ドラベ症候群

遺伝性疾患プラス編集部

ドラベ症候群の臨床試験情報
英名 Dravet syndrome
別名 乳児重症ミオクロニーてんかん、SMEI、Severe myoclonic/myoclonus epilepsy of infancy、SCN1A Seizure Disorders
日本の患者数 およそ3,000人と推定(令和3年度末現在特定医療費(指定難病)受給者証所持者数67人)
国内臨床試験 実施中試験あり(詳細は、ぺージ下部 関連記事「臨床試験情報」)
発症頻度 2~4万人に1人と推定
子どもに遺伝するか ほとんどは孤発例だが遺伝する[常染色体優性(顕性)遺伝]
発症年齢 乳児期より(多くの場合は1歳までに発症)
性別 男女とも
主な症状 けいれん、てんかん発作、精神運動発達遅滞、歩行障害など
原因遺伝子 SCN1A
治療 てんかんの治療薬、てんかん食など
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どのような病気?

ドラベ症候群は、赤ちゃんの時期に見られる熱性けいれん、その後の多彩なてんかん発作やそれに伴う発達遅延などを特徴とする遺伝性疾患です。この病気は、乳児期に発症しミオクロニー発作が見られることから以前は乳児重症ミオクロニーてんかんと呼ばれていましたが、必ずしもミオクロニー発作が起こるわけではないことと、乳児期に発症するものの成人期まで続く難治性のてんかん症候群であることなどから、この病気を提唱したフランスの医師の名前からドラベ症候群と呼ばれるようになりました。

ドラベ症候群は、それまで健康に大きな問題がないと思われていた赤ちゃんに全身のけいれんが現れることで発症します。多くの場合1歳までに発症し、遅くとも1歳8か月頃までに発症することがほとんどです。けいれんは、特にきっかけがないこともありますが、発熱や入浴などで誘発されることが多く、全身のけいれんや左右どちらか半身のけいれんを何度も繰り返します。5分以上経ってもけいれんがおさまらないけいれん重積と呼ばれる状態となり、救急病院などで抗けいれん剤の注射が必要となる場合もあります。

1歳を過ぎると、けいれん発作以外にも数秒間ぼんやりとして体の力が緩むなどする欠神(けっしん)発作や、覚醒している時に急に一瞬手足がピクっとなるミオクロニー発作など、さまざまな種類のてんかん発作が発生し、頻度も増加します。また、これらの発作から全身けいれんへと移行することもあります。これらのてんかん発作は多くの場合、てんかん薬が効きにくく治療が困難な発作です(治療抵抗性)。欠神発作やミオクロニー発作は、しま模様や点滅する光を見ることがきっかけで誘発される場合があります。

幼児期から小児期には、てんかん発作を繰り返すうちに、次第に発達の遅れ(精神運動発達遅滞)や、歩行障害などが見られ始めます。発達は、多くの場合1歳まではほぼ正常で、それ以降だんだん遅れ、学童期の時点で重度から境界域までの知的障がいが現れます。一度できたことができなくなってしまう「退行」が、けいれん重積などによる急性脳症で発生する場合があります。

運動機能では、歩行障害が見られる場合が多く、歩行可能であってもふらついたり、しゃがんだような中腰の姿勢での歩行が見られたりすることもあります。また、成人してから歩行障害が悪化する場合もあります。その他には、手先を使った細かい作業が難しい場合があります。発達や運動以外に、多動、衝動性、集中力不足など行動上の問題が起こる場合もありますが、これらは抗てんかん薬の副作用と区別が難しいことがあります。

学童期以降はてんかん発作が軽減傾向となる場合もありますが、成人してからも、完全に発作がなくなることは少なく、発熱をきっかけにてんかん発作などが現れる場合もあります。合併する知的障がい、運動失調、行動の特性などもあり、成人しても生活には何らかの援助を必要とする人が多いとされます。

また、ドラベ症候群の予後として、一般的なてんかんよりも死亡率は高くなり、成人までの死亡率は15~20%と推定されています。最も多い死因はてんかん発作での予期せぬ突然死で、睡眠中に発生することが多いとされます。2番目に多い死因はてんかん重積状態とその合併症によるものです。

ドラベ症候群で見られる症状

高頻度に見られる症状

焦点起始発作(片側の脳の一部から発作が始まるてんかん発作)、発達退行、進行性の歩行運動失調

良く見られる症状

不安症、非定型欠神発作(活動中断と反応性低下を特徴とするてんかん発作、発作の始まりと終わりがはっきりしない)、自閉症的行動、動作緩慢、認識機能障害、歯車様硬直(はぐるまようこうちょく、手足の関節が歯車のようにカクカクと動く)、複雑型熱性けいれん、持続性部分てんかん、顔面のチック、生後3か月から6歳までの熱性けいれん、焦点意識保持発作、焦点半間代発作、意識減損焦点発作、全般間代発作、全般ミオクロニー発作、首の可動範囲の制限、ミオクローヌス、強迫性、パーキンソンニズム、光感受性ミオクロニー発作、光感受性強直間代性発作、筋硬直

しばしば見られる症状

動作時の震え、チアノーゼ発作、流涎(りゅうぜん、よだれを垂らすこと)、海馬の形成不全、全体的な脳萎縮、衝動性、手足の動きが協調できない、乳児期の筋緊張低下、膝の伸展制限、蒼白、扁平足、外反足、細かい運動が困難、集中力欠如、非けいれん性てんかん重積状態、脛骨(ひざ下の骨)のねじれ

まれに見られる症状

全般強直発作

ドラベ症候群の発症頻度は、2~4万人に1人と推定されています。この病気の患者さんは国内に3,000人程度いると見積られていますが、他の病気だと考えられるなどして診断されていない人がいるため、実際にはもう少し多いのではないかと考えられています。

ドラベ症候群は、指定難病対象疾病(指定難病140)、および「乳児重症ミオクロニーてんかん」として小児慢性特定疾病の対象疾患となっています。

何の遺伝子が原因となるの?

ドラベ症候群の原因遺伝子として、2番染色体の2q24.3と呼ばれる領域に存在するSCN1A遺伝子が明らかにされており、ドラベ症候群のおよそ85%がこの遺伝子の変異や欠失が原因となります。

SCN1A遺伝子は、ナトリウムイオンを細胞内に送る役割を持つタンパク質複合体(電位依存性ナトリウムチャネル)を構成する1つのタンパク質である電位依存性ナトリウムチャネルNav1.1α1サブユニットの設計図となります。

ナトリウムイオンの細胞内への輸送は、神経の電気信号を作り出したり伝達したりするために重要な役割を持っています。Nav1.1は、脳に多く存在し、SCN1A遺伝子に変異や欠失が起こることによって、神経細胞のナトリウムチャネルに異常が起こり、特にGABA作動性ニューロンと呼ばれる抑制性神経細胞の働きが失われ、てんかんの原因となる神経細胞の過剰な電気的興奮が生じるのではないかと考えられています。しかし、SCN1A遺伝子の異常がどのようにドラベ症候群の症状につながっているのかについて、詳細なメカニズムはわかっていません。

128 ドラベ症候群 仕組み 231212

また、この病気ではSCN1A遺伝子以外に、GABRG2遺伝子(5番染色体5q34領域)、GABRA1遺伝子(5番染色体5q34領域)、STXBP1遺伝子(9番染色体9q34.11領域)、SCN1B遺伝子(19番染色体19q13.12領域)、SCN2A遺伝子(2番染色体2q24.3領域)など他の遺伝子の変異が原因となる場合も報告されていますが少数です。

ドラベ症候群は、ほとんどの場合、両親はこの病気の原因となる変異を持っておらず、新しく発生した変異が原因でこの病気を発症する孤発例です。両親がこの遺伝子の変異を持つ場合には常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝し、その場合に子どもがこの病気を発症する確率は50%です。

Autosomal Dominant Inheritance

SCN1A遺伝子の変異は、熱性けいれんを伴う遺伝性てんかんプラス(GEFS+)と呼ばれる、より軽症のてんかん症状が見られる疾患の原因となる場合もあります。まれに、GEFS+を持つ親から遺伝し、子どもがドラベ症候群を発症する場合もあります。

どのように診断されるの?

ドラベ症候群の診断として、

1歳未満で全身または半身のけいれん発作を発症していることに加え、

1)焦点性発作、ミオクロニー発作、非定型欠神発作、意識混濁発作が見られる

2)発熱や入浴による誘発

3)光や図形に対する過敏性の存在

4)けいれん重積ないしはけいれん発作の群発を起こしやすい

といった1)から4)までの特徴が1つ以上見られる場合にこの病気の疑いとなります。

遺伝学的検査でSCN1A遺伝子(SCN1A遺伝子が陰性の場合にはSCN1B、SCN2A、GABRG2遺伝子についても検査)のヘテロ変異もしくは微小欠失を認めた場合に診断確定となります。

ただし、遺伝学的検査で陰性であった場合でも、上記の1)から4)までの特徴が2つ以上あり、検査の所見として

5)画像検査:乳児期は正常だが、幼児期以後は非特異的大脳萎縮がみられる。海馬萎縮を伴うこともある。

6)生理学的検査:脳波では背景活動の徐波化、広汎性多棘徐波、多焦点性棘波が年齢に伴って消長する。

7)運動・高次脳機能検査:幼児期以後に中等度以上の知的障害を伴うことが多く、神経学的にも失調や下肢の痙性を伴う。広汎性発達障害がみられることもある。

5)から7)までの特徴が1つ以上見られる場合にはこの病気の診断が確定されます。

どのような治療が行われるの?

ドラベ症候群では、てんかんの治療薬が使用されます。バルプロ酸、クロバザム、臭化物、スチリペントール、トピラマートなどから2、3種類を組み合わせて使うほか、2022年11月から他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないドラベ症候群のてんかん発作治療薬としてフェンフルラミンが販売されています。

また、食事の内容を変更して糖質を少なくして脂肪を増やす、ケトン食や修正アトキンス食とよばれる食事療法での治療が行われる場合もあります。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でドラベ症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。

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参考サイト

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