色素失調症

遺伝性疾患プラス編集部

英名 Incontinentia pigmenti
別名 ブロッホ・サルツバーガー症候群、Bloch-Sulzberger Syndrome
日本の患者数 成人が約2,500人(約10万人に0.7人)
子どもに遺伝するか 遺伝する(X連鎖優性遺伝)
発症年齢 生まれつき
性別 女性:男性=20:1
主な症状 皮膚の色素沈着、歯や骨の異常、目の異常
原因遺伝子 IKBKG遺伝子(エクソン4~エクソン10欠失)
治療 対症療法
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どのような病気?

色素失調症は、受精卵から体を構成するさまざまな組織ができていく過程で、「外胚葉(がいはいよう)」と呼ばれる皮膚や神経のもととなる組織に異常が生じる遺伝性疾患です。この病気になると、全ての人で皮膚に特徴的な色素沈着が認められます。皮膚の症状は、ほとんどの人で生後2週間以内に発症し、次の4段階で進行します。

第1期:炎症期。出生時から4か月までの間に、水疱(水ぶくれ)、紅斑(発赤)が列のように連なって多数できます。数日でかさぶたになりますが、2~6週間繰り返し続きます。血液を調べると、好酸球とよばれる白血球が増えていることも特徴です。なぜ好酸球が増えるのかは、まだわかっていません。

第2期:疣状苔癬(ゆうじょうたいせん)期。直径数mmの、いぼ状の硬い丘疹が多数でき、3~6か月続きます。この期にも、好酸球の増加が見られます。

第3期:色素沈着期。マーブル状(渦巻き状や線状)の褐色斑が、生後6か月から成人までの間で数年続きます。

第4期:色素消退期。4~5歳頃から丘疹は消えていき、痕を残さず消退します。

こうした皮膚の症状以外にも、多くの臓器に症状が出ます。この病気の人の9割で歯の欠損や発育不全が見られ、4割で骨の異常や形成不全(頭蓋骨の変形、小人症、指の形成異常など)、3割で目の症状(斜視、網膜剥離、網膜の血管異常、先天白内障、視神経の異常など)が見られます。目の症状は、視力障害や失明につながる場合があります。その他にも、脱毛、爪の欠損、精神発達障害、けいれんなどが見られます。この病気の人の多くは、成人になると症状が軽快しますが、骨の奇形やけいれん発作が持続する人も、まれにいます。

色素失調症の人の寿命は、赤ちゃんのときに重篤な合併症がなければ、病気でない人と変わりません。また、中枢神経に症状がなければ、知的障害もみられません。上述のように、さまざまな部位に症状が出ますが、重症度に関係するのは中枢神経と目の症状で、長期療養が必要になる人もいます。

色素失調症は、小児慢性特定疾病の対象疾患となっています。

何の遺伝子が原因となるの?

原因遺伝子として「IKBKG遺伝子」が同定されており、患者さんの6~8割で、この遺伝子の「エクソン4~エクソン10」という部分が欠失していることがわかっています。この遺伝子は、かつてはNEMO遺伝子とも呼ばれていました。

IKBKG遺伝子は、NFκB(エヌエフカッパビー)と呼ばれるタンパク質の、細胞内での働きに関与しており、この遺伝子が正常に働かないと、NFκBは活性化することができません。NFκBは、特に炎症の際に活躍するタンパク質ですが、炎症だけではなく、細胞が「アポトーシス」と呼ばれる自己破壊を起こすのを防ぐ役割も持っています。色素失調症の原因は完全には解明されていませんが、外胚葉組織で異常な細胞死が起こることが、病気の症状に関係する可能性が高いと考えられています。

色素失調症は、X連鎖優性遺伝と呼ばれる形式で遺伝します。人間は、性染色体と呼ばれる染色体を2本持っています。性染色体にはX染色体とY染色体の2種類があり、XYの組み合わせは男性、XXの組み合わせは女性になります。IKBKG遺伝子は、X染色体に存在する遺伝子です。

男性が1本のみ有するX染色体のIKBKG遺伝子に変異があると、正常なIKBKGタンパク質は全く作られないため、ほとんどが生まれることなく流産となります。流産は、妊娠3~4か月が多いとされています。まれに生まれる男児は、性染色体をXXYの3本もつ形で生まれたか、IKBKG遺伝子が変異している細胞と変異していない細胞が体中に混在している「体細胞モザイク」というタイプであるとわかっています。なぜ正常なIKBKGタンパク質が作られないと流産してしまうのか、まだ正確なメカニズムはわかっていません。

一方女性の場合、X染色体を2本持っているので、1本が異常でも、もう1本のIKBKG遺伝子が正常に働き、機能を補完します。そのため、死んでしまうことはなく、色素失調症として生まれてきます。したがって、色素失調症は、一般に母親から娘に遺伝する形か、新生突然変異(その子どもで初めて起きた突然変異)となります。母親から娘にこの病気が遺伝する確率は、50%です。つまり、色素失調症の母親から生まれる子供は、色素失調症の女児:色素失調症でない女児:色素失調症でない男児=1:1:1となります。

X連鎖優性遺伝

どのように診断されるの?

色素失調症には厳密な診断基準はありません。診断は、皮膚、歯、毛髪、爪の、色素失調症に特徴的な症状に基づいてなされます。母親、もしくは女のきょうだいに同じ病気が確認される、もしくは母親が流産を繰り返した経験がある、などは、診断の手がかりとなります。第1期、第2期で、好酸球が増えていることも、診断の手がかりとなります。血液細胞などを用いた遺伝子検査を受ける場合もあります。

どのような治療が行われるの?

今のところ、色素失調症を根本的に、つまり、遺伝子から治すような治療法は見つかっていません。そのため、定期的に病院を受診して検査を受け、症状に対する治療を受けます。例えば、水疱に対しては、症状が消退するまで標準的な治療(切開しない、外傷を避けるなど)を行い、必要に応じて感染症の治療をします(色素失調症の児童は皮膚の感染症を起こしやすいとされています)。発疹の初期段階に対する、局所的/全身的ステロイド治療は効果がないとされています。網膜剥離につながるリスクがある網膜の血管新生があれば、凍結療法やレーザー光凝固術という治療を受けます。けいれん発作がある人は、抗てんかん薬で治療します。その他、歯の矯正や、頭部脱毛部の縫合術などを受ける場合もあります。歯の異常により、そしゃくや発語が困難な人は、言語聴覚士や小児専門の栄養士による診療を受けます。また、精神発達遅延がある人は、発達支援プログラムや特別教育を受けます。

生後4か月までは毎月1回、生後4か月から満1歳までは3か月に1回、1歳から3歳までは半年に1回、3歳以降は毎年1回、眼科の検査を受けます。それ以外にも、視力低下や斜視の出現、頭部を外傷したときには、網膜剥離の検査を受けます。神経機能については、小児科、小児神経科、発達小児科などでの定期健診のときに脳のMRIなどの検査を受けます。歯については、小児歯科または歯科で、定期的に検査を受けます。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本で色素失調症の診断や治療を行っている、主な施設は以下です。

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参考サイト

参考文献:医学書院 医学大辞典 第2版