特定タンパク質の分子運動を抑制する創薬開発に期待
放射線の人体への影響や医学利用、放射線防護や被ばく医療などの研究を行う量子科学技術研究開発機構は、パーキンソン病に関して、脳内に存在する正常なタンパク質「α-シヌクレイン」の、特定の分子運動が、発症のカギとなる「アミロイド線維」という異常な塊をつくり出す原因となっていることを突き止めました。
「アミロイド線維」とは、タンパク質同士が線維状に集合した状態のこと。通常のタンパク質は、単独でバラバラに存在し、あるいはいくつかのタンパク質が正しく集まり、きちんとした構造体を形成して機能を発揮します。ところが、何らかの異常でタンパク質同士が線維状に集合した状態となることがあります。アミロイド線維が体内に沈着すると、パーキンソン病をはじめ、アルツハイマー病、全身性アミロイドーシスなど種々の疾病が発症すると考えられています。
研究グループは、タンパク質の分子レベルの運動の様子を調べるために、特殊な機器「ダイナミクス解析装置」を使い、「中性子準弾性散乱実験」を実施。その後、追加で必要な実験とデータ解析を行いました。その結果、アミロイド線維状の集合は、タンパク質「α-シヌクレイン」の折れ曲がり運動と、内部の局所的運動が同時に起こることでもたらされることがわかりました。
パーキンソン病は、世界で約1000万人が罹患している進行性の神経変性疾患。脳内の神経細胞がゆっくりと死んでいくことで、身体の運動の調節がうまくいかなくなる病気。発症が遺伝するタイプのパーキンソン病もあります。50~60歳代で発症することが多く、高齢になるほど発症率が高くなります。今のところ、症状を改善する治療薬は存在しますが、進行を抑制する根本的な治療法はありません。
今後、「α-シヌクレイン」の分子の中のどの部分が曲がりやすいかなど、より詳しく運動を調べていくことで、「タンパク質の運動の制御」という全く新しい考え方に基づく創薬につながっていくことが期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)