リー・フラウメニ症候群

遺伝性疾患プラス編集部

リー・フラウメニ症候群の臨床試験情報
英名 Li-Fraumeni syndrome
別名 リ・フラウメニ症候群、LFS
発症頻度 一般集団の0.05%~0.2%、がん患者の0.2%(成人)~2%(小児)との報告
海外臨床試験 海外で実施中の試験情報(詳細は、ページ下部 関連記事「臨床試験情報」)
子どもに遺伝するか 遺伝する(常染色体優性(顕性)遺伝形式:病的バリアントは50%の確率で親から子へ受け継がれる)
発症年齢 病的バリアントは生まれつき持つが、がんを発症するかどうかや発症年齢は小児から成人までさまざま
性別 男女とも
主な症状 乳がん、骨肉腫、脳腫瘍、軟部肉腫、副腎皮質がん、白血病、肺がん、消化器のがん、その他まれな種類のがんを発症しやすい
原因遺伝子 TP53遺伝子
治療 がん治療、定期検診などによるがんの予防対策
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どのような病気?

リー・フラウメニ症候群は、遺伝的にがんになりやすい体質の1つです。リー・フラウメニ症候群で発症しやすいがんは、乳がん、骨肉腫、脳腫瘍、軟部肉腫、副腎皮質がん、白血病、肺がん、消化器のがん、その他まれな種類のがんなどです。こうしたがんが発症する時期やがん種は、人によって異なります。同じ遺伝子の変化をもつ家族内でも、発症時期やがん種は異なります。また、同時に複数のがんにかかったり、1つのがんが治った後に、他のがんや同じがんに再度かかったりすることもあります。しかし、リー・フラウメニ症候群であれば必ずがんを発症するというわけではなく、生涯発症しない人もいます。日本遺伝性腫瘍学会のウェブサイトには、過去の統計から40歳までに約40%、60歳までに約90%(女性は100%近く)の人が、がんを発症すると考えられていると記載されています。

がんの発症しやすさと強く関わっている「遺伝要因」がはっきりとわかっているがんのことを「遺伝性のがん」といいます。がんが発症する要因は、大きく「遺伝要因」と「環境要因」に分けられます。遺伝要因とは、その人が生まれつき持っている遺伝子の特徴(変化)のことで、環境要因とは、年齢、紫外線、喫煙、飲酒、感染症など、生まれつきではない要因のことです。多くのがんは、環境要因の影響を大きく受けて、体の特定の組織で後天的に「体細胞変異」が起こり、これがきっかけで発生するがんです。これに対して遺伝性のがんは、生まれつき体の全ての細胞に、がんになりやすい特徴を持つ「生殖細胞系列の変異」があり、これが発症のきっかけとなるがんです。遺伝性のがんは、発症に関わる遺伝子によって、なりやすい部位や頻度などの異なるものが何種類か見つかっています。

日本遺伝性腫瘍学会の資料によると、がんを発症した人全体のうち、リー・フラウメニ症候群の人の割合は、約0.2%(成人)~2%(小児)と報告されています。また、がんを発症したことがない人のうちで、リー・フラウメニ症候群の人は、約0.05%~0.2%と報告されています(日本からは0.27%という報告もあるそうです)。

リー・フラウメニ症候群の類縁疾患として、リー・フラウメニ様症候群と呼ばれる疾患があります。どちらも、小児期から複数のがんを発症するリスクが高い状態ですが、難病情報センターに掲載の、「リ・フラウメニ(Li-Fraumeni)症候群とその類縁症候群の実態調査及び悪性腫瘍の発症予防法と治療法の確立に関する研究班」による平成23年度の情報によると、それぞれの定義は以下のように区別されています。

リー・フラウメニ症候群…発端者が45歳以前に肉腫と診断され、かつ一度近親者に45歳未満に診断されたがん患者があり、かつ一度もしくは二度近親者に45歳未満のがん患者あるいは年齢を問わない肉腫患者がある。

リー・フラウメニ様症候群…一度もしくは二度近親者の2人に、年齢を問わずリー・フラウメニ症候群関連悪性腫瘍(肉腫、乳がん、脳腫瘍、副腎皮質がん、または白血病)を有する患者がある。

何の遺伝子が原因となるの?

リー・フラウメニ症候群の原因として、TP53遺伝子の病的バリアント(がんの発症につながりやすいDNA配列の特徴)が挙げられます。TP53遺伝子の病的バリアントは、リー・フラウメニ症候群の家系の約4分の3、リー・フラウメニ様症候群の家系の約4分の1で確認されています。

TP53遺伝子は、17番染色体の17p13.1という位置に存在しており、p53というタンパク質の設計図になっています。p53は、全身の細胞の核に存在し、DNAに直接結合します。有害な化学物質(発がん性物質)、放射線、日光の紫外線などによりDNAが損傷を受けると、p53は腫瘍の発生を抑えるために重要な働きをします。損傷が軽く、DNAの修復が可能な場合、p53は修復に向け、必要な遺伝子を活性化します。こうして細胞は正常に戻ります。損傷が重く、DNAの修復ができない場合、p53はその細胞が分裂するのを阻止し、細胞死(アポトーシス)を起こすように働きます。こうして異常な細胞は除去されます。このような働きを持つことから、TP53遺伝子は「がん/腫瘍抑制遺伝子」と呼ばれ、p53タンパク質は「がん/腫瘍抑制因子」と呼ばれます。TP53遺伝子に病的バリアントがあり、正常に働くp53が作られなくなると、DNAの修復や異常細胞の除去がうまく行われず、さまざまな種類のがんを発症しやすい状態になります。

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TP53遺伝子の病的バリアントは、常染色体優性(顕性)遺伝形式で、親から子へ遺伝します。両親のどちらかがTP53遺伝子に病的バリアントをもっている(リー・フラウメニ症候群である)場合、子どもが病的バリアントを受け継ぎ、リー・フラウメニ症候群となる確率は50%です。

また、両親がリー・フラウメニ症候群ではなくても、子どもがリー・フラウメニ症候群となる場合もあります。卵子や精子が形成される際に偶然起きた遺伝子の変化が原因となる場合で、新生変異と呼ばれます。リー・フラウメニ症候群の患者さんの7~20%は、新生変異であると考えられています。

どのように診断されるの?

リー・フラウメニ症候群は、原則としてTP53遺伝子に病的バリアントがあるかどうかを調べる遺伝学的検査(TP53遺伝学的検査)により診断されます。なお、2022年12月時点で、TP53遺伝学的検査は保険適用外(自費診療)です。

この検査が行われるのは「ご自身やご家族のがんの状況からリー・フラウメニ症候群が疑われる場合」もしくは、「がん遺伝子パネル検査でリー・フラウメニ症候群の疑いとなった場合」です。

ご自身やご家族のがんの状況からリー・フラウメニ症候群が疑われる場合

家系内に、下記のような状況が見られる場合にTP53遺伝学的検査が行われ、陽性であればリー・フラウメニ症候群と診断されます。

  • ご自身もしくはご家族に、がんを若年発症した人がいる
  • ご自身もしくはご家族に、同時もしくは異なる時期に複数回がんを発症した人がいる
  • 家系内に、同じ遺伝性腫瘍に関連したがんを経験した人が複数いる
  • 家系内に、一般的に発症する人が少ないがん(副腎皮質腫瘍、20代女性の乳がん、脈絡叢腫瘍など)を発症した人がいる

遺伝学的検査は通常、採血した血液を用いて行われます。検査施設で血液に含まれる白血球からDNAを取り出し、病的バリアントについて解析が行われます。

がん遺伝子パネル検査でリー・フラウメニ症候群の疑いとなった場合

がんの治療薬を見つけるために、手術などで摘出されたがんの組織を用いて複数の遺伝子を調べる「がん遺伝子パネル検査」を受けた際に、リー・フラウメニ症候群の疑いとなったり、診断されたりする場合があります。疑いの場合は、確認のための検査が行われることがあります。

遺伝学的検査の結果は、「病的バリアント陽性」「病的バリアント陰性」「臨床的な意義不明なバリアント(VUS、Variant of Uncertain Significance)を検出」の3つに大きく分けられます。

病的バリアント陽性の場合、リー・フラウメニ症候群と確定診断されます。病的バリアント陰性は、「現在の検査技術で今回調べた結果、病的バリアントが認められなかった」と解釈され、「遺伝性のがんである可能性は全くない」ということにはなりません。リー・フラウメニ症候群以外の遺伝性のがんである可能性を含めて、既往歴や家族歴を含めた今後の健康管理について医療者と話し合うことになります。「VUSを検出」とは、TP53遺伝子にバリアントが見つかったものの、そのバリアントは現時点ではがんの発症しやすさに関連するかどうかは不明なものだった、という意味です。VUSは、今後、病的バリアントなのかそうでないのか、はっきりとわかる可能性があります。VUSが見つかった場合も、病的バリアント陰性だった場合と同じく、既往歴や家族歴を含めた今後の健康管理について医療者と話し合うことになります。

リー・フラウメニ症候群に特徴的ながんを発症する家系のうち、TP53変異が確認されない家系が見られることもあります。この場合に関与している遺伝的要因は不明です。こうした背景から、TP53遺伝学的検査の結果が陰性でも、「古典的診断基準」を全て満たす場合、リー・フラウメニ症候群と診断されます。

古典的診断基準

  • 発端者(家系内でリー・フラウメニ症候群かもしれないと気づくきっかけになった、最初の発症者)が、45歳未満で肉腫と診断されている
  • 第1度近親者(親、子、兄弟姉妹など)に45歳未満で悪性腫瘍と診断された人がいる
  • 第1度、第2度近親者(親、子、兄弟姉妹、祖父母、孫、異父母兄弟姉妹、おじ、おば、姪、甥など)に45歳未満で悪性腫瘍と診断された人がいる、もしくは、年齢を問わず肉腫と診断された人がいる

遺伝学的検査は、結果の解釈など、とても専門的な検査です。わからないことや心配なこと、検査を受けるタイミングなどを含め、検査を受ける前から、遺伝カウンセリングなどを通じて医療者とよく話し合いましょう。

がんを発症していない血縁者も、保険適用外でTP53遺伝学的検査を受け、リー・フラウメニ症候群かどうかを確認することができます。この確認により、陽性だった場合/陰性だった場合、それぞれにメリット/デメリットがあります。検査を受けて確認をしたい場合にも、遺伝カウンセリングなどを通じて医療者とよく話し合いましょう。

また、検査の結果、遺伝性のがんが否定された場合でも、一般的ながんのリスクはあるため、一般的ながん検診はしっかり受けるようにしましょう。

どのような治療が行われるの?

リー・フラウメニ症候群に関連して発症したがんの治療は、一般的ながんと同様に行われます。「リー・フラウメニ症候群の人に発症したがん」に特化して作用が期待できる治療薬や、発症を予防する薬は、今のところありません。がんを発症しやすい体質を治す遺伝子治療も、今のところありません。

各がんの治療については、遺伝性疾患プラスを運営するQLifeの、がん情報メディア「がんプラス」をご参照ください。

なお、リー・フラウメニ症候群では、がんの治療に放射線治療を用いると、2次がんリスクが高くなる可能性があるため、手術や抗がん剤による治療が選択できる場合は、放射線治療を避けることが勧められています。

リー・フラウメニ症候群では、子どもから大人まで、さまざまながんを発症しやすく、1人で2回以上がんを経験することもあるため、さまざまながんのリスクを想定した予防策(健康管理)が積極的に行われます。

一次予防(がんの予防)

  • 喫煙や、不必要な放射線被ばくなどを避ける
  • 体調が悪いときには、早期に受診をして検査を受ける
  • リー・フラウメニ症候群に詳しい医療者を見つけ、何かあったら相談できるようにしておく

二次予防(がんを早期発見し、早期治療ができるようにするための健康管理)

がんで命を落とす可能性を低くするために、早期発見は重要です。そのために、精密検査(全身MRIなど)を定期的に受けるなどの健康管理方法(サーベイランス)が勧められます。子どものうちに推奨されるサーベイランス、成人から推奨されるサーベイランスなど、日本を含め、世界各国で集められたデータから提案されています。日本遺伝性腫瘍学会の資料にも、1つの例として北米で行われてきた推奨サーベイランス(AACR指針)が掲載されています。

こうしたサーベイランスは、通常、保険適用外(自費診療)となるため、まずは担当医とよく相談のうえ、自身の状況にあわせた形で行っていくことになります。また、国内でサーベイランスの臨床試験が行われている場合には、参加できる条件や施設等が合致すれば、試験に参加して検査を受けることもあります。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本全国の「暫定遺伝性腫瘍指導医」とその所属医療機関は、一般社団法人日本遺伝性腫瘍学会ウェブサイトの「暫定遺伝性腫瘍指導医のリスト」からご確認頂けます。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

リー・フラウメニ症候群の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。

参考サイト

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クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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