どのような病気?
人間の細胞には46本の染色体がありますが、そのうちの44本は、常染色体と呼ばれるもので、1番から22番のセットを父親と母親から1セットずつ受け取ったものです。残りの2本は性染色体と呼ばれ、XYだと男性、XXだと女性になります。ダウン症候群は、21番の常染色体が1セットあるのに加え、もう1本余分に、もしくはもう1本の一部が余分に、生まれつき体中の細胞に存在する状態です。専門的な言葉では「21番染色体全長あるいは一部の重複に基づく先天異常症候群」といいます。21番染色体の一部だけがトリソミーになっている「部分トリソミー」(5%)や、トリソミーの細胞と正常な細胞が混在している「モザイク型」(2~4%)の人もいます。ダウン症候群は、新生児に最も多く見られる染色体異常で、平均寿命は、50歳を超えています。ダウン症候群の男性は生殖能力がない場合がほとんどです。ダウン症候群の女性が子どもを産むと、この病気が遺伝する可能性はありますが、生きて生まれないケースが多いと知られています。
主な症状は、筋肉の緊張が低い、関節が弛緩する、中等度の精神遅滞、発達に遅れがみられる(低身長)、頭が小さい、後頭部の皮膚がたるんでいる、活気がない、特徴的な顔立ち(丸く平坦な顔、目じりがつり上がっている、短い鼻、口角が下向き、舌が出ている、小さい耳など)、手のひらに一直線に深いしわがある、短い手指、小指が内向きに曲がっている、環軸椎(頸椎の1番目と2番目)の脱臼・亜脱臼、など、人によりさまざまです。また、先天性心疾患(心内膜床欠損症や心室中隔欠損症など)、消化器系の疾患(十二指腸閉鎖や鎖肛など)、白血病、神経系に関する合併症(けいれん発作、20代を中心に社会性に関する能力の退行様症状など、早期発症アルツハイマー病)、目に関する合併症(屈曲異常、白内障、斜視など)、耳鼻咽喉に関する合併症(中耳炎、難聴、閉塞性無呼吸など)、歯科的問題、排尿機能障害、甲状腺機能異常、性腺機能不全なども見られることがあります。
ダウン症候群は、小児慢性特定疾病の対象疾患となっています。
何の遺伝子が原因となるの?
第21番染色体が通常2本であるところ、3本存在することにより、さまざまな遺伝子が正しく働かなくなることで発症します。
前述のように、通常、細胞に染色体は父由来23本、母由来23本の2セット計46本あります。代々、46本の染色体を保つためには、受精前の卵子や精子では、23本1セットの染色体となる必要があります。この、23本に分かれる段階で、何らかの理由で21番染色体が2本一緒に卵子もしくは精子に入ってしまう場合があります。この現象を「染色体不分離」と言います。こうした卵子/精子が受精すると、21トリソミー(=ダウン症候群)となります。染色体不分離と母親が高齢であることは、関連があると知られていますが、ダウン症候群患者さんの母親は、若い(35歳以下)人が過半数です。その理由に、年齢とは無関係に起こる、DNAの化学変化(低メチル化)が関係していると示す報告もあります。染色体には長腕と短腕があるのですが、長腕のダウン症候群発症領域がトリソミーになることが発症につながり、そこに位置するRCAN1遺伝子およびDYRK1A遺伝子が、複数の組織の発達に影響を及ぼす可能性があると示唆する論文も2015年に報告されました。
また、染色体が23本に分かれる前の過程で、異なった2本の染色体がそれぞれちぎれて、お互いの染色体断片を交換して再びくっつけてしまう「転座」が起こる場合があります。そのような生殖細胞からは、21番染色体の一部分だけがトリソミーになっている、部分トリソミーが生じる可能性があります。
さらに、受精の段階では正常な染色体数でも、受精卵から細胞分裂をしていく初期の段階で染色体不分離が起こる場合があり、その場合には21トリソミーと正常細胞が体内に混在するモザイク型となります。
どのように診断されるの?
出生前の超音波検査で、胎児の発育不全が見られた場合、または母親の血液でのNIPT(新型出生前診断)の結果などで21トリソミーが疑われた場合、羊水穿刺もしくは絨毛採取を行い、これを用いて「蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)」「染色体マイクロアレイ検査(CMA)」などの、染色体を調べる検査を行います。こうした検査で、第21番染色体が3本あることが確かめられると、21トリソミー症候群と確定診断されます。また、モザイク型かどうかの診断を確定させるために、出生後に染色体を調べる必要がある場合もあります。
どのような治療が行われるの?
ダウン症候群は、今のところ、病気の原因となる染色体を治すことはできません。それぞれの人にそのとき出ている症状や年齢に応じて、複数の診療科が連携して適切な検査を行い、タイムリーに治療を行っていきます。心臓や腸の手術が行われる場合もあります。住居のある自治体の療育(発達支援)施設と連携を図ったり、次の子どもがダウン症候群になる確率などの遺伝カウンセリングを行ったりしている医療機関もあります。
母子保健法の下、各市区町村では妊娠の届出をした際に、母子健康手帳が交付されます。ダウン症のお子さんを持つ保護者のために、日本ダウン症協会が作成し配布している「+Happyしあわせのたね」は、この母子健康手帳を補完する手帳です。成長に個人差のあるダウン症児の発育や発達を記録するためのページがあるほか、先輩ママからのメッセージなどが掲載されており、育児不安の解消にも役立つ内容の手帳です。日本ダウン症協会のページから無料配布(送料のみ負担)されているほか、自治体として配布しているところもあります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でダウン症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
- 天使病院臨床遺伝センター
- 東京逓信病院東京ダウンセンター
- 東京慈恵会医科大学附属病院母子医療センター
- 東京女子医科大学遺伝子医療センター
- 国立成育医療研究センター
- 東京科学大学病院 遺伝子診療科
- 東京都立北療育医療センター
- 神奈川歯科大学附属病院摂食嚥下外来
- 大阪医科薬科大学LDセンター
- 大阪母子医療センター遺伝診療科
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
ダウン症候群の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。
参考サイト
- 小児慢性特定疾病情報センター ダウン(Down)症候群
- 信州大学医学部附属病院遺伝子診療部 1.遺伝医学の基礎知識
- MSDマニュアル ダウン症候群(21トリソミー)
- 胎児骨系統疾患フォーラム 染色体異常-次回妊娠へのアドバイス
- KEGG DISEASE:ダウン症候群
- 国立成育医療研究センター ダウン症(ダウン症候群)
・参考文献:医学書院 医学大辞典 第2版