どのような病気?
ハンチントン病は、運動症状、不随意運動、精神症状を主な特徴とする、遺伝性の神経変性疾患です。
運動症状 初めのうちは、箸を使う、字を書くなどの細かい動作がうまく出来なくなることが多いとされています。また、同じ動作を続けていることができなくなるため、物を落としたり、転んだりします。進行すると、全身の動作がしにくくなり、他人の助けを必要とします。歩行が不安定になり、つまずきやすく、転びやすくなります。また、食事のときにむせやすい、話がしづらい、などの症状もだんだん出てくるとされています。 |
不随意運動 自分の意思とは無関係に、顔面、手足などが素早く動きます。手先がちょこちょこと動く、首を動かす、顔をしかめる、舌打ち、などの目立つ症状は、「舞踏運動」と呼ばれるため、ハンチントン舞踏病という別名もあります。それ以外にも、患者さんによっては、体のいろいろな部分で、自分の意思とは無関係に動くような症状がみられます。 |
精神症状 一般的な認知症と異なり、物忘れや記憶障害は多く見られませんが、計画して実行する能力や全体を把握する能力が障害される傾向があります。怒りっぽくなる、異常なほど同じことを繰り返す、などの性格変化や行動変化が目立ちます。うつ症状が強いと、自殺企図を起こす人もいます。てんかん発作を合併することもあります。 |
これらの症状は、いつのまにか始まり、ゆっくりと進行します(慢性進行性)。最初は、「細かい動きがしにくくなった」「顔をしかめる」「手先が勝手に動いてしまう」などの運動症状や、「落ち着かなくなった」「うつのようになった」などの精神症状・行動異常で始まることが多いとされています。他人から、最近「神経質になった」「くせが出るようになった」「行儀が悪くなった」「そそっかしくなった」などと思われることもあります。こうした症状は、「大脳基底核」「大脳皮質」といった脳の特定の部分が萎縮することで生じるとされていますが、患者さんによってかなり違いがあり、同じ家系でも、症状や経過がさまざまな場合もあります。また、徐々に進行していく病気ですが、一般には、社会生活を送るのに他人の助けを必要とするほど症状が進行するのには、発病から10年以上かかるとされています。この病気で亡くなった方の死因は、低栄養、感染症、窒息、外傷が多いとされています。
初期段階でみられる主な症状 行動障害、不器用になる、過敏になる、無関心になる、不安、幻覚、妄想、うつ症状、嗅覚が鈍くなる、目の動きが異常になる |
中期にみられる主な症状 ジストニア、不随意運動、安定して歩けない、舞踏運動、反応が遅い、体重減少、発話障害、頑固 |
後期に見られる主な症状 筋肉のこわばり、動作緩慢、重度の舞踏運動、深刻な体重減少、話せない、歩けない、嚥下障害、自力で動けない |
発症年齢は、30歳くらいの人が多いのですが、小児期から高齢まで人によってさまざまです。患者さん全体の約10%が20歳以下で発症し、「若年型ハンチントン病」と呼ばれます。男女差はほとんどありません。また、ほとんどの場合で両親のどちらかが同じ病気です。一般に子どものほうが早い年齢で発症する傾向があり、この傾向は父親が病気である場合により目立つことが多いとされています。食べた物や、趣味、運動をするかどうかなどの生活様式、環境と、発症との関連はありません。
日本にハンチントン病の患者さんは、約900人いるとされています(平成26年度医療受給者証保持者数は933人)。発症頻度は、欧州系の白人であるコーカソイドでは人口10万人あたり4~8人と報告されていますが、日本では10万人あたり0.7人という調査結果があり、人種によりやや異なる傾向があると考えられています。
ハンチントン病は、国の指定難病対象疾患(指定難病8)です。
何の遺伝子が原因となるの?
ハンチントン病の人は、第4染色体短腕の4p16.3という部分に位置する「HTT遺伝子」に異常があることがわかっています。HTT遺伝子は、ハンチンチン(huntingtin)と呼ばれるタンパク質の設計図となる遺伝子です。このタンパク質は、さまざまな組織に存在しています。機能はまだわかっていませんが、脳内の神経細胞(ニューロン)で重要な役割を果たしている可能性が考えられています。
この遺伝子には、「CAG」というDNA配列(遺伝暗号)の繰り返しがみられる部分があります(3文字の繰り返しなので「トリプレットリピート」と呼ばれます)。その数が正常の人では10~35個程度ですが、ハンチントン病の人では異常に多くなっており、36~120個あることがわかっています。なぜこの繰り返しが長くなるのかは、まだ解明されていません。CAGの繰り返しが36〜39個の場合、発病しない人もいますが、40個以上の人は、ほとんど全員が発病するとされています。また、繰り返しの数が多いほど、若年に発症し、かつ重篤である傾向があるとされています。
CAGの繰り返し数は、親から子へと世代を経るごとに増加する傾向があります(表現促進現象)。この傾向は、父親が病気だった場合に強く表れることがわかっており、その原因に精母細胞での繰り返し数の不安定性が関係していると推定されています。
CAGは「グルタミン」というアミノ酸の遺伝暗号になっているため、ハンチントン病は「ポリグルタミン病」の1つとされています。CAGが多く続くHTT遺伝子から作られるハンチンチンタンパク質は、グルタミンが長くつながった、異常に長いものになります。長いハンチンチンタンパク質は、小さな毒性のある断片に切断され、それらは凝集して神経細胞に蓄積します。すると神経細胞は正常に機能できなくなり、最終的には死んでしまいます。脳の特定の領域で起きているこれらの現象が、ハンチントン病の発症につながると考えられています。
この病気は、常染色体優性(顕性)遺伝と呼ばれる形式で遺伝します。つまり、両親のどちらかがハンチントン病だった場合、子どもがハンチントン病になる確率は50%だといえます。
子ども、特に幼児期に発症の場合には、表現促進現象のため、子どもの遺伝子診断が、両親のどちらかにとっての発症前診断となる場合もあります。
どのように診断されるの?
ハンチントン病には、医師がハンチントン病と診断するための「診断基準」があります。したがって、病院へ行き、必要な問診や検査を受けた後、主治医の先生がそれらの結果を診断基準に照らし合わせ、結果的にハンチントン病かそうでないかの診断をすることになります。
具体的には、「経過が進行性である」「常染色体優性(顕性)遺伝の家族歴がある」「3つの神経所見のいずれか1つ以上が見られる」「脳画像検査(CT、MRI)で尾状核萎縮を伴う両側の側脳室拡大が認められる」「鑑別診断の全疾患が除外できる」が、全て満たされた場合に、ハンチントン病と診断されます。
3つの神経所見とは、(1)舞踏運動を中心とした不随意運動と運動持続障害(若年発症例では、仮面様顔貌、筋強剛、無動などのパーキンソニズム症状も考慮)、(2)怒りやすい、無頓着、攻撃性などの性格変化・精神症状、(3)もの忘れ、判断力低下などの知的障害(認知症)、です。また、鑑別診断される疾患は、症候性舞踏病(小舞踏病、妊娠性舞踏病、脳血管障害)、薬剤性舞踏病(抗精神病薬による遅発性ジスキネジア、その他の薬剤性ジスキネジア)、代謝性疾患(ウィルソン病、脂質異常症)、その他の神経変性疾患(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、有棘赤血球症を伴う舞踏病)です。歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症は、ハンチントン病によく似ている場合がありますが、それぞれの病気の遺伝子異常は異なり、その検査法も確立しています。
「3つの神経所見のいずれか1つ以上が見られる」「遺伝子検査によりHTT遺伝子にCAGリピートの伸長が確認される」の両方を満たす場合にも、ハンチントン病と診断されます。遺伝子検査が行われる場合、発症者については、本人または保護者の同意を必要とします。未発症者の遺伝子診断は、所属機関の倫理委員会の承認を得たうえで、「確実にハンチントン病の家系の一員である」「本人の自発的な申し出がある」など、いくつかの条件を満たすことが必要とされます。
どのような治療が行われるの?
今のところ、ハンチントン病を根本的に、つまり、遺伝子から治すような治療法は見つかっていません。そのため、神経内科専門医のもとで、主に不随意運動や精神症状など、それぞれの症状に合わせた対症療法が行われます。
ハンチントン病に伴う舞踏運動の改善が期待できる薬として「テトラベナジン」(製品名:コレアジン)が、日本でも使用されています。この薬は、大体1日3回服用する経口薬で、副作用が生じやすいため、担当医とよく相談して服用していきます。
また、ハンチントン病の原因遺伝子から産生される変異型ハンチンチンタンパク質の産生を抑えるように設計された薬について、日本では厚生労働省より希少疾病用医薬品の指定を受け、開発が進んでいます。現在、第3相国際共同治験が行われています。
「ハンチントン病と生きる」という、国の神経変性疾患に関する調査研究班とハンチントン病患者会が作成した療養の手引きとなる冊子があります。この冊子は、難病情報センターから、自由にダウンロードして使用することができます。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でハンチントン病の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
ハンチントン病の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。