ウィルソン病

遺伝性疾患プラス編集部

英名 Wilson disease
別名 ウイルソン病、肝レンズ核変性症、ウェストファル-シュトリュンペル病
日本の患者数 約2,000~3,000人(3万5000人~4万5,000人に1人)
子どもに遺伝するか 遺伝する(常染色体劣性遺伝)
発症年齢 3歳~50歳代(発症ピークは10~11歳)
性別 男女とも
主な症状 肝障害、運動神経障害(錐体外路症状)、カイザー・フライシャー角膜綸
原因遺伝子 ATP7B遺伝子
治療 銅の排出を促す治療薬(飲み薬)など
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どのような病気?

ウィルソン病は、肝臓や脳、目、腎臓などの、全身の臓器に銅が蓄積して障害を来す遺伝性疾患(遺伝性銅代謝異常症)です。銅は、体が正常にはたらくために必須な「微量ミネラル」のひとつで、欠乏すると精神遅滞や貧血などを起こします。一方で、体に必要な銅の量は、ごく少量です。食べ物から摂取した銅は、必要な分だけ使われて、過剰な分は体外へ排出されますが、遺伝子の異常で正しく排出が行われず、臓器に銅が蓄積して障害を来すのが、ウィルソン病です。

3主徴として「肝障害」「運動神経障害(錐体外路症状)」「カイザー・フライシャー角膜綸(角膜周囲の銅沈着で青みがかった黒褐色の輪が見られる)」が挙げられますが、症状はさまざまで、大きく「肝型」「神経型」「肝・神経型」「その他」に分けられています。「肝型」の症状は、黄疸、腹痛、嘔吐、浮腫(むくみ)、腹満、 全身倦怠感 、食欲不振、出血などで、慢性肝炎、急性肝炎、肝硬変、急性肝不全、劇症肝炎などさまざまな症状が現れます。「神経型」の症状は、神経症状と精神症状です。神経症状は、歩行障害、うまくしゃべれない(構音障害)、よだれが出る、手が震える(振戦)、物をうまく飲み込めないなどで、精神症状は、意欲低下、集中力低下、突然の気分変調、性格変化などです。「肝・神経型」では、肝型と神経型の両方の症状がみられます。「その他」は、初発症状として、血尿、腎結石、蛋白尿、関節炎、心筋症などがみられる場合があります。

日本にウィルソン病の患者さんは約2,000~3,000人いると試算されています。また、3万5000人~4万5,000人に1人の頻度で発症すると推察されています。発症年齢は3歳~50歳代と幅広く、発症ピークは10~11歳と知られています。男女で発症しやすさに差はなく、また、生活習慣が原因になることはありません。適切な治療を受ければ、ウィルソン病でない人と同じように生涯を全うすることが可能です。

ウィルソン病は、指定難病対象疾患(指定難病171)です。

何の遺伝子が原因となるの?

ウィルソン病の原因遺伝子は、13番染色体の13q14.3という位置に存在する「ATP7B遺伝子」であるとわかっています。この遺伝子は、細胞内で銅を輸送するタンパク質(銅輸送ATPase2)の設計図となる遺伝子です。銅輸送ATPase2は、肝臓細胞内のゴルジ体という構造に多くみられるほか、腎臓や脳の細胞でも少量みられます。銅輸送ATPase2は、肝臓で「セルロプラスミン」というタンパク質に銅を渡し、銅を携えたセルロプラスミンが、血液に乗って全身へ銅を輸送します。また、銅輸送ATPase2は、肝臓で胆汁を介して体から余分な銅を除去するためにも重要です。ウィルソン病では、ATP7B遺伝子に変異が入り、銅輸送ATPase2が正しく働けなくなることで、各臓器(特に肝臓)の細胞に銅が蓄積していきます。また、銅をセルロプラスミンに渡すことができないため、血中のセルロプラスミン値が低値になります。

ウィルソン病は、常染色体劣性遺伝形式で、親から子へ遺伝します。人間が2本1セットで持っている原因遺伝子のうち、両親がともに1本ずつ同じタイプの遺伝子変異を有していた場合、子どもは4分の1の確率で2本とも変異を有してウィルソン病になります。また、2分の1の確率で1本変異を有し発症はしない「保因者」となり、4分の1の確率でウィルソン病を発症せず保因者でもなく(変異した遺伝子を持たず)生まれます。

常染色体劣性遺伝

どのように診断されるの?

ウィルソン病には、医師がウィルソン病と診断するための「診断基準」があります。したがって、病院へ行き、必要な問診や検査を受けた後、主治医の先生がそれらの結果を診断基準に照らし合わせ、結果的にウィルソン病かそうでないかの診断をすることになります。具体的には、3主徴をはじめとした各症状や家族歴からウィルソン病が疑われた場合、血清セルロプラスミン値と尿中銅排泄量の測定、また必要に応じて肝臓の銅含量測定やATP7B遺伝子検査などを経て、似たような症状のある病気(慢性ウイルス性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患、アルコール性肝疾患、薬物性肝疾患、自己免疫性肝疾患、原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎、ヘモクロマトーシス、α1-アンチトリプシン欠乏症、不随意運動・姿勢異常・けいれんなどを呈する他の疾患、うつ症状・不安神経症・双極性障害・妄想性障害・統合失調症・ヒステリーの症状を呈する他の疾患など)との鑑別診断が行われ、最終的にウィルソン病と診断されます。症状が出る前に、たまたま調べた検査で肝機能異常が見つかり、よく調べたらウィルソン病であることがわかる場合もあります。

早期診断と適切な治療開始により、十分に社会復帰や発症の予防が可能とされています。一方、成人期以降に治療を開始した場合、肝臓に蓄積した銅は治療しても正常範囲までは低下しないため、長年蓄積し続けた銅による発がんなどの影響が懸念されています。そのため、年に1回程度、定期的に腹部超音波などの画像検査を受ける必要があるとされています。

どのような治療が行われるの?

今のところ、ウィルソン病を根本的に、つまり、遺伝子から治すような治療法は見つかっていません。一方、銅の排泄を促す飲み薬が有効な治療となっています。今のところ、治療薬は、酢酸亜鉛(商品名:ノベルジン)、トリエンチン(商品名:メタライト)、D-ペニシラミン(商品名:メタルカプターゼ)の3種類です。どの薬を選択するかは、病型や重症度によって異なりますが、いずれも、食前1時間以前、食後2時間以降の「空腹時」に服用することが大切で、特にトリエンチンとD-ペニシラミンは空腹時に服用しないと効果が得られません。薬は生涯飲み続けます。女性の場合、妊娠・出産も可能ですが、妊娠中も治療は継続します。また、発症前にウィルソン病と診断された人も、服薬治療を開始します。服薬治療開始から1年くらいは、銅が多く含まれる食品(レバー、牡蠣、たこ、いか、チョコレートなど)はできるだけ食べないようにします(低銅食療法)。しかし、皆が一生食べられないわけではなく、きっちりと服薬して肝機能が改善すれば、少量は食べられるようにもなります。

治療薬を正しく服用していれば、肝障害の改善だけではなく、神経症状も一般的には徐々に改善していきます。こうした改善により、通常の日常生活や社会生活が可能になります。一方、飲み忘れはときに命に関わるため、薬を正しく服用し続けることが極めて重要です。数日の飲み忘れで症状が急に悪くなることはありませんが、服薬で症状が改善し、つい長期間薬を飲み忘れていると、命に関わる肝不全や、重篤で回復が見込めない神経障害を起こす場合があります。

劇症肝炎、肝不全、重度の肝硬変を起こした場合には、肝臓移植が行われる対象となり得ます。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でウィルソン病の診断や治療を行っている、主な施設は以下です。

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参考サイト

参考文献:医学書院 医学大辞典 第2版