どのような病気?
遺伝性周期性四肢麻痺(まひ)は、発作性の脱力やまひを特徴とする遺伝性疾患です。
ヒトが筋肉を動かす際には、筋細胞の内外の電解質の濃度が瞬時に変化することで筋肉の収縮や弛緩が起こります。電解質とは、体液の中でプラスまたはマイナスのイオンになるもので、主な電解質としてナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオンなどがあります。細胞における電解質の濃度の変化は細胞膜にあるイオンチャネルと呼ばれる構造を電解質が通過することで起こり、各電解質が通過するイオンチャネルはカルシウムチャネル、カリウムチャネル、ナトリウムチャネルなどと呼ばれます。
遺伝性周期性四肢麻痺は、電解質の通路であるイオンチャネルが適切に機能せずに、筋細胞の電解質の濃度調整に異常が生じることで脱力やまひが生じる疾患と考えられています。この疾患は、血清カリウム値の異常を伴うことが多く、発作時の血清カリウム値によって、「低カリウム性周期性四肢麻痺」と「高カリウム性周期性四肢麻痺」に分類されます。
この疾患で見られるまひや脱力発作の持続期間や程度はさまざまです。持続期間は1時間程度のこともあれば、数日に及ぶこともあります。症状の程度は、限られた部位の筋力が低下する程度(ちょっと力が入りにくいと自覚する程度)から、完全まひ(完全に運動や感覚の機能が喪失した状態)の場合までさまざまです。発作の頻度も、生涯で数回という人もいれば毎日という人もいます。一般に、高カリウム性は低カリウム性より、程度も軽く、持続期間も短いとされています。一方、初回発作は、低カリウム性が思春期頃であるのに対し、高カリウム性は小児期からで発症時期が早い傾向にあります。
遺伝性周期性四肢麻痺では、まひ発作を誘発する因子があります。高カリウム性の誘発因子は、「カリウムを多く含む食物(バナナ、じゃがいもなど)の摂取」「運動後の安静」「寒冷」「妊娠」「飲酒」「特定の薬による治療」「絶食」「ストレス」などです。高カリウム性の典型的な発作は、朝食前に15分~1時間ほど発作が持続した後に消失するというものです。発作のない時に筋肉のこわばりを感じる患者さんもいます。
低カリウム性のまひ発作の誘発因子は、「前日の激しい運動」「高炭水化物食」「大量の飲酒」「精神的ストレス」「ウイルス感染」「特定の薬による治療」などです。低カリウム性の典型的な発作は、前夜にアルコールを含む飲食をし、朝目覚めたら体が動かないというものです。多くの患者さんは、症状として現れるのはまひ発作のみで、発作のない時は異常が見られません。一方で、約25%の患者さんでは筋力低下が持続し、進行がみられます。
この疾患では足に症状が多く出る傾向がありますが、全身の筋肉に起こる場合もあります。一般に、顔面・飲み込み(嚥下)・呼吸に関わる筋肉のまひは少ないとされており、まひ発作中も飲み込みや呼吸に問題は生じません。発作が起きていないときには筋力低下は見られないことが多いのですが、低カリウム性では進行性・持続性の筋力低下を生じる人もいます。また、高カリウム性では筋強直(筋肉がこわばってうまく動かすことができない状態)がしばしば認められます。
遺伝性周期性四肢麻痺の患者さんの多くは、幼少期以降に何らかの症状を感じていることが多いとされています。また、中年以降では症状が軽くなることが多くあります。一般的には命に関わる病気ではありませんが、高齢になると筋力が低下したり転倒しやすくなったりするなど、生活機能に支障が出ることもあります。
高カリウム性周期性四肢麻痺で見られる症状 |
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99~80%で見られる症状 脳性まひ、血清クレアチンキナーゼ上昇、筋電図異常、弛緩性まひ、腱反射の低下 |
79~30%で見られる症状 筋肉の小さなけいれん、歩行障害、高カリウム血症、筋肉痛、筋緊張 |
29~5%で見られる症状 不整脈、便失禁、胸痛、うっ血性心不全、乳児期の摂食不良、筋緊張亢進、低ナトリウム血症、悪性高熱症、眼筋まひ、感覚異常、呼吸障害、筋委縮、筋肥大 |
低カリウム性周期性四肢麻痺で見られる症状 |
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99~80%で見られる症状 筋電図異常、弛緩性まひ、筋細胞内脂質沈着、血清クレアチンキナーゼ軽度上昇、 |
79~30%で見られる症状 運動時の筋肉疲労、食後高血糖 |
29~1%で見られる症状 筋力低下、筋障害、副腎皮質腺腫、呼吸筋の疲労性筋力低下、呼吸筋まひ |
遺伝性周期性四肢麻痺は、患者さんの人数が少なく、また把握しきれていないため正確な有病率はわかっていませんが、高カリウム性は20万人に1人、低カリウム性は10万人に1人程度で、国内の患者さんはおよそ1,000人とされています。軽症で病気と自覚しておらず、診断されていない人が多くいることが予想されており、実際の患者さんの数はもっと多い可能性があると考えられています。男女ともに発症しますが、低カリウム性では女性は男性より症状が軽いことが多いと知られています。また、特定の生活習慣や地域が病気に影響するとは考えられていません。
遺伝子の異常が原因ではなく、ホルモン異常などが原因となって周期性の四肢まひがおこる「二次性周期性四肢麻痺」は、遺伝性周期性四肢麻痺とは区別される疾患です。
遺伝性周期性四肢麻痺は、国の指定難病対象疾患(指定難病115)となっています。
何の遺伝子が原因となるの?
遺伝性周期性四肢麻痺に関連性の高い2つの遺伝子が見つかっています。1つは「CACNA1S遺伝子」で、もう1つは「SCN4A遺伝子」です。CACNA1S遺伝子は、1番染色体の1q32.1という位置に存在しており、骨格筋のカルシウムチャネルの主要部分を構成するタンパク質(α-1サブユニット)の設計図となっています。SCN4A遺伝子は、17番染色体の17q23.3という位置に存在しており、骨格筋のナトリウムチャネルの主要部分を構成するタンパク質(αサブユニット)の設計図となっています。
これらの遺伝子の変異によって、骨格筋細胞のカルシムチャネルやナトリウムチャネルが正常に機能しないことが、この疾患に関わっていると考えられています。病型別には、高カリウム性にはSCN4A遺伝子の変異が関与し、低カリウム性にはCACNA1S遺伝子とSCN4A遺伝子のいずれかの遺伝子の変異が関与していると考えられています。
また、低カリウム性周期性四肢麻痺に不整脈や奇形を伴うアンデルセン・タウィル症候群という疾患があり、これにはカリウムチャネルを構成するタンパク質の設計図であるKCNJ2遺伝子およびKCNJ5遺伝子の異常が関与することがわかっています。
このほか、遺伝子変異が確認されない原因不明のケースがあり、これら以外の遺伝子の関与も考えられています。
遺伝性周期性四肢麻痺は、常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝します。常染色体優性遺伝形式は、両親から1つずつ受け継いで1対2個ある遺伝子のうち1個の遺伝子の変異で発症するもので、両親のどちらかが遺伝子の変異を持つ場合に子どもがその遺伝子を受け継ぐ確率は50%です。しかし、両親は遺伝子の変異がなくお子さんで変異が起き、この病気を発症する患者さんもいます。
どのように診断されるの?
難病情報センターによると、遺伝性周期性四肢麻痺は、低カリウム性と高カリウム性の病型別に、以下の診断基準により診断されます。
遺伝性低カリウム性周期性四肢麻痺
まず、下記の【鑑別すべき疾患または状態】に該当しないことが確認されます。
【鑑別すべき疾患または状態】
甲状腺機能亢進症、アルコール多飲、カリウム排泄性利尿剤の服用、甘草(カンゾウ)の服用、原発性アルドステロン症、バーター症候群、腎尿細管性アシドーシス、慢性下痢・嘔吐
次いで、下記の1~7の所見から、Definite(確定)、またはProbable(その可能性が高い)と判定された場合に遺伝性低カリウム性周期性四肢麻痺と診断されます。
1. 以下の全ての特徴を持つまひ(筋力低下)発作を生じる
- 意識は清明
- 発作時、血清カリウム濃度は著明に低下
- 呼吸筋・嚥下筋は侵されない
- 発作持続は数時間~1日程度
- 発作は夜間から早朝に出現することが多い
- 激しい運動後の休息、高炭水化物食あるいはストレスが誘因となった発作がある
2. 発症は5歳~20歳
3. 発作間欠期には、筋力低下や血清クレアチンキナーゼ上昇を認めない
4. 針筋電図でミオトニー放電を認めない
5. 発作間欠期のProlonged exercise test(運動試験)で振幅の漸減現象を認める
6. 常染色体性優性(顕性)遺伝の家族歴がある
7. 骨格筋型カルシウムチャネル遺伝子(CACNA1S)あるいはナトリウムチャネル遺伝子(SCN4A)に遺伝性周期性四肢麻痺に特異的な変異を認める
Definite(確定)
1、2、3に加えて6または7を認める(1の項目を一部しか満たさない場合には4と5を認める)
Probable(その可能性が高い)
1、2、3、4を認める(1の項目を一部しか満たさない場合には5を認める)
遺伝性高カリウム性周期性四肢麻痺
まず、下記の【鑑別すべき疾患または状態】に該当しないことが確認されます。
【鑑別すべき疾患または状態】
カリウム保持性利尿薬の服用、アジソン病、腎不全、ミオトニーを呈する疾患(筋強直性ジストロフィー、先天性ミオトニーなど)
次いで、下記の1~7の所見から、Definite(確定)、又はProbable(その可能性が高い)と判定された場合に遺伝性高カリウム性周期性四肢麻痺と診断されます。
1. 以下の全ての特徴を持つまひ(筋力低下)発作を生じる
- 意識は清明
- 発作時、血清カリウム濃度が高値あるいは正常
- 呼吸筋・嚥下筋は侵されない
- 発作持続は数10分~数時間程度
- 寒冷、果物など高カリウム食の摂取、空腹あるいは安静(不動)が誘因となった発作がある
2. 発症は15歳まで
3. 発作間欠期には通常、筋力低下を認めない
4. ミオトニーを認める:下記1)または2)
1)臨床的にミオトニー現象(筋硬直現象)を認める
<例> 眼瞼の強収縮後の弛緩遅延、手指を強く握った後の弛緩遅延、診察用ハンマーによる母指球や舌などを叩いた際の筋収縮、繰り返しによる増悪、寒冷による悪化、など
2)針筋電図でミオトニー放電を認める
5. 発作間欠期にProlonged exercise test(運動試験)で振幅の漸減現象を認める
6. 常染色体性優性(顕性)遺伝の家族歴がある
7. 骨格筋型ナトリウムチャネル遺伝子(SCN4A)に遺伝性周期性四肢麻痺に特異的な変異を認める
Definite(確実)
1、2、3に加えて6または7を認める(1の項目を一部しか満たさない場合には5を認める)
Probable(その可能性が高い)
1、2、3、4を認める(1の項目を一部しか満たさない場合には5を認める)
どのような治療が行われるの?
今のところ、遺伝性周期性四肢麻痺を根本的に治すような治療法は見つかっていません。そのため、遺伝性周期性四肢麻痺の治療としては、症状に対する治療や発作を予防するための治療が行われています。
まひ発作に対しては、急性期の対症療法と間欠期の予防療法が行われます。まひ発作時の急性療法としては、低カリウム性ではカリウムの経口薬、または静脈内注射による投与が行われます。重度のまひ発作では、カリウムを投与してもカリウム値がなかなか上昇しないことがあります。高カリウム性では、まひは軽度で持続期間も短いことが多いのですが、血清カリウム値の上昇による不整脈や心停止に注意する必要があります。まひの予防を目的とした血清カリウム値の管理のために、低カリウム性ではカリウム製剤やカリウム保持性利尿薬が用いられ、高カリウム性ではカリウム喪失性利尿薬(サイアザイド系利尿薬、ループ系利尿薬、浸透圧利尿薬)などが用いられます。また、まひの予防として、低カリウム性および高カリウム性の両方に、てんかんなどに対して用いられるアセタゾラミドという薬剤が適応外使用(ほかの病気に対して国内で承認されている薬を保険適用外で使用)される場合があります。これらの薬剤は有効な場合もありますが、効果が得られない患者さんや、増悪する患者さんいます。
この疾患は、ある程度症状とうまくつきあっていくことが必要となります。日常生活では、「どのような病気?」にあるような、まひ発作の誘引となる食べ物や生活習慣に注意して過ごすことが重要です。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本で遺伝性周期性四肢麻痺の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。