どのような病気?
エリス・ファンクレフェルト症候群は、骨や軟骨の成長障害や先天性の心疾患を特徴とする遺伝性疾患で、ほとんどの場合、腕や足が短く、身長は平均よりもかなり低く(小人症)なります。特にひじから先の部分(前腕)と足が短くなり、その他にも、肋骨が短いために胸の幅が狭い(胸郭低形成)という特徴があります。また、手や足の指が5本よりも多い多指症、手足の爪や歯の奇形もみられます。また、この病気では、半分以上において心房中隔欠損や心内膜床欠損などの先天性の心疾患を持って生まれ、時には命に関わるほどの深刻な状態を引き起こす場合もあります。その他の症状としては、両膝が内側に彎曲して左右のくるぶしがくっつかない外反膝や、粗な毛髪(毛髪の異常)などもみられます。知能や運動能力は正常であるとされます。また、この病気は、上述の先天性の心疾患や胸郭低形成などが原因で胎児期あるいは乳児期に約半数が命を落とすと言われています。
エリス・ファンクレフェルト症候群の症状は、四肢顔面骨形成不全症と呼ばれる別の病気の症状と似ている部分があります。四肢顔面骨形成不全症はエリス・ファンクレフェルト症候群と同様に、歯と爪の異常が見られますが、低身長はそれほど目立たず、先天性の心疾患もほとんどありません。この2つの病気は、同じ遺伝子の変異が原因で引き起こされます。
エリス・ファンクレフェルト症候群で見られる症状 |
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高頻度に見られる症状(99~80%) 毛髪形態の異常、口腔粘膜の形態異常、歯並びの異常、手指の多指症、指の末節骨短小、手指の爪形態の異常、外反膝(X脚)、足指の多指症、足指の爪の発育不全、爪の異常、爪異形成、新生児の短肢低身長、短肢症(典型的な手足よりも小さいか短い)、胸の幅が狭い、短い胸郭(胸部の骨格)、心臓弁の異常、心血管奇形、房室中隔欠損、発育不全 |
良く見られる症状(79~30%) 口小帯(舌の下や上下の唇の内側にあるひだ)の形態異常、小歯症、円錐形の切歯(せっし、真ん中の4本の歯)、歯数不足、手根骨の癒合、有頭骨と有鉤骨の癒合(どちらも手首の関節を構成する骨)、外反肘(肘から下が外側に湾曲)、骨盤帯骨の形態異常、肺の低形成、心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、右胸心(心臓が右側にあること)、腎臓の異常、尿管の異常、停留精巣、尿道上裂(尿道の開口部が陰茎の先ではなく上側にある)、尿道下裂(尿道の開口部が陰茎の先ではなく下側にある)、子宮内胎児発育遅延、骨格成熟遅延、完全内臓逆位、斜視 |
しばしば見られる症状(29~5%) 毛髪量の異常、薄い紅唇、歯萌出遅延(歯が生えるのが遅いこと)、肺気腫(肺の組織が壊され空気を押し出しにくくなる)、腎形成不全/無形成、水尿管(尿管の拡張症)、骨髄細胞の形態異常、女性内性器異常、急性白血病、知的障害 |
非常にまれな症状(4~1%未満) 骨格の異常 |
難病情報センターに記載の情報によると、この病気は4~6万人に1人の発生という報告があり、その頻度から日本における患者数は20年で約200~300人の出生であると推定されます。一方、米国国立衛生研究所が運営するMedlinePlusの情報によると、世界においてエリス・ファンクレフェルト症候群は新生児の6~20万人に1人の割合で発生する病気であると伝えています。非常にまれな病気のため、この病気におけるはっきりとした統計データはなく、今のところ、正確な頻度を推定することは難しい状況です。
また、MedlinePlusは、米国ペンシルバニア州の一部や西オーストラリアの先住民族の中に、この病気の頻度が高い民族が存在すると伝えています。
何の遺伝子が原因となるの?
エリス・ファンクレフェルト症候群は、4番染色体の4p16という領域に位置するEVC遺伝子またはEVC2遺伝子の変異が原因で発症するとされています。詳細はわかっていませんが、これらの遺伝子は、受精卵から赤ちゃんになる過程(発生中)の細胞同士で行われる情報伝達において重要な役割を持つと考えられています。EVC遺伝子、EVC2遺伝子が設計図となり生成されるEVCタンパク質、EVC2タンパク質は、ソニック・ヘッジホッグと呼ばれる、受精卵から胎児の体が形成されるまでの胚発生時に重要なシグナル伝達経路の調節に関わっている可能性があります。
EVC遺伝子またはEVC2遺伝子の変異により、正しく機能しない欠損タンパク質が生成されエリス・ファンクレフェルト症候群の症状を引き起こすと考えられています。これらのタンパク質がこの病気の症状を引き起こすしくみについてはわかっていませんが、これらのタンパク質が発生中の胚における正常なソニック・ヘッジホッグの働きを妨げ、骨、歯を始めとするさまざまな体の部分の成長や形成などにおいて症状が引き起こされると考えられています。
エリス・ファンクレフェルト症候群と診断されたヒトの半数以上で、EVC遺伝子、EVC2遺伝子の変異が見つかっています。しかし一方で、残りの症例については、原因となる遺伝子は不明です。
この病気は常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝するため、それぞれの細胞に2つずつ存在するEVC遺伝子またはEVC2遺伝子の両方に変異が生じることで発症します。両親は変異のある遺伝子のコピーを1つずつ持つ保因者ではあるものの、通常はこの病気を発症しません。
どのように診断されるの?
エリス・ファンクレフェルト症候群はまれな病気であり、日本ではまだ確立した診断基準が設けられていません。
米国希少疾病協議会(NORD)の情報によると、エリス・ファンクレフェルト症候群は、低身長や成長の遅れ、画像診断による骨格異常、出生歯(生まれたときにすでに生えている歯)がある、などの症状や特徴、EVC遺伝子、EVC2遺伝子の遺伝学的検査などにより行われます。また、超音波による出生前診断が可能であると伝えられています。
どのような治療が行われるの?
エリス・ファンクレフェルト症候群について、根本的に治す方法はまだなく、症状に合わせた対症療法がとられます。心疾患には心内修復術や多指症には根治的切除術などの手術が行われることがあります。その他整形外科的修復術や、心疾患に対する内服治療、デンタルケア治療などが行われます。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でエリス・ファンクレフェルト症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
参考サイト
- 難病情報センター
- MedlinePlus
- Genetic and Rare Diseases Information Center
- NORD
- Online Mendelian Inheritance in Man(R) (OMIM(R))