【きほんの質問】遺伝子治療はどのような病気から順に開発されていく?

遺伝性疾患プラス編集部

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「数多くの遺伝性疾患に対し、遺伝子治療は、どのような順番で開発されていくのでしょうか?」(匿名希望)

遺伝子治療の対象疾患は、遺伝性疾患よりも、患者数の多いがんが主体となっており、臨床試験の過半数はがんに対する遺伝子治療です。米国ではがんに対する遺伝子治療の開発が活発で、ヨーロッパでは遺伝性疾患に対する遺伝子治療の開発が目立っています。

がんの場合はリスクに対する考え方から、遺伝子治療の開発が行いやすい面があります。

遺伝性疾患の場合は、長期的な展望を含めて治療法を考える必要性から、より慎重に開発が進められています。

遺伝性疾患は何千もの種類が知られていますが、遺伝子治療の対象になりそうなものは、まだ限られています。遺伝子治療技術はまだ完全には確立されていないので、効果が期待できるものは、それほど多くありません。

遺伝子導入効率が不十分だったり、治療遺伝子の発現がしっかり制御されたりする必要がある疾患も多いです。発現量がそれほど高くなくても治療効果が得られ、厳密な発現制御が必要でないようなタイプの疾患が、当面の遺伝子治療の対象となります。

例えば、血友病の場合は、治療により、凝固因子の血中濃度が正常の5%程度得られればよく、また、厳密な発現制御は不要です。一方、糖尿病の場合は、インスリンの産生が厳密にコントロールされなければならず、大変ハードルの高い疾患です。また、既存の治療法が存在するかどうかも重要なポイントです。全く治療法が存在しない重篤な疾患であれば、チャレンジングな遺伝子治療も実施の可能性があります。しかし、何らかの治療法が存在する場合は、それとの比較で開発を進める必要があるため、難しい場合もあります。

遺伝性疾患の場合は、治療効果がクリアに出る可能性が高いと考えられるので、大変まれな疾患であっても、遺伝子治療開発の対象と考えているベンチャー企業が多いように思われます。

※座談会の内容は、2021年2月(収録当時)の情報です。