テンプル症候群

遺伝性疾患プラス編集部

英名 Temple syndrome
別名 Temple症候群、TS14、14番染色体母親性ダイソミー、upd(14)mat
日本の患者数 32人(2017年の報告による)
世界の有病率 100万人に1人未満
子どもに遺伝するか ほとんど遺伝しない(常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝するタイプもある)
発症年齢 生まれつき
性別 男女とも
主な症状 胎児期・出生後の成長障害、筋緊張低下、特徴的な顔立ちなど
原因遺伝子領域 14番染色体(14q32.2のインプリンティング領域)
治療 対症療法
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どのような病気?

テンプル症候群は、成長障害、筋緊張低下、特徴的な顔立ちなどがみられる、希少な遺伝性疾患です。成長障害は、生まれる前~生まれた後まで続きます。生まれてすぐまでの成長は正常範囲で、その後著しくなる場合もあります。筋緊張低下は、生後間もなく~乳児期にみられ、しっかりと哺乳する力が出ません。特徴的な顔立ちは、額が突き出ている、人中が短い、上顎が高い、顎が小さい、などです。その他、小児期に発症する肥満、繰り返す中耳炎、さまざまな骨の異常、思春期早発傾向などがみられる場合もあります。

テンプル症候群で見られる症状

99~80%で見られる症状

乳幼児期の筋緊張低下、運動発達遅延、出生後の発育遅延、思春期早発症、短く小さい足、低出生体重児、不釣り合いに小さい手

79~30%で見られる症状

言語発達の遅れ、幼児期の摂食困難、軽度の知的障害、肥満、早産児、相対的大頭症、低身長

29~5%で見られる症状

上向きの鼻先、口蓋垂裂、停留精巣、小精巣、くぼんだ鼻筋、高トリグリセリド血症、若年成人型糖尿病(2型糖尿病)、多食、後方に向かった形の耳、脊柱側症

4~1%で見られる症状

小指が曲がっている、カフェ・オ・レ斑が少数ある、前頭隆起、成長ホルモン欠乏、水頭症、尖った顎、繰り返す低血糖

割合は示されていないがみられる症状

斜指症、摂食障害、関節の拘縮、全身性筋緊張低下、高口蓋、高コレステロール血症、子宮内胎児発育遅延、関節過可動、小顎症、(中心性)肥満、突出した額、再発性中耳炎、短い人中、幅の広い鼻

これまでに、この病気の症例として世界で報告されているのは、約65症例ほどです。2017年の報告によると、これまでに日本でテンプル症候群と診断された患者さんは、32人です。この32人について、研究に参加した当時の年齢は、1~62歳でした。この病気は、まだわからないことが多く、長期予後についても現在研究が進められているところですが、生まれてすぐに亡くなってしまうような病気でないことは示されています。

世界での有病率は100万人に1人未満とされていますが、臨床的特徴の多くはテンプル症候群に特有ではないため診断が難しく、診断されていないテンプル症候群の人も多く存在すると考えられています。別の病気だと判明しているプラダー・ウィリ症候群や、シルバーラッセル症候群が、よく似た症状の病気として知られています。

何の遺伝子が原因となるの?

ヒトは通常、両親からそれぞれ1本ずつ染色体を受け継ぎ、細胞には各染色体が2本1セットで存在しています。ところが、まれに染色体が父親だけ、もしくは母親だけから2本とも受け継がれる場合があります。これを「片親性2倍体」といいます。遺伝子は染色体に含まれる形で細胞に存在しますが、それら遺伝子の多くは、どちらの親から受け継がれた染色体に存在するものも同じように働きます。一方で、いくつかの遺伝子は、父親から受け継がれたものだけ、もしくは、母親から受け継がれたものだけが働くという仕組みになっています。そのような遺伝子は「インプリンティング遺伝子」と呼ばれます。片親性2倍体の場合、インプリンティング遺伝子は、全く働かなくなってしまうか、もしくは過剰に働くか、どちらかになります。

59 テンプル症候群 片親性2倍体

テンプル症候群は、14番染色体が母親から2本とも受け継がれている状態で、専門的な言い方では「14番染色体の母親性2倍体」と呼ばれます。これまでの研究により、14番染色体長腕の14q32.2という領域にインプリンティング遺伝子が存在しており、これが病態に関わっていることがわかっています。

さらに、この領域に存在する「RTL1遺伝子」がテンプル症候群の病態に関わっている可能性も、研究によって示されています。RTL1遺伝子は、父親由来でのみ働くインプリンティング遺伝子であるため、14番染色体母親性2倍体のテンプル症候群では、この遺伝子が働いていません。

14番染色体母親性2倍体のほか、父親由来の14番染色体で、14q32.2の領域が微小欠失している場合や、母親性2倍体でもなく微小欠失も認められないものの、この領域に存在する遺伝子の使われ方に関わるDNAの化学変化(エピジェネティック変化)が通常と違い低メチル化という状態になっている場合にも、テンプル症候群の症状が現れるケースがあることがわかっています。

テンプル症候群は、卵子と精子が形成されるときにランダムに起こる現象が原因で発生します。そのため、親からの遺伝でこの病気になることはほとんどありません。父親由来14番染色体の微小欠失が原因の場合には、常染色体優性(顕性)遺伝形式で、親から子へ遺伝します。

Autosomal Dominant Inheritance

どのように診断されるの?

テンプル症候群は、まだ確立された診断基準はありません。一方で、国立成育医療研究センターによる研究報告書「SGA性低身長に対する遺伝子診断システムの開発と遺伝学的原因に身長予後および治療法の検討」に、テンプル症候群の診断について、記載があります。

これによると、テンプル症候群の遺伝子診断を考慮する症例として、以下の所見が挙げられています。

<一般的に見られる所見>

  • 胎盤の低形成、出生前/出生後の成長障害

この所見に加え、以下の所見がある場合とされています。

<小児期>

テンプル症候群を優先して考慮する所見(クラス1)

  • プラダー・ウィリ症候群(PWS)のような顕著な筋緊張低下に加え、シルバーラッセル症候群(SRS)のような相対的大頭症
  • 額が突き出ている
  • 摂食困難

テンプル症候群を考慮する所見(クラス2)

  • 遺伝子診断でPWSまたはSRSではないと判明している
  • PWSのような顕著な筋緊張低下のみ
  • SRSのような相対的大頭症のみ
  • 摂食困難のみ

テンプル症候群の可能性を考慮する所見(クラス3)

  • 胎盤の低形成、出生前/出生後の成長障害

<思春期>

テンプル症候群を優先して考慮する所見(クラス4)

  • 思春期早発症(加えて、幼児期にPWSやSRSに似た所見があった)

<年齢問わず>

テンプル症候群を優先して考慮する所見(クラス5)

  • 家系内に鏡・緒方症候群の患者さんがいる

どのような治療が行われるの?

今のところ、テンプル症候群を根本的に、つまり遺伝子から治療する方法は見つかっていません。そのため、中耳炎に対する治療など、その人の症状に合わせて治療が行われます。

胎児期に、テンプル症候群の疑い、もしくはテンプル症候群と診断された場合には、適宜羊水の検査を受けて、できるだけ早産にならないように注意していきます。生まれた後は、乳児期の哺乳不良のため一時的に経管栄養となる場合があります。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でテンプル症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。

米国のテンプル症候群などの患者支援団体(財団)で、ホームページを公開しているところは、以下です。

参考サイト

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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