対症療法しかなかったミトコンドリア病治療に光
千葉県こども病院遺伝診療センターらの研究グループは、ミトコンドリア病患者さんの皮膚由来の細胞を用いた実験において、ミトコンドリア機能を改善させる物質を世界で初めて特定しました。
ミトコンドリア病は、遺伝子異常によりミトコンドリア呼吸鎖酵素の活性が低下し、その結果、体の中でエネルギーとなる化合物ATP(アデノシン三リン酸)の産生量が低下し、多彩な臨床症状が現れる疾患。出生5,000人に1人の割合で発症するといわれています。治療に関しては、これまで十分なエビデンスをもつ根本的治療法はなく、対症療法のみでした。
研究グループは、創薬を見据えたこれまでの診断・研究から、5-ALAは鉄と結合することで呼吸鎖複合体の発現量を増加させ、ミトコンドリア機能を改善させることをつきとめていました(動物実験による)。5-ALAは、生体内に存在する天然のアミノ酸の一種で、がんの診断においてはその特性を生かして実用されています。
5-アミノレブリン酸+クエン酸第1鉄ナトリウムの効果を検証
今回、研究グループは、8人のミトコンドリア病患者さんの皮膚由来の線維芽細胞を用いて実験を行いました。正常細胞との比較検証で、5-ALAとSFCを患者さんの細胞に加えて培養したものにおいて、酸素消費量の増加、ATP産生量の有意な増加を確認しました。SFCは、鉄欠乏性貧血の治療に広く用いられている薬です。
さらに、5-ALAとSFCによって、「HO-1」(ヘムオキシゲナーゼ-1)と呼ばれる遺伝子の発現量が上昇することも明らかにしました。この遺伝子は、ミトコンドリアの品質管理、融合と分裂や、ミトコンドリアの生合成を促す働きがあります。これにより、残存するミトコンドリア呼吸鎖酵素が強化され、ミトコンドリア機能が改善されることが明らかになりました。
「今回の研究結果は、5-ALA+SFCが残存するミトコンドリア呼吸鎖酵素を強化することでミトコンドリア機能を改善させる酵素強化療法、すなわち根本治療としての有用性を示唆するものです。ミトコンドリア病の1つの病型であるLeigh(リー)脳症に対する5-ALA+SFCの医師主導治験も進行中であり、ミトコンドリア病の新しい治療薬として大いに期待されます」と、研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)