シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群

遺伝性疾患プラス編集部

英名 Simpson-Golabi-Behmel syndrome
別名 Simpson-Golabi-Behmel 症候群、SGBS、Golabi-Rosen syndrome、Simpson-Golabi-Behmel Syndrome Type 1(SGBS1)、Simpson-Golabi-Behmel Syndrome Type 2(SGBS2)など
日本の患者数 不明
発症頻度 不明
子どもに遺伝するか 遺伝する[X連鎖劣性(潜性)遺伝形式]
発症年齢 胎児期~小児期
性別 男女比は 9:1
主な症状 過成長、特徴的な顔立ち、多指、爪低形成、腫瘍など
原因遺伝子 GPC3、OFD1など
治療 対症療法
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どのような病気?

シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群は、出生前からの過成長と特徴的な顔立ち、形態異常の多発などを主な症状とし、男性に発症することが多い遺伝性疾患です。この病気は、原因遺伝子の違いによりタイプ1(SGBS1)とタイプ2(SGBS2)の2つの病型に分けられます。SGBS1とSGBS2は重複する症状や特徴を持ちますが、SGBS2はまれでより重篤な症状を示します。SGBS2については、シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群とは異なる別の疾患であると考える専門家もいます。

この病気の主な症状の一つである過成長は、生まれる前(胎児期)から見られ、出生時は通常よりかなり大きく生まれます(巨大児)。出生後も、成長速度が異常に早く、体重が増え続け、年齢(月齢)や性別の平均値より2SD以上(標準的な成長の範囲を超えて)大きく成長します。

特徴的な顔立ちは、目が大きく離れている(眼間開離)、口が異常に大きい(巨口症)、舌が大きく中央に深い溝がある(巨舌症)、鼻の先が上を向いている、口蓋裂などの口蓋の異常が見られます。顔の特徴から「粗い顔立ち」と表現されることもあります。

その他の形態的な特徴や症状として、手の異常(多指、爪の低形成、大きな手など)、乳首が3つ以上ある(過剰乳頭)、腹筋に異常な割れ目ができる(腹直筋離開)、臍ヘルニア、横隔膜ヘルニア、鼠径ヘルニアなどが見られることがあります。

また、この病気の人の1割程度で、幼少期に腫瘍が認められます。多く見られる腫瘍は肝芽腫とウィルムス(Wilms)腫瘍、神経芽腫などで、他にも副腎神経芽腫、性腺芽腫、肝細胞がん、髄芽腫などのリスクが高いとされます。米国の遺伝性疾患の情報サイト「GeneReviews」によれば、SGBS1において、腫瘍発症の平均年齢(月齢)は17.5か月と記載されています。

その他に、シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群では、先天性心疾患、泌尿生殖器疾患、胃腸障害、骨格異常(椎骨癒合、側弯症、肋骨異常、先天性股関節脱臼)などが見られることもあります。多くの場合、知能は正常ですが、軽度~重度の知的障害が見られる場合があり、特徴的な症状としては言語の遅れが認められます。

この病気の症状や重症度、余命は個人により異なりさまざまです。SGBS2はより重篤であることが多く、生後数か月で亡くなることも多いとされます。SGBS2では体の複数の部位に余分な水分がたまる胎児水腫という状態で生まれる症状が見られることもあります。

シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群で見られる症状

高頻度に見られる症状

大頭症、粗い顔立ち、両眼開離症、大きな口、巨舌症、下顎前突、過剰乳頭、軸後性多指症(小指側にある過剰な指)、足が短い、幅広い足、つま先が短い、背が高い、肋骨形態の異常、脊椎分節欠損、椎骨癒合、心室中隔欠損症、脾腫(脾臓肥大)、肝臓の腫れ(肝腫大)、多嚢胞性異形成腎(腎臓に嚢胞が多数でき腎機能が失われる)、停留精巣

良く見られる症状

眼瞼裂斜下(目尻が標準よりも下がっている)、上向きの鼻(鼻孔)、広い鼻梁(びりょう)、短い鼻、低い位置で後方に回転した耳、耳輪(耳の外側の内巻きになった部分)の形態異常、口蓋裂、高くて狭い口蓋、短い首、翼状頸(よくじょうけい、首の部分の皮膚にたるみのある状態)、漏斗胸、屈指症(指を真っすぐに伸ばすことができない)、親指の幅が広い、短い人差し指、小指の斜指症、合指症、爪形成異常、小さい爪(爪の低形成)、臍帯ヘルニア、鼠径ヘルニア、脊柱側弯症、腹壁の筋肉(お腹を取り囲む筋肉)の形成不全/低形成、心臓血管系の形態異常、心房中隔欠損症、脚ブロック(心臓の心室内での伝導障害)、水腎症、水尿管(尿管の拡張症)、重複尿管、羊水過多症、神経学的な言語障害

しばしば見られる症状

内眼角贅皮(ないがんかくぜいひ、目頭部分を上まぶたが覆う)、口唇裂、内反足、陰茎低形成、尿道下裂(尿道の開口部が陰茎の先ではなく下側にある)、骨成熟の早期化、先天性股関節脱臼、ダンディウォーカー嚢胞(小脳の特定の部位に嚢胞が形成される)、脳梁欠損症、心筋症、先天性横隔膜ヘルニア、多脾症、膵ランゲルハンス島過形成、腫瘍、神経芽腫、ウィルムス腫瘍、肝芽腫、声の異常、かすれた声、低血圧、てんかん発作、全般的発達遅滞、知的障害

シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群の患者数や発症頻度は不明です。世界では、これまでに少なくとも250人の患者さんについて報告があるとされています。この病気は主に男性で発症しますが、9:1の男女比で女性においても発症することがあります。 米国希少疾病協議会(NORD)の情報によれば、2019年時点で症状のある女性は8人報告されています。

シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群は、小児慢性特定疾病の対象疾病となっています。

何の遺伝子が原因となるの?

シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群の原因遺伝子として、SGBS1では、X染色体上のXq26.2と呼ばれる領域に存在するGPC3遺伝子とGPC4遺伝子が報告されています。

この病気の原因として最も頻度が高いのは、GPC3遺伝子です。この遺伝子は、グリピカン3と呼ばれるタンパク質の設計図となる遺伝子で、グリピカン3は、ヘッジホッグシグナル伝達経路と呼ばれる、発達において重要な役割をもつ経路を阻害する役割を持っています。ヘッジホッグシグナル伝達経路は、細胞の成長・増殖・分化などに関わっており、胚発生中に体の多くの部分を形成するために重要なシグナルを細胞の内外に伝えていますが、グリピカン3は、特定の細胞が不要になったときに過剰なヘッジホッグシグナル伝達経路を抑制し自己破壊させるなど調節することで、体の形態を正常に確立するために役立っていると考えられています。

GPC3遺伝子の変異によって、グリピカン3はヘッジホッグシグナル伝達経路を阻害できなくなり、出生前から細胞の成長と分裂の速度が速まることが、シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群で起こる過成長の一因となっているのではないかと考えられています。一方で、GPC3遺伝子の変異やヘッジホッグシグナル伝達の変化が、この疾患の他の症状とどのように関連しているのか、詳細はわかっていません。また、GPC4遺伝子は、グリピカン4タンパク質の設計図となり、GPC3遺伝子に隣接した位置にあります。この遺伝子は、GPC3遺伝子の機能と関連していると考えられています。

また、SGBS2ではこれまでにX染色体上のXp22.2領域のOFD1遺伝子、PIGA遺伝子との関連が報告されています。

シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群は、X連鎖劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式では、X染色体を一つしか持たない男性(XY)において、原因遺伝子に変異のあるX染色体を受け継ぐことで発症します。X染色体を2つ持つ女性(XX)では、変異のあるX染色体を受け継いだ場合でも、2本の染色体のうちもう一方にある正常な遺伝子が機能を補うことで発症せずに保因者となります。また、女性がこの変異を持つ場合には、50%の確立でその変異が存在するX染色体が娘または息子に受け継がれます。男性(父親)がこの変異を持つ場合には、息子には変異が受け継がれませんが、娘には変異のあるX染色体が受け継がれます。

X Linked Recessive Inheritance

どのように診断されるの?

小児慢性特定疾病情報センターのサイトでは、シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群の診断基準は以下のように記載されています。

必須症状

・出生時および出生後の過成長・大頭症

・特徴的顔貌

診断を支持する所見

・巨舌

・多指症・副乳・爪低形成

・正中線上の先天奇形

・易腫瘍発生性

・男児

これらの症状を認め、遺伝学検査でGPC3遺伝子変異が認められた場合、シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群であることが確実として診断確定されます。

どのような治療が行われるの?

シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群では根治的な治療法は確立されていないため、さまざまな症状に対する対症療法が中心となります。

この病気において最も重要な合併症の一つに、ウィルムス腫瘍、肝芽種、横紋筋肉腫などの胎児性腫瘍があります。胎児性腫瘍には、定期的な腹部超音波検査のほか、肝芽種などで上昇する血清アルファフェトプロテインの測定などが行われます。腫瘍が発生した場合には、化学療法と外科的治療、放射線治療など、それぞれの腫瘍の状態に応じた治療が行われます。

その他に、過成長に伴う症状として、巨舌、口蓋裂、内臓肥大、臍ヘルニア、新生児期低血糖などがあります。低血糖に対しては、新生児期に限らず数か月後に出現することもあるので注意しながら定期的に検査を行います。臍帯ヘルニアの治療、舌肥大による哺乳障害に対する舌縮小術など、外科的手術が行われる場合もあります。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でシンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。

参考サイト

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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