どのような病気?
ロウ症候群は、白内障などの眼症状、知的障害などの中枢神経症状、腎尿細管機能障害、特徴的な顔立ちなどが見られる遺伝性疾患で、1952年に、米国のCharles U. Lowe博士らによって報告されました。
腎臓の尿細管の異常によって血液が酸性に傾く「尿細管性アシドーシス」に関する日本国内の調査では、尿細管性アシドーシスの約3分の1がロウ症候群によるものとされています。眼症状としては、両側性の先天性白内障、先天性緑内障、角膜変性、斜視、眼振(自分の意思と関係なく眼球が動く現象)などがあります。神経症状としては、認知障害、精神発達遅滞、けいれん、行動異常、筋緊張低下などがあります。認知障害や発達遅滞は個人差がありますが、大半は軽症~中等症とされています。けいれんは約半数に見られます。腎障害としては、糸球体や尿細管の障害が見られ、ファンコーニ(Fanconi)症候群(※1)と呼ばれる病態が見られることがあります。
(※1)腎臓は、血液中の老廃物などを糸球体で濾過して、糸球体から続く尿細管で必要な物質を再吸収し、最終的に不要な物質を尿として排出します。ファンコーニ症候群は、本来は腎臓の尿細管で再吸収されるアミノ酸、ブドウ糖、重炭酸無機リンなどが尿中へ排出されることで代謝性アシドーシス、電解質異常、脱水、発達障害、くる病/骨軟化症(※2)など生じる疾患です。
(※2)くる病と骨軟化症は、骨や軟骨の石灰化障害で、小児期に発現するものをくる病、成人以降に発症するものを骨軟化症といいます。
ロウ症候群で見られる症状 |
高頻度に見られる症状 瞳形態異常、尿細管形態異常、声の異常、弱視、不安症、反射消失(刺激に対する反応の消失)、白内障、うつ、不全失語症、腎糸球体障害、知的障害、常同運動症(同じ運動や行動を繰り返す)、新生児筋緊張低下、眼振、腎不全、低身長 |
良く見られる症状 副甲状腺ホルモン分泌異常、関節炎、注意欠如・多動性障害(ADHD)、中枢神経系良性腫瘍、先天性緑内障、けいれん、便秘、停留精巣(睾丸が陰嚢内に収まっていない状態)、奥目、成長障害、幼児期摂食障害、繊細な毛、前頭隆起(前額部の突出)、大きな頬、色素沈着低下、緑内障、副甲状腺機能亢進症、関節過伸展、長い顔、低い位置で後傾した耳、皮膚の腫瘍、強迫性障害、くる病/骨軟化症、立ち耳、反復する骨折、側弯症、てんかん発作、自傷行為、乏毛症、血小板減少症、脳室拡大 |
しばしば見られる症状 歯のエナメル形態異常、肋骨形態異常、骨端形態異常、歯列異常、骨幹端異常(骨幹端は骨幹と骨端の間の部分)、貧血、瘢痕、無精子症、虫歯、口唇炎、網脈絡膜異形成(眼の組織の形態異常)、慢性中耳炎、角膜混濁、深い人中(人中は鼻の下にあるくぼみ)、歯の萌出遅延(萌出は歯が生えること)、思春期遅延症、歯の密生、尿崩症(多尿症)、下唇形態異常、後頭部扁平、胃食道逆流、外反膝、歯肉炎、股関節脱臼、高アルドステロン血症、鼠径ヘルニア、関節拘縮、後湾症、流涙異常、眼の水晶体形態異常、長い人中、吸収不良、顎形態異常、小顎症、小眼球症、多発性腎嚢胞、狭い口蓋(口蓋は口腔上壁)、腎石灰沈着、腎結石、歯原性腫瘍(歯の発生に関連する腫瘍)、開咬(噛み合わせが悪い状態)、口を開けている、膝蓋骨脱臼、歯周病、扁平椎体症、呼吸器感染症の反復、呼吸障害、皮膚潰瘍、斜視、歯の欠如、低い位置の唇、臍ヘルニア、眼瞼裂斜上(眼がつり上がっている状態)、尿生殖器瘻(尿路と生殖器がつながる孔がある状態) |
ロウ症候群の正確な有病率は不明ですが、およそ50万人に1人の頻度とされており、国内の患者数は約500人と推定されています。
ロウ症候群は小児慢性特定疾病に指定されています。
何の遺伝子が原因となるの?
ロウ症候群の原因はOCRL遺伝子の変異によると考えられています。細胞を覆う細胞膜や、細胞内の小器官の膜はイノシトールリン脂質という脂質を主体として構成されています。OCRL遺伝子を設計図として作られるOCRL1タンパク質は、イノシトールリン脂質を分解する作用があります。このためOCRL1タンパク質は細胞内のイノシトールリン脂質の量を調整し、細胞膜を介した物質の出入りや細胞骨格の制御などの機能に関与すると考えられています。しかし、OCRL1タンパク質の産生低下とロウ症候群の発症機序の関係についてはまだよくわかっていません。
ロウ症候群はX連鎖性遺伝形式で遺伝します。X連鎖性遺伝疾患は、性染色体であるX染色体の遺伝子変異によって生じます。男性はX染色体が1つであるため、その遺伝子に変異があるとロウ症候群を発症します。X染色体を2つ持つ女性では、1つの遺伝子に変異があっても、男性の場合よりも軽症であるか、全く症状が現れないこともあります。X連鎖遺伝の特徴として、息子は父親からX遺伝子を引き継がないため、父親がロウ症候群であった場合に息子にはロウ症候群は遺伝しません。
どのように診断されるの?
ロウ症候群は臨床症状や検査所見からロウ症候群が疑われる場合には、遺伝子診断によって確定診断が行われます。
<臨床症状>
眼症状:両側性の先天性白内障、先天性緑内障、角膜変性、斜視、眼振、小眼球症など
神経症状:認知障害、精神発達遅滞、けいれん、行動異常、筋緊張低下など
腎障害:尿細管障害、糸球体障害、Fanconi症候群など
その他:低リン血症、代謝性アシドーシス、筋緊張低下、くる病/骨軟化症、関節病変、繊維腫、歯膿疱、停留睾丸など
<検査所見>
血液検査:血中HCO3-低下、低カルシウム血症、高クロール血症、低リン血症、ALP上昇、低カルニチン血症、BUN上昇、血清クレアチニン上昇、活性型ビタミンD低下、トランスアミナーゼ上昇、LDH上昇、クレアチニンホスホキナーゼ上昇
尿検査:尿量増加、低比重尿、タンパク尿、汎アミノ酸尿、糖尿、高カルシウム尿、高リン酸尿
画像診断:X線検査によるくる病所見、脳MRI検査における脳室周囲白質、汎卵円を中心とした高信号と微細嚢胞
腎病理所見:尿細管上皮の萎縮、間質の繊維化、糸球体基底膜の肥厚、足細胞の癒合・硝子化、腎髄質の石灰化
確定診断:OCRL1遺伝子変異または皮膚培養線維芽細胞などを用いたOCRL1タンパク質の活性低下が証明されれば確定診断となります。
どのような治療が行われるの?
ロウ症候群では、各症状に対する治療(対症療法)が行われます。視力の発達に向けて、早期にめがねやコンタクトレンズを使用する必要があります。白内障や緑内障などの眼症状に対しては外科的治療も考慮されます。神経症状では、けいれんに対しては抗けいれん薬を使用し、筋力低下に対しては理学療法が行われます。ファンコーニ症候群に対しては、尿細管から喪失した物質の補充が行われます。代謝性アシドーシスに対しては血液をアルカリ性にする薬剤やカリウムやリンの補充、活性型ビタミンD製剤の投与などが行われます。また、多尿傾向となるため、十分な水分摂取が励行されます。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でロウ症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。