どのような病気?
クリオピリン関連周期熱症候群は、クリオピリンというタンパク質の設計図となるNLRP3遺伝子の変異が原因で起こる自己炎症性疾患の総称です。自己炎症性疾患とは、感染症でも自己免疫疾患でもなく、免疫制御の異常によって全身性の炎症を繰り返す疾患です。
ヒトの体は病原体などの異物が侵入するとそれを認識して、異物を攻撃・排除しようとする免疫反応が働き、その過程で炎症が起こります。クリオピリンは細胞内にあって病原体などの異物を認識するパターン認識受容体と呼ばれるものの1つで、病原体を認識すると、免疫機能が活性化され、一連の反応によってインターロイキン1βと呼ばれる炎症性の生理活性物質が放出されます。クリオピリン関連周期熱症候群は、NLRP3遺伝子の異常によって、病原体などの異物がなくても免疫反応が活性化されてインターロイキン1βが過剰に放出されることで全身に炎症が起こります。
クリオピリン関連周期熱症候群は症状の強さによって、軽症の「家族性寒冷蕁麻疹(じんましん)」(別名:家族性寒冷自己炎症性症候群)、中等症の「マックル・ウェルズ(Muckle-Wells)症候群」、重症の「慢性乳児神経皮膚関節症候群(CINCA症候群)/新生児期発症多臓器系炎症性疾患(NOMID)」の3つの病型に分類されます。しかし、明確に病型を区別できない場合や病型が移行する場合もあります。
軽症の家族性寒冷蕁麻疹は、寒冷によって誘発される発疹、時間をあけて繰り返し起こる(間欠的な)関節痛を伴う発熱が特徴で、出生直後から10歳くらいまでに発症します。症状はじんましんに似ており24時間以内に軽快します。発疹は、胴体と手足に通常現れますが、他の部分に広がる可能性もあります。そのほか、筋肉痛、悪寒、眠気、目の充血、頭痛、吐き気などが起こる場合もあります。家族性寒冷蕁麻疹の生命予後は、一般的に良好とされています。
中等症のマックル・ウェルズ症候群は、じんましんのような皮疹を伴う発熱が24~48時間持続し、数週間の周期で繰り返すのが特徴で、出生後から幼時期に発症します。また、関節炎、感音性難聴(内耳や聴神経の機能によって生じる難聴)、腎アミロイドーシス(アミロイドと呼ばれる異常なタンパク質が腎臓内に沈着して腎臓の機能が低下する病気)などを合併します。皮膚の発疹、発熱、関節痛は、寒冷によらず起こる場合もあり、また、常に起きている場合もあります。マックル・ウェルズ症候群では全体的な症状は軽度ですが、長期的な炎症の持続によって腎アミロイドーシスによる腎不全が起こりやすくなります。
重症のCINCA症候群/NOMIDは、皮疹、中枢神経系病変、関節症状の3つを主な症状とし、生後すぐに発症して生涯にわたって続きます。また、発熱、感音性難聴、慢性髄膜炎、水頭症(頭蓋内に髄液が過剰に溜まって脳を圧迫して脳の障害が起こる病気)、ブドウ膜炎(眼球を包むブドウ膜に炎症が起こるもの。視神経の萎縮によって視力障害が起こることがある)、全身アミロイドーシス、中枢神経障害、発達遅滞(低身長)、特徴的な顔立ち、てんかんなどを伴う場合もあります。聴力障害はほぼすべての患者さんに認められます。また、関節炎による関節の拘縮(固まって動き難くなること)や全身性の炎症による発育不良が起こります。
クリオピリン関連周期熱症候群の病型別の主な症状
家族性寒冷蕁麻疹 | マックル・ウェルズ症候群 | CINCA症候群/NOMID | |
---|---|---|---|
炎症時の皮疹 | あり | あり | あり |
関節症状 | 関節痛 | 関節痛、関節炎 | 関節痛、関節炎 |
軟骨病変 | なし | なし | あり(主に幼児期以降、骨幹端過形成を特徴とする) |
難聴 | なし | しばしばあり(主に幼児期以降) | あり(主に幼児期以降) |
慢性髄膜炎 | なし | しばしばあり | あり |
目の所見 | なし | しばしばあり | あり |
アミロイドーシス | まれにあり | あり | あり |
クリオピリン関連周期熱症候群は希少な疾患で、有病率は世界で100万人に2~5人とされています。日本では重症のCINCA症候群/NOMIDから軽症の家族性寒冷蕁麻疹まで含めると、約100人の患者さんがいると推計されています。男女で発症に違いはありません。
クリオピリン関連周期熱症候群は国の指定難病対象疾患(指定難病106)および小児慢性特定疾病となっています。
何の遺伝子が原因となるの?
クリオピリン関連周期熱症候群の原因遺伝子として、「NLRP3遺伝子」が見つかっています。NLRP3遺伝子は、1番染色体の1q44という位置に存在しており、「クリオピリン」というタンパク質の設計図となる遺伝子です。
クリオピリンは、「NOD様受容体(NLR)」という種類のタンパク質の仲間で、細胞内で炎症の調節に関わっています。クリオピリンは主に白血球と軟骨細胞に見られます。クリオピリンは他のタンパク質とともに、NLRP3インフラマソームと呼ばれる構造体を構成しており、細菌や化学物質などを認識して活性化し、炎症性の生理活性物質であるIL-1βを産生するという、一連の炎症反応を引き起こす役割を果たしています。
クリオピリン関連周期熱症候群では、NLRP3遺伝子に変異があることでクリオピリンが過剰に産生され、異常な炎症反応が起こると考えられています。なお、患者さんの大半でNLRP3遺伝子に変異が認められますが、一部にはこの遺伝子の変異が認められない患者さんもいます。
クリオピリン関連周期熱症候群は常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝します。常染色体優性遺伝形式は、両親から1つずつ受け継いで1対2個ある遺伝子のうち1個の遺伝子の変異で発症するもので、両親のどちらかが遺伝子の変異を持つ場合に子どもがその遺伝子を受け継ぐ確率は50%です。
重症型のCINCA症候群/NOMIDでは、大部分の患者さんが家族歴のない孤発例であり、その3分の1は、NLRP3遺伝子が変異している細胞と変異していない細胞が体中に混在している「体細胞モザイク」であるとされています。体細胞モザイクは、後天的な遺伝子の変異により起こることがあります。
どのように診断されるの?
クリオピリン関連周期熱症候群の診断にはNLRP3遺伝子検査が必須です。典型的な臨床症状からクリオピリン関連周期熱症候群が疑われた場合、NLRP3遺伝子検査が行われ、確定診断に至ります。遺伝子検査は体細胞モザイクの検査を含めて実施されます。
以下の1または2のいずれかを満たす場合にクリオピリン関連周期熱症候群と診断されます。
- NLRP3遺伝子に疾患関連変異を認める。
- NLRP3遺伝子に疾患関連変異が認められないが、以下のaおよびbを両方とも認める。
a. 乳児期発症の持続性の炎症所見
b. 骨幹端過形成、じんましん様皮疹、中枢神経症状の3項目のうち2項目を満たす。中枢神経症状は、うっ血乳頭(眼底検査で判定される視神経乳頭が充血した状態)、髄液細胞(髄液中の白血球)増多、感音性難聴のいずれか。
一部の患者さんではNLRP3疾患関連変異が認められないことが知られており、NLRP3遺伝子に疾患関連変異が認められなくても2を満たす場合はクリオピリン関連周期熱症候群と診断されます。
どのような治療が行われるの?
クリオピリン関連周期熱症候群は、生理活性物質であるインターロイキン1βが過剰に作られて炎症を引き起こします。治療ではインターロイキン1βに結合してその作用を中和する抗体薬(生物学的製剤)カナキヌマブ(製品名:イラリス)という薬が用いられます。カナキヌマブは4週~8週ごとに皮下注射で受ける薬で、クリオピリン関連周期熱症候群のどの病型にも有効とされています。
軽症型である家族性寒冷蕁麻疹では、症状が現れている時に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と抗炎症薬であるステロイド薬で短期的に治療が行われる場合もあります。家族性寒冷蕁麻疹でも、発作頻度が高い人や症状が強い人、アミロイドーシスのリスクがある人は、カナキヌマブでの治療が考慮されます。
カナキヌマブは、免疫を抑える作用があり、細菌感染症にかかりやすくなるため、発熱をした場合は、早めに主治医に受診するようにしましょう。
日常生活の注意として、家族性寒冷蕁麻疹では寒冷刺激が炎症を誘発するため、寒冷刺激やエアコンなどによる急激な温度低下などを避ける必要があります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でクリオピリン関連周期熱症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
クリオピリン関連周期熱症候群の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。