どのような病気?
鏡-緒方症候群は、出生直後からの呼吸障害、哺乳障害、発達の遅れ、胸郭異常(ベルのような形の小さい胸郭)、特徴的な顔立ちなどが見られる、希少な遺伝性疾患です。この病気のお子さんを妊娠中の母親の体では、羊水の増加や胎盤の過形成などがみられます。ほぼ全員(94%)が、生まれてすぐに呼吸がうまくできないために人工呼吸管理が必要になり、また、哺乳不良のためにチューブやカテーテルで栄養を注入する経管栄養が行われます。一方で、新生児期から乳児期の呼吸障害や哺乳不良の後は比較的順調な経過をたどることが多いとされています。多くの場合、平均1か月程度の呼吸管理を受けた後は成長とともに改善し、平均7.5か月程度で経管栄養は不要となります。発達の遅れは全員で見られるものの、年長になると一人で歩けるようになり、特殊支援学級などへの通学もできます。
鏡-緒方症候群で見られる特徴的な顔立ちとは、突出した人中(鼻と口の間の細長い溝)、平坦な鼻梁、額が突き出ている、眼瞼裂狭小(上まぶたと下まぶたの間の、見えている目の部分が狭く小さい)などです。その他、翼状頸(首の部分の皮膚にたるみのある状態)が見られる場合や、臍帯ヘルニアや腹直筋離開などの腹部の異常が見られる場合もあります。臍帯ヘルニアとは、胎内で赤ちゃんの腹部が十分に形成されずに、臍帯(へその緒)の中に消化管などの腹部の臓器が入り込んだ状態で生まれるものです。腹直筋離開とは腹部の正面の筋肉である腹直筋が左右に広がって、腹直筋の中央部が離れて開いた状態を指します。その他、鏡-緒方症候群では小児に発生する肝臓がんである肝芽腫の合併が約8%の患者さんに認められます。
鏡-緒方症候群で見られる症状 |
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29~5%で見られる症状 鼠径ヘルニア、側弯症、喉頭軟化症、長い指、小さい下顎、臍帯ヘルニア、動脈管開存症、肺動脈性肺高血圧症、肺形成不全、肺動脈弁狭窄症、てんかん発作、脾腫(脾臓肥大)、心室中隔欠損、など |
割合は示されていないが見られる症状 屈曲拘縮、四肢短縮、突出した人中、下顎後退、など |
鏡-緒方症候群の患者さんのうち、命を落とすのはおよそ4人に1人で、これまでに亡くなった方は全員が4歳未満でした。国内の患者数は、正確な数は不明ですが100人未満であり、難病情報センター(情報更新:2021年9月)によると、遺伝子による診断がされた患者さんは国内でこれまでに約40人です。鏡-緒方症候群は国の指定難病対象疾患(指定難病200)です。
何の遺伝子が原因となるの?
ヒトは通常、父親と母親から遺伝子を1本ずつ受け継ぎ、遺伝子は2本1セットで存在しています。遺伝子の多くは、どちらの親から受け継がれた遺伝子も同じように働きますが、いくつかの遺伝子は、父親由来のものだけ、もしくは、母親由来のものだけが機能するものがあり、そのような遺伝子をインプリンティング遺伝子と言います。鏡-緒方症候群では14番染色体の14q32.2という位置にあるインプリンティング遺伝子の異常によって、母親由来でないと働かない遺伝子が機能せず、父親由来でないと働かない遺伝子が過剰に機能することによって発症します。この原因としては、以下の3つがあり、そのうちのいずれかによって発症します。
1)母親由来のインプリンティング遺伝子の欠失
14番染色体の母親由来のインプリンティング遺伝子の一部が欠失していることによって母親由来の遺伝子が機能しないことが病気の原因となります。
2)14番染色体がともに父親に由来する父親性2倍体
染色体は通常、父親と母親から1本ずつ受け継ぎますが、まれに染色体が父親、もしくは母親のみから2本とも受け継がれる場合があり、これを「片親性2倍体」と言います。父親から2本とも受け継ぐ場合を父親性2倍体、母親から受け継ぐ場合を母親性2倍体と言います。14番染色体の父親性2倍体が起こると、前述のインプリンティング遺伝子は2つとも父親由来となり、母親由来の遺伝子が機能せず、父親由来の遺伝子が過剰に発現することになり、これが病気の原因になります。
3)遺伝子の機能を制御するメチル化の異常
遺伝子の働きを制御する機構の1つとして、DNAのメチル化という化学変化があります(エピジェネティック変化と呼ばれるDNAの変化の1つです)。これは遺伝子の特定の領域がメチル化されることでその遺伝子の働きが抑えられる(発現が制御される)ものです。インプリンティング遺伝子についても特定の領域がメチル化されることでその発現が制御され、母親由来の遺伝子が機能せず、父親由来の遺伝子が過剰に発現する状態となり、これが病気の原因となります。
鏡-緒方症候群の子どもへの遺伝については、母親が、上記の1)に該当する場合には50%の確率で子供に遺伝します(常染色体優性(顕性)遺伝形式)。病気の原因が上記の2)または3)の場合には原則として遺伝しません。
どのように診断されるの?
乳幼児期からの特徴的な小胸郭があり、下記の【主症状】および【副症状】から鏡-緒方症候群が疑われる場合、14番染色体のIG-DMRおよびMEG3-DMRという領域の高メチル化が検査で確認されると、鏡-緒方症候群と診断されます。
【主症状】
- 乳幼児期からの特徴的な小胸郭(コートハンガー型、ベル型)と呼吸障害
- 腹壁の異常(臍帯ヘルニア、腹直筋離開)
- 前額部突出、眼瞼裂狭小、平坦な鼻梁、小顎、前向き鼻孔、突出した人中を含む特徴的顔貌
- 妊娠中の羊水過多及び胎盤過形成
【副症状】
- 発達遅延
- 摂食障害
- 翼状頸・短頸
- 喉頭軟化症
- 関節拘縮
- 側弯症
- 鼠径ヘルニア
どのような治療が行われるの?
今のところ、鏡-緒方症候群を根本的に、つまり遺伝子から治療する方法は見つかっていません。そのため、病気の原因を取り除くのではなく、病気によって起こる症状に対して行う対症療法が中心となります。
早産だった場合に命を落とすケースが多いことから、妊娠中に診断がついた場合には、早産防止のための治療が行われます。出生直後に呼吸障害が見られた場合には、人工呼吸による管理が行われ、その後も必要に応じて人工呼吸管理が行われます。哺乳障害に対しては、経管栄養が行われ、その後も必要に応じて栄養管理が行われます。
新生児期から乳幼児期は、かぜ、インフルエンザ、胃腸炎などの感染症への注意が必要です。また、肝芽腫のスクリーニング検査を定期的に受けることが重要です。発達の遅れや摂食障害に対するリハビリは早めに受け始める必要があります。その他、側弯の合併なども認められることから、定期的な通院が必要になります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本で鏡-緒方症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。