【自身の病気に関する質問】ゲノム編集を用いた遺伝子治療は今、どこまで行われている?現時点での課題は?

遺伝性疾患プラス編集部

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「ゲノム編集を行うことで、プラダー・ウィリ症候群等の染色体異常や、その他の遺伝性疾患への根治治療につながる可能性があるのではないかと期待しています。現在、試験段階でも構いませんので、実際にこの技術を用いて遺伝子治療を行っているケースがあるのか、また、そこから挙がって来る課題はどのようなものがあるのかを教えてください。」(匿名希望)

現在、ゲノム編集治療の開発研究は急速に進み始めています。プラダー・ウィリ症候群は染色体異常で発症すると思いますが、特殊な病態ですので、ゲノム編集治療の対象としては難しいと思います。

ここでは一般的な遺伝性疾患に対するゲノム編集治療の現状をお話ししたいと思います。

まず、造血幹細胞を標的としたゲノム編集治療ですが、遺伝子を破壊する方法と、傷のある遺伝子を修復する方法があります。技術的には前者の方が簡単で、サラセミアや鎌状赤血球症を対象として、クリスパーキャス9法によりBCL11Aという遺伝子を破壊する方法が開発されました。この方法で胎児性ヘモグロビンから成人ヘモグロビンへの変換が起こらなくなり、結果として貧血が軽減され、治療効果が得られています。

一方、遺伝子修復を行うゲノム編集治療は究極的な遺伝子治療といえますが、技術的には大変難しくなります。ごく最近、鎌状赤血球症を対象とし、遺伝子修復を行うゲノム編集治療の臨床試験実施が米国FDAによって承認されましたので、近く、開始されると思います。

また、クリスパーキャス9法で、体内でゲノム編集治療を試みる臨床試験も、網膜疾患を対象として実施されています(2018年承認)。

その他、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)法を使ったものですが、ハーラー病やハンター病を対象として、ゲノム編集治療を体内法として行う試みも2017年に実施されています。これは肝細胞のアルブミン遺伝子座に治療遺伝子を組み込ませようというもので、ユニークなアイデアでしたが、まだ余りうまくいっていないようです。

また、CAR-T細胞療法などでも、ゲノム編集技術を利用した臨床試験がいろいろと試みられています。例えば、ユニバーサルCAR-T療法への応用などです。

※座談会の内容は、2021年2月(収録当時)の情報です。