どのような病気?
シア・ギブス症候群は運動発達遅滞、知的障害、言語障害、筋緊張低下、てんかんなどのさまざまな症状がみられる遺伝性疾患です。
この病気では、特に言語機能の発達が遅延することが多く、通常1歳までにみられる初語(乳児が初めて発する意味のある単語)が2歳以降となり、全く話せるようにならない場合もあります。
シア・ギブス症候群で良くみられる症状のうち、筋緊張低下は乳児期に見られ、運動発達遅滞は通常幼児期に始まります。運動発達の遅れは、協調運動障害(脳が手足などをうまく制御して動かすことができなくなる)や平衡感覚の低下と併せて見られることが多くなります。多くの場合発達のマイルストーン(この年齢までに行うことができる事柄の指標)を達成できず、ハイハイや歩行などの運動の開始が遅れます。
また、その他の症状は患者さん個人によってさまざまですが、睡眠時無呼吸、不随意運動、自閉行動障害、眼科的異常、成長障害、摂食障害などを合併することがあります。睡眠時無呼吸は多くの場合、上気道の閉塞が原因で起こり、睡眠中に短い呼吸停止が見られます(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)。また、成長障害や食べ物などを飲み込みにくいことによる摂食障害によって低身長となる場合があります。脊椎の左右の湾曲 (側弯症) もよく見られる特徴の一つです。行動上の問題が見られる場合もあり、自閉症スペクトラム障害(対人関係が苦手で強いこだわりを持つ発達障害)や、攻撃的、不安、自傷行為、睡眠障害などが見られる場合もあります。
また、この病気では広い額、低い位置にある耳または突き出た耳、間隔の広い目、目が上または下に傾いている(上向き眼瞼裂または下向き眼瞼裂)、平らな鼻梁、薄い上唇など顔立ちに特徴が見られる場合もあります。
シア・ギブス症候群で見られる症状 |
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高頻度にみられる症状 発話および言語の発達遅延、全般的発達遅延、筋緊張低下、知的障害、運動機能発達遅延 |
良くみられる症状 脳梁形態異常(脳梁は左右の大脳半球をつなぐ部分)、顔面の形態異常、脳の形態異常、脊柱の形態異常、運動失調、歩行機能の発達遅延、対話の発達遅延、身体的発達遅延、摂食障害、関節弛緩症、閉塞型睡眠時無呼吸、てんかん発作、斜視、眼振、上気道閉塞 |
しばしばみられる症状 自閉症、大脳性視覚障害、頭蓋骨縫合早期癒合症(複数の部分から構成される乳児の頭蓋骨が早期に癒合してしまうことによって生じる頭蓋の変形や脳の機能障害)、奥目(くぼんだ目)、髄鞘形成遅延(髄鞘は神経細胞の周りの膜構造)、低い鼻梁、眼瞼裂斜下(目尻が下がっていること)、内斜視、聴覚障害、隔離症(両眼の乖離)、脳梁低形成、喉頭軟弱症、低い位置の耳、小顎症、軽度近視、立ち耳、呼吸不全、側弯症、小さい耳たぶ、いびき、気管軟化症、耳たぶの形態異常、眼瞼裂斜上(目尻が上がっていること) |
シア・ギブス症候群の有病率は、新生児8万人に1人とされていますが、遺伝子診断がなされずにシア・ギブス症候群と診断されていない患者さんも多くいると考えられています。日本の患者数は約100人とされています。
何の遺伝子が原因となるの?
シア・ギブス症候群の原因はAHDC1というタンパク質の設計図であるAHDC1遺伝子の変異であることがわかっています。AHDC1タンパク質はDNAに結合して、他の遺伝子の活性をコントロールしていると考えられています。変異したAHDC1遺伝子から産生された異常なAHDC1タンパク質は、正常に機能しないか、または正常なAHDC1タンパク質の作用を阻害すると考えられています。正常に機能するAHDC1タンパク質が減少して、脳の発達が障害されることが、知的障害、言語障害、神経障害、身体機能障害などに関与している可能性が示唆されています。
シア・ギブス症候群の発症は、多くの場合、患者さんの生殖細胞(卵子・精子)の形成期や胚発生初期(胚は受精卵が細胞分裂していく発生初期の状態)におけるAHDC1遺伝子の突然変異によって生じた孤発例です。
遺伝する場合には、常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝します。両親のどちらかがシア・ギブス症候群だった場合、子どもは50%の確率で発症します。
どのように診断されるの?
シア・ギブス症候群は専門家による合意が得られた診断基準はまだありません。米国のGeneReviewsという遺伝性疾患情報サイトでは以下の診断方法が示されています。
下記の臨床所見およびMRI所見を満たす場合にシア・ギブス症候群が疑われ、臨床所見を満たし、AHDC1遺伝子の変異が確認された場合にはシア・ギブス症候群と確定診断されます。
臨床所見
早期発症の中等度以上の発達遅延または知覚障害に加えて、幼少期から小児期において下記の症状のいずれかがみられる:神経症状(幼児期における全身性筋緊張低下、てんかん、運動失調、眼振)、発達障害(運動機能発達遅延、言語機能発達遅延、自閉スペクトラム症)、呼吸障害(閉塞型睡眠時無呼吸、気管軟化症、喉頭軟化症)、側弯症、低身長、斜視、形態異常
MRI所見
脳梁の菲薄化、後頭蓋嚢胞(脳の後頭蓋という部分にできる袋状の病変)、髄鞘形成遅延
どのような治療が行われるの?
日本においてシア・ギブス症候群に対する確立された治療方針はありません。米国の遺伝性疾患に関する情報サイトでは以下が示されています。
シア・ギブス症候群の治療は各症状に対する対症療法が行われます。発達障害・知的障害に対して、0~3歳で作業療法、理学療法、言語療法、食事療法、メンタルヘルスケア、教育、感覚障害に対する治療が推奨されています。3~5歳では患者さん別にどのような治療プログラムが必要であるかを評価して、それに応じた治療を行うことが推奨されています。また、すべての年齢において、適切なサポートが受けられるために小児科医によるカウンセリングが推奨されています。ADHD(注意欠如・多動性障害)・不安障害・自閉症に対しては作業療法、理学療法、言語・行動療法、精神科医による治療が行われます。摂食障害に対しては必要に応じて胃ろうチューブを設置されます。そのほか、てんかん、運動障害、胃食道逆流症、睡眠時無呼吸症、呼吸障害、筋骨格系障害、側弯症などに対しては、各疾患の標準的治療が行われます。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でシア・ギブス症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。