講演「遺伝子治療の概説」

遺伝性疾患プラス編集部

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最初に、小澤敬也先生より、遺伝子治療の基本について簡単にご説明をして頂きます。


まず「遺伝子治療とは何か?」について、説明します。

  • 資料の上:遺伝性疾患で遺伝子に傷があるところを治す治療です。
  • 資料の下:傷のある遺伝子はそのままで、正常な遺伝子を付け加える治療です。

資料の下の治療法は、遺伝性疾患に限らず、がんなどの後天性疾患も対象になります。資料の上の、遺伝子を治す治療は、最近、ゲノム編集治療というかたちで開発が進んでいます。

認可された遺伝子治療のうち「体外法」は、患者さんの細胞をいったん外に取り出して、遺伝子操作をした後に、増やしてまた体に戻す方法です。具体的には、2016年に欧州で認可されたADA欠損症の遺伝子治療、日本でも2019年に承認された急性リンパ性白血病治療の「キムリア」などがあります。

続いて、「体内法」による遺伝子治療は、AAVベクターが用いられます。

※AAVベクター:遺伝子を直接、目的の細胞へ届ける“運び屋”

この治療法の例として、日本でも承認されている脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬「ゾルゲンスマ」があります。

代表的な遺伝子治療は、資料にもある以下の3つです。

  • 造血幹細胞遺伝子治療
  • AAVベクター遺伝子治療
  • CART細胞療法

造血幹細胞遺伝子治療は、病気のお子さんから造血幹細胞を取り出して、遺伝子導入を行い、前処置をしたお子さんに細胞を戻す方法です。当初は「ガンマレトロウイルスベクター」という方法が使われましたが、白血病の副作用が出ることがわかりました。しかし、その後、より安全なベクターの開発が進んできています。ADA欠損症の治療は白血病の発症がほとんどなく、2016年には、「ストリムベリス」が欧州で承認されました。

レンチウイルスベクターは、エイズウイルスがベースになっています。より安全で有効性が高いと考えられています。資料にある病気に治療効果が出ていますが、特にβサラセミアは「ジンテグロ」が欧州で承認されています。

AAVベクター遺伝子治療は、当初は、資料の上に記載のある4つの病気(リポタンパク質リパーゼ(LPL)欠損症、網膜ジストロフィー、パーキンソン病、AADC欠損症)を対象に、局所注射で行う治療が考えられていました。

その後、静脈注射で全身性をカバーする治療が可能になってきました。対象疾患は、資料の下の4つ(血友病A・B、脊髄性筋萎縮症(SMA)、X連鎖ミオチュブラー・ミオパチー(XLMTM)、筋ジストロフィー)です。脊髄性筋萎縮症の治療は、日本でも承認されています。しかし、静脈注射は、大量のAAVベクターを用いるため、副作用が出やすいという問題があります。今後の大きな課題となっています。

AAVベクターの場合、体内法が多いので、さまざまな投与ルート・疾患で臨床試験が行われています。資料の赤字部分は、すでに臨床試験が行われたことのある疾患です。難しいと考えられていた筋ジストロフィーについても、効果が出てきています。

最後に、がんに対する遺伝子治療は、遺伝子改変T細胞療法(TCR-T・CAR-T)が行われています。特に、CAR-T細胞療法は、その治療効果から大きな脚光を浴びています。ただ、まだ改良が必要な状況です。

このように、遺伝子治療は実用化の時代になってきました。資料にあるものは、2018年の「サイエンス」という世界的学術誌に掲載されたものです。タイトルは「遺伝子治療の時代」で、まさに遺伝治療の実用化研究は世界的に活発になってきています。


小澤先生、どうもありがとうございました。

 

※座談会の内容は、2021年2月(収録当時)の情報です。