どのような病気?
PCDH19関連症候群は、X染色体上に存在するPCDH19遺伝子の異常によって、乳幼児期からてんかん発作、知的障害、精神障害が現れる遺伝性疾患です。通常、男性では発症せず、女性にのみ発症します。この遺伝子に変異のある女児は、軽度の運動発達の遅れがある場合もありますが、生まれてしばらくは問題なく成長・発達します。乳幼児期のある時点で発熱・感染症などをきっかけにてんかん発作が現れることが多いとされます。
この病気のてんかん発作の特徴は、1回の発作は数分以内などで持続時間が短く、すぐに意識も正常に戻るものの、しばらくするとまた発作が起こるというように、連続して何度も発作が繰り返される「てんかん発作群発」です。このてんかん発作群発は、一日から長い場合は数週間程続くこともあり、度々入院が必要となることがあります。発作が起きる頻度は個人によってさまざまですが、多くは1~数か月単位で何度も繰り返します。このようなてんかん発作群発は、発熱や風邪などをきっかけに始まることが多いですが、特に誘因がないのに再発することもあります。
てんかん発作の種類としては、焦点性発作(脳の一部分でてんかんが起きる)や全身のけいれん(強直発作、強直間代発作)が主体とされますが、実際の発作の症状としては、全身を硬直させる、ガクガクと規則的に動く、手足をバタバタさせる、怖がっているように叫ぶ、反応がなくなって顔色が悪くなる、口をぺちゃぺちゃとならすなどさまざまです。
てんかん発作群発は乳幼児期が最も頻度が高く、毎月繰り返すこともありますが、小学校に入ってからは徐々に頻度が減り、思春期を過ぎてから消失する(寛解)ことが多いとされています。一部では成人期にも継続しててんかん発作がみられます。
このようなてんかん発作群発を何度も繰り返すうちに、知能の発達の遅れが出てくる場合があります。その他にも、こだわりが強い、人とのコミュニケーションが苦手といった自閉症の様な症状や、落ち着きがないなどの多動症状がみられることもあります。運動発達は幼少期に遅れることもありますが、成長後は良好であるとされます。
一方で、成人期にも継続しててんかん発作がみられる場合や、発作があっても知的発達が正常な場合など、PCDH19関連症候群の症状や重症度は、個人差が大きく経過もさまざまです。
PCDH19関連症候群で見られる症状 |
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高頻度に見られる症状(99~80%) 熱性けいれん |
良く見られる症状(79~30%) 社会的行動障害、攻撃的行動、不安症、異常行動、強直間代発作、言語発達遅滞、全般間代発作、全般強直発作、知的障害、運動発達遅滞、強迫行動、てんかん発作重積状態(発作が異常に長引くか、発作が終わって意識が戻らないうちにまた繰り返す状態) |
しばしば見られる症状(29~5%) 脱力発作(全身の筋肉の緊張が低下・消失する発作)、非定型欠神発作(数十秒間にわたり意識がなくなる発作)、自閉症的行動、複雑性熱性けいれん、焦点発作、全般ミオクロニー発作、全身性非運動(欠神)発作、全般的発達遅滞、多動症、衝動性、軽度の知的障害、中程度の知的障害、重度の知的障害 |
非常にまれな症状(4~1%未満) 食行動異常、精神病 |
この病気の正確な患者数は不明ですが、海外の報告では、人口10万人あたり4.8人程度とされています。日本の患者数は100人未満とされていますが、海外の発症頻度から推定すると日本には約6,000人の患者さんがいる可能性もあるとされています。PCDH19関連症候群は国の指定難病(指定難病152)および小児慢性特定疾病となっています。
何の遺伝子が原因となるの?
PCDH19関連症候群はX染色体のXq22.1に存在するPCDH19遺伝子において、点変異や遺伝子欠失(遺伝子全体もしくは一部が失われる)などの異常が起こることが原因とされます。PCDH19遺伝子は、脳の発達に重要なプロトカドヘリン19タンパク質の設計図となる遺伝子で、このタンパク質は脳や中枢神経で働くことが知られています。
PCDH19遺伝子の異常が病気を引き起こす詳細なメカニズムはまだ明らかになっていませんが、この病気の症状が女性だけに見られるという特徴から、PCDH19遺伝子がX染色体上に存在することが関連していると考えられています。ヒトは、性染色体と呼ばれるX染色体とY染色体の2種類の染色体を1対2本持っており、男性はXとYの組み合わせで、女性はXとXの組み合わせで性染色体を持ちます。通常、1つのX染色体上の遺伝子に変異がある場合には、女性はX染色体の遺伝子を2つ持っているために、変異していない遺伝子が失われた遺伝子の機能を補うことができる一方、男性は変異した1つのコピーしか持たないために影響が大きくなり、女性に比べて病気が重症であることが多くなります。しかし、このPCDH19関連症候群の場合には、男性にはほとんど影響がでず、女性のみに症状がでます。なぜ男性ではこの病気を発症しないのかについてはまだわかっていません。
PCDH19関連症候群の多くは、両親ともに遺伝子の異常がなく、遺伝子の突然変異によって発症する孤発例であるとされます。しかし、両親がこの遺伝子の変異を持つ場合にはX連鎖遺伝形式で遺伝します。母親がPCDH19遺伝子の変異を持っている場合は、多くの場合母親が発症しており、その娘は50%の確率でその遺伝子を受け継ぎ発症する可能性があります。またこの病気は、男性にこの遺伝子の変異があっても発症しませんが、この変異を持つ父親の娘は、この遺伝子に変異のあるX染色体をかならず受け継ぐため、病気を発症する確率が極めて高くなります。
どのように診断されるの?
この病気の診断基準として、まず以下の7つの症状、特に1)~5)の症状がある場合は、PCDH19関連症候群が疑われます。
1)女児
2)乳児期から幼児期前半にてんかん発作を発症
3)繰り返す発作群発
4)しばしば発熱や感染症が発作再発の契機となる
5)発作型は、焦点性発作、全身けいれんが主体
6)家族例では女性にのみ発症する特異な分布がみられ、男性は健常
7)知的障害、種々の精神神経症状(自閉、多動など)
また、検査所見としては以下が確認され、3)が見られる場合についても、この病気が疑われます
1)血液・生化学的検査所見に特異的なものはない
2)頭部CT/MRIは基本的に正常(軽微な萎縮、形成異常など非特異的な変化を伴うこともある)
3)生理学的所見:発作間欠期脳波では、しばしば焦点性棘・鋭波や基礎波・背景活動の徐派化を認める
加えて、遺伝学的検査により、PCDH19遺伝子に変異が認められた場合に、診断確定となります。
どのような治療が行われるの?
PCDH19関連症候群を根本的に治す方法はまだなく、症状に合わせた対症療法がとられます。てんかん発作に対しては、症状に合わせて抗てんかん薬による治療が行われます。てんかん発作群発が激しいときは入院して、緊急的に発作を抑える薬を注射で投与することがあります。また、発作を予防する目的で抗てんかん薬の内服が行われます。
この病気は、発熱や感染など、体調不良時のてんかん発作が多いことがわかっています。このため感染症のリスクを低下させるための手洗いやうがいの励行のほか、予防接種による各種の感染症予防も重要です。一般的なてんかん発作を持つ患者さんと同様に、日常生活リズムを整え、抗てんかん薬の内服の継続することなどが重要となります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でPCDH19関連症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
米国のPCDH19関連症候群の患者支援団体で、ホームページを公開しているところは、以下です。
参考サイト
- 難病情報センター
- 小児慢性特定疾病情報センター PCDH19関連症候群
- Genetic and Rare Diseases Information Center
- Online Mendelian Inheritance in Man(R) (OMIM(R))