイトとは、グリア細胞(神経細胞以外の脳細胞)の一つで、神経細胞の機能や形状を維持するために助ける役割を持つだけでなく、さまざまな神経細胞と情報伝達を行って脳の機能を制御しています。アストロサイトは脳や脊髄の神経細胞に栄養を送り、神経細胞に損傷が起きた時には、グリア原線維性酸性タンパク質が急速に産生されます。
GFAP遺伝子に変異が起こることによって、異常な構造を持ったグリア線維性酸性タンパク質が生成され、アストロサイトに異常なタンパク質が蓄積し、アストロサイトの機能を損なうローゼンタール線維が形成されるのではないかと考えられています。しかし、これらの異常がどのようにアレキサンダー病の症状を引き起こすのかについての詳細なメカニズムはまだわかっていません。
アレキサンダー病の多くは卵子と精子が形成されるときにランダムに起こる現象が原因で発生するため、親からの遺伝ではなく孤発例です。そのため、第1子がアレキサンダー病である場合に、第2子もアレキサンダー病となることはまれです。
遺伝する場合、この病気は常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝します。両親のどちらかがアレキサンダー病の場合、子どもがアレキサンダー病を発症する確率は50%です。
どのように診断されるの?
アレキサンダー病の診断は、症状と頭部MRI検査でアレキサンダー病を疑い、遺伝学的検査などで確定診断されます。
1型(大脳優位型)アレキサンダー病
症状として、けいれん、大頭症、精神運動発達遅滞のうち1つ以上が見られること、併せて頭部MRI検査で、前頭部優位の白質信号異常に加え、以下の4つの中から1つ以上が見られることでこの病気が疑われます。
- 脳室周囲の縁取り:T2強調画像で低信号、T1強調画像で高信号を示す
- 基底核と視床の異常:T2強調画像で高信号を伴う腫脹または高・低信号を伴う萎縮
- 脳幹の異常・萎縮:延髄あるいは中脳にみられることが多い、腫瘤効果を伴う結節病変を呈することがある
- 造影効果を認める:脳室周囲、前頭葉白質、視交叉、脳弓、基底核、視床、小脳歯状核、脳幹など
遺伝子検査でGFAP遺伝子異常、もしくは病理学的検査でアストロサイト細胞質内のローゼンタール線維のいずれかが見られた場合にこの病気と確定診断されます。
2型(延髄・脊髄優位型)アレキサンダー病
症状として、筋力低下、腱反射異常、バビンスキー徴候陽性、構音障害、嚥下障害、発声障害、口蓋ミオクローヌスのうち1つ以上が見られること、頭部MRI検査で、下記のいずれかの像を呈する延髄・上位頸髄の信号異常または萎縮が認められることでこの病気が疑われます。
- 橋底部が保たれ、延髄および上位頚髄が高度に萎縮する像
- T2強調画像における信号異常や造影効果を伴う像
- 萎縮を伴わない結節性腫瘤像
遺伝子検査でGFAP遺伝子異常、もしくは病理学的検査でアストロサイト細胞質内のローゼンタール線維のいずれかが見られた場合にこの病気と確定診断されます。
3型(中間型)アレキサンダー病
1型と2型の両者の特徴をもつ型のため、診断方法は1型、2型に準じます。
どのような治療が行われるの?
アレキサンダー病に対する根治的な治療法はなく、さまざまな症状に対する対症療法が中心となります。
1型で見られるけいれん発作に対しては、抗てんかん薬が投与されます。手足がつっぱる痙性麻痺には抗痙縮薬が用いられることがあります。その他、リハビリテーションや療育が行われます。嘔吐を繰り返すときには栄養管理が必要になります。また、感染症対策も重要です。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でアレキサンダー病の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
参考サイト
- 難病情報センター
- 小児慢性特定疾病情報センター アレキサンダー(Alexander)病
- MedlinePlus
- Genetic and Rare Diseases Information Center
- Online Mendelian Inheritance in Man(R) (OMIM(R))
- GeneReviews