【きほんの質問】遺伝子治療による症状悪化リスク・副作用は?
- 2021.06.29 公開
- 遺伝子治療
「遺伝子治療が原因で、症状が今より悪くなるリスクはありますか?副作用も含めて教えてください。」(匿名希望)
どのような治療法にも、副作用はありえます。遺伝子治療もその例外ではありません。したがって、遺伝子治療のリスクと、ベネフィット(治療効果)をはかりにかけて、遺伝子治療を行うメリットがあるのか(リスク/ベネフィット比)を判断することが重要です。有効な治療法がなければ、多少のリスクもやむを得ませんが、有効な治療法がある場合、それをしのぐ治療効果と、高い安全性が求められ、遺伝子治療の開発はハードルが高くなります。
具体例を挙げると、2000年頃、遺伝性の重症免疫不全症に対して造血幹細胞遺伝子治療が行われ、高い有効性が認められて脚光を浴びました。しかし、2〜3年で白血病の発症が次々に起こりました。詳しい解析により、用いたレトロウイルスベクターが原因(挿入変異がきっかけ)だと判明しました。遺伝子操作自体が招いた副作用だったので、しばらく遺伝子治療の臨床研究は停滞しました。
その後、安全性の高いレトロウイルスベクターが開発され、白血病の発生はほぼ無くなりました。ところが、まだ完全に発生を抑えることができておらず、なかなか簡単ではありません。なお、白血病になった患者さんのうち、亡くなったのは1人だけでしたが、遺伝子治療は完璧な結果を求められる傾向があります。
その他、AAVベクターを用いた遺伝子治療の、静脈注射(血管内投与)で副作用の出現が問題になっています。静脈注射法では、大量のAAVベクターが投与されます。投与量が多い場合、AAVに対する免疫反応が起き、その結果、肝障害が生じます。遺伝子導入した肝細胞が破壊されると、治療効果も失われていきます。すぐにステロイドを投与することで、この免疫反応は抑えることができます。
ミオチュブラー・ミオパチーへの遺伝子治療では、死亡例が3例出ました。AAVベクターの投与量があまりにも多いと、ステロイドの投与だけでは副作用を抑えられません。
その他、CAR-T細胞療法でも、いくつかの副作用が知られており、その対策が重要になっています。
※座談会の内容は、2021年2月(収録当時)の情報です。