【きほんの質問】ターゲット遺伝子を間違えることはない?

遺伝性疾患プラス編集部

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「遺伝子治療を行う場合、治療のターゲットにする遺伝子を間違うことはないのでしょうか?」(匿名希望)

2つの観点からお答えします。

まず、「遺伝子補充療法」または「遺伝子付加」という方法で、遺伝子の欠陥により正常機能を失った細胞に正常遺伝子を新たに付け加える治療法についてです。

例えば、重症の免疫不全症で、正常な遺伝子を、体外に取り出した造血幹細胞に導入し、患者体内にまた戻すような遺伝子治療は「体外法」と呼ばれます。あるいは、血友病で、正常な凝固因子の遺伝子をウイルスベクターに搭載して静注し、体の中で肝臓の細胞に導入するような遺伝子治療は「体内法」と呼ばれます。これらは現行の遺伝子治療の主な方法ですが、病気の原因遺伝子がはっきりしている場合に、遺伝子治療法の戦略が検討されるので、治療遺伝子を間違えることは考えにくいです。

次に、ゲノム編集治療という、遺伝子に傷があって、その傷そのものを修復しようという、究極的な遺伝子治療の場合です。理想的な遺伝子治療ですが、技術的には大変難しく、実際に臨床応用することは簡単ではないと考えられてきました。しかし、2020年のノーベル化学賞の対象となった「クリスパーキャス9システム」が開発され、ゲノム編集を行うことが技術的に大変簡単になりました。そして、ゲノム編集治療という究極的な遺伝子治療の開発研究が急速に進みつつあり、臨床応用も始まっています。

目的の遺伝子を修復することは、「オンターゲット作用」と呼ばれますが、それは100%確実に行われるわけではありません。治療のターゲットとなる遺伝子とよく似た遺伝子にも、影響を与えてしまう可能性があります。このような現象は「オフターゲット作用」と呼ばれ、副作用につながる可能性があります。オフターゲット作用を極力少なくするような技術開発が進められています。

ゲノム編集治療の開発は始まったばかりなので、安全性を確保するため、このような研究が活発に行われています。

※座談会の内容は、2021年2月(収録当時)の情報です。