嚢胞性線維症

遺伝性疾患プラス編集部

嚢胞性線維症の臨床試験情報
英名 Cystic fibrosis
発症頻度 日本では出生60万人に1人(欧州では出生約3千人に1人) 日本の患者数:推定100人未満
日本の患者数 推定100人未満(令和3年度末現在特定医療費(指定難病)受給者証所持者数12人)
海外臨床試験 海外で実施中の治験情報(詳細は、ぺージ下部 関連記事「臨床試験情報」)
子どもに遺伝するか 遺伝する(常染色体性劣性(潜性)遺伝形式)
発症年齢 多くの場合、新生児期~乳幼児期
性別 男女とも
主な症状 腸閉塞、呼吸器感染症、消化吸収不良、胆汁うっ滞性肝硬変
原因遺伝子 CFTR遺伝子
治療 消化酵素剤による栄養管理、呼吸器感染症の予防的治療
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どのような病気?

嚢胞性線維症は、全身の分泌液や粘液の粘り気が強くなり、気道、腸管、膵管(膵液が通る管)などの管腔(管状の器官の内側)が詰まりやすくなり、体のさまざまな部位の機能に障害が起こる遺伝性疾患です。

75 嚢胞性線維症 主な症状

ヒトの体液には電解質(溶解すると陽イオンと陰イオンに分離するもの)が含まれており、体の各部位には電解質を通過させる仕組みがあります。気道、腸管、膵管、胆管(胆汁が通る管)、汗管、輸精管(精子が通る管)などの上皮には電解質のうち塩化物イオン(Cl-)の通過に関わるCFTRというタンパク質があります。嚢胞性線維症ではこのCFTRの機能が低下し、塩化物イオンと水の輸送が障害され、粘液の粘り気が高くなります。粘液は通常、気道、消化器系、生殖器系などの臓器や組織の内側を滑らかにし、保護する役割を持っていますが、嚢胞性線維症では粘液の粘り気が異常に増すことで、気道が詰まったり、呼吸や肺の細菌感染を起こしたりしやすくなります。

新生児では粘り気の強い腸液のために、生後数日経っても胎便(生まれて最初に出る便)が出ず、腸が閉塞し腹部膨満や嘔吐を起こす、胎便性イレウス(腸閉塞)が30~40%に見られます。また、約80%の患者さんの膵臓では、粘り気の強い分泌液により膵管が詰まって消化酵素が分泌されなくなり(膵外分泌不全)、膵臓の機能が障害されて消化不良や下痢を起こすようになります。約30%の患者さんでは離乳期から、大量・頻回に悪臭を伴う脂肪便が見られます。膵臓の機能が低下する患者さんでは、生まれる前から少しずつ膵臓に変化が起きており、2歳頃には膵臓から十分な消化酵素が分泌されなくなって消化酵素剤の服用が必要になります。膵臓は、血糖値の制御に関わるインスリンというホルモンを作っているため、膵臓の障害でインスリンが不足し、思春期~成人期に嚢胞性線維症関連糖尿病を起こす場合もあります。また、約20%の患者さんで、胆汁うっ滞性肝硬変が見られます。胆汁は肝臓内で作られ胆管へ分泌されますが、その輸送が障害されることで胆汁うっ滞が起こり、肝臓内に胆汁成分が溜まって肝臓が障害される状態が、胆汁うっ滞性肝硬変です。

気管支では粘り気の強い痰によって気道が閉塞して、細菌に感染しやすくなります。そのため、ほとんどの患者さんが気管支炎や肺炎を繰り返します。呼吸器感染症を繰り返すと、徐々に肺の組織が破壊されて呼吸機能が低下し、呼吸不全を起こしやすくなります。その他、男性患者さんのほとんどは、精子を運ぶ管(精管)が、粘液によって塞がれて適切に発達しないため、男性不妊になります。また、嚢胞性線維症では、汗を分泌する汗腺で塩化物イオンの再吸収が障害されるので、汗の塩分濃度が高くなります。汗の塩分濃度を調べる検査は、嚢胞性線維症を診断するために最も重要な検査となっています。

嚢胞性線維症で見られる症状

99~80%で見られる症状

胆汁うっ滞性肝硬変、膵外分泌不全、免疫不全、吸収不良、肺線維症、繰り返す呼吸器感染症

29~5%で見られる症状

脱水、肝腫大

割合は示されていないが見られる症状

ぜんそく、気管支拡張症、慢性肺疾患、肺性心、汗中塩素濃度上昇、成長障害、尿中カルシウム濃度上昇、男性不妊、胎便性イレウス、直腸脱、肺炎の反復

嚢胞性線維症は国内では2021年12月時点で47人の患者さんが登録され、治療を受けています。登録されている患者さんは重症の方が多く、診断されていない軽症の患者さんが多数いる可能性が考えられています。日本では出生約60万人に1人とまれな疾患ですが、欧州では出生約3千人に1人が発症する比較的頻度の高い疾患です。

嚢胞性線維症は、ほとんどの患者さんが新生児期~乳幼児期に発症します。男女差はありません。膵臓に症状のない比較的軽症の患者さんは、小学生~中学生の頃に気管支炎や肺炎を繰り返すようになって診断されることもあります。これまでのところ、国内の患者さんの平均生存期間は約20年ですが、患者数の多い欧米では多くの臨床試験が実施されており、今後、治療の進歩によって予後の改善が見込まれています。

嚢胞性線維症は国の指定難病対象疾患(指定難病299)、および、小児慢性特定疾病の対象疾患です。

何の遺伝子が原因となるの?

嚢胞性線維症の原因遺伝子として、7番染色体の7q31という位置に存在するCFTR遺伝子が見つかっています。

CFTR遺伝子は、塩化物イオンの通過に関わるタンパク質「CFTR」の設計図となる遺伝子です。CFTRは、塩化物イオンを細胞内外に輸送する役割を持つ、「イオンチャネル」と呼ばれる種類のタンパク質で、ナトリウムイオンなど他のイオンチャネルの働きも制御しています。塩化物イオンの輸送は、体内の粘液の水分量の調整に必要です。嚢胞性線維症では、CFTR遺伝子に変異があるため粘液の水分調節が正しく行われず、特徴的な症状が発症します。

CFTR遺伝子は比較的大きな遺伝子(27エクソンをもつ全長250kbの遺伝子)です。嚢胞性線維症の発症につながる変異はさまざまで、この遺伝子のいろいろな部分に見つかっています。日本人でしか見つかっていない変異などもあるため、患者さんが多い欧米人用の遺伝子検査体制とは別に、日本人用の遺伝子検査体制を整える必要性も考えられています。

嚢胞性線維症は、常染色体性劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。ヒトが2つ1セットで持っているCFTR遺伝子のうち、両親がともに1つずつ嚢胞性線維症につながる(病原性の)変異を有していた場合、子どもは4分の1の確率で2本とも変異を有して嚢胞性線維症を発症します。また、2分の1の確率で1本のみの変異を有し、発症はしない「保因者」となり、4分の1の確率で変異した遺伝子を持たずに生まれます。一方、日本の集計では、患者さんの中で家族歴がある(血縁にこの病気の患者さんがいる)のは25%程度とされています。

Autosomal Recessive Inheritance

どのように診断されるの?

難病情報センター、および、嚢胞性線維症の診療の手引き(改定2版)によると、嚢胞性線維症は、以下の診断基準により診断されます。

まず、下記の【鑑別すべき疾患】に該当しないことが確認されます。

【鑑別すべき疾患】

びまん性汎細気管支炎、若年性膵炎、原発性線毛機能不全症、シュバッハマン・ダイアモンド症候群

 

次いで、【臨床症状】【検査所見】【遺伝学的検査】の結果から、Definite(確定)、またはProbable(その可能性が高い)と判定された場合に嚢胞性線維症と診断されます。

Definite(確定)

下記の1~3のいずれかに該当する場合にDefiniteと判定されます。

  1. 【検査所見】の汗中塩化物イオンの異常高値があり、【臨床症状】の特徴的な呼吸症状がある
  2. 【検査所見】の汗中塩化物イオンの異常高値があり、【臨床症状】の膵外分泌不全、胎便性イレウス、家族歴のうち2つ以上がある
  3. 【臨床症状】のうち、いずれか1つがあり、【遺伝学的検査】で2つの病的なCFTR変異が確認された

 

Probable(その可能性が高い)

下記の1~4のいずれかに該当する場合にProbableと判定されます。

  1. 【検査所見】の汗中塩化物イオン濃度の異常高値があり、【臨床症状】の膵外分泌不全、胎便性イレウス、のいずれか1つがある
  2. 【検査所見】の汗中塩化物イオン濃度が境界領域で、【臨床症状】の特徴的な呼吸器症状がある
  3. 【検査所見】の汗中塩化物イオン濃度が境界領域で、【臨床症状】の膵外分泌不全、胎便性イレウス、家族歴のうち2つ以上がある
  4. 【臨床症状】のうちいずれか1つがあり、【遺伝学的検査】で1つの病的なCFTR変異が確認された

 

【臨床症状】

  1. 膵外分泌不全
  2. 呼吸器症状(感染を繰り返し、気管支拡張症、呼吸不全を来す。ほとんどの症例が慢性副鼻腔炎を合併する。粘稠な膿性痰を伴う慢性咳嗽を特徴とする)
  3. 胎便性イレウス
  4. 家族歴

 

【検査所見】

汗中塩化物イオン(Cl-)濃度

異常高値:60 mmol/L以上

境界領域:40~59 mmol/L(生後6か月未満では、30~59 mmol/L)

正常:39 mmol/L以下(生後6か月未満では、29 mmol/L以下)

 

【遺伝学的検査】

CFTR遺伝子の変異

 

どのような治療が行われるの?

今のところ、嚢胞性線維症を根本的に治すような治療法は見つかっていません。そのため、嚢胞性線維症の治療は、早期に診断して、「栄養状態を良好に保つ」そして「気道の感染症を予防して、肺の機能低下を防ぐ」治療を早期に開始し、続けていくことが中心となります。治療は生涯にわたって継続する必要があります。

新生児の胎便性イレウスに対しては、粘性の強い便を溶かす浣腸が行われますが、これで改善しない場合には手術が必要となります。消化不良があると、栄養不良になり発育が悪くなるだけでなく、感染に対する抵抗力が低下します。このため、膵外分泌不全に対しては、消化吸収を改善するために膵消化酵素剤を服用します。また、嚢胞性線維症の子どもの患者さんでは、通常よりも30~50%多くカロリーを摂取する必要があります。栄養状態は肺機能にも関わるので、良好な状態を保つことは重要です。

嚢胞性線維症では気道粘膜で好中球(白血球の1種)が死滅して、そこから大量に放出されるDNAが粘り気の強い痰の原因となります。これに対して、気道粘膜のDNAを分解して分泌液の粘稠度を下げ、痰を出しやすくするために、DNA分解酵素の吸入剤が用いられます。また、嚢胞性線維症で見られる呼吸器感染症の原因となる細菌にはさまざまなものがありますが、時間の経過とともに緑膿菌という菌が主体となっていきます。このため、緑膿菌に対する抗菌作用を持つ抗生物質の吸入剤による治療が行われます。

嚢胞性線維症の患者さんは、日ごろ痰を出したり、食事をしたりするのに時間がかかります。このため、患者さんが学校に通っている場合には、学校や先生に日常生活について説明し、理解・協力してもらう必要があります。また、病院の栄養士と薬剤師から、食事・栄養や消化酵素剤の服用のタイミングなどについて指導を受けて、適切に栄養状態を管理する必要があります。通常の食事だけで栄養が足りない場合には、おやつや液体食などを利用して必要な栄養を確保するようにします。気管支と肺の細菌感染の予防に向けて、手洗い、吸入用のネブライザーを清潔に保つ、インフルエンザ等の予防接種を受けることなどが推奨されます。また、肺機能の改善と骨の成長のために、可能な範囲で運動することも大切です。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本で嚢胞性線維症の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

嚢胞性線維症の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。

参考サイト

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