「KIF1A」の異常が、遺伝性痙性対まひなど運動神経の病気を起こすと判明

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 1分子レベルで解析できる特別な顕微鏡を用いて、KIF1Aというタンパク質を観察
  2. 遺伝性痙性対まひ患者さんの神経細胞では、KIF1Aが正常に機能せず、暴走状態と判明
  3. 同じ手順の解析法を用いると、他の運動神経系疾患の原因を探索できる可能性

運動神経の働きを支える重要なタンパク質「KIF1A」

東北大学は、神経細胞内でさまざまな物質の輸送機能を果たす「KIF1A」と呼ばれるタンパク質の動きを、1分子レベルで観察できる特別な顕微鏡で観察し、このタンパク質の遺伝子変異が、運動神経疾患の原因となっていることを発見したと発表しました。

神経細胞の内部は、さまざまな物質が集積する「細胞核」、物質を輸送する道路のような役割をする「軸索」、実際に物質を輸送する“トラック”のような役割を担う「モータータンパク質」といった分子で構成されています。

今回研究グループは、モータータンパク質のひとつ「KIF1A」と呼ばれる分子が運動する様子を特別な顕微鏡で観察。すると、神経に異常がない人のKIF1Aでは、動きが規則正しく制御されていた一方、遺伝性痙性(けいせい)対まひの患者さんの神経細胞では、KIF1Aが正常に機能せず、暴走状態(異常に物質を輸送している状態)になっていることがわかりました。

これまではKIF1Aの「機能の低下」が神経疾患の原因であると考えられてきましたが、今回の研究で、「暴走」することが神経疾患の原因になることが初めて明らかとなりました。

他の運動神経系疾患の原因探索を可能に

痙性対まひは、脳や脊髄に問題がある場合に、両脚の筋緊張が突っ張って、自分で動かせなくなってしまう症状を発症します。生まれつきの遺伝子の変化で生じる遺伝性痙性対まひでは、痙性対まひの症状が徐々に進行し筋力低下をきたします。遺伝性痙性対まひは、近年の解析技術の進歩により、60個以上の原因遺伝子が報告されており、細かく病型の分類が整理され、症状も多様です。

KIF1Aのようなモータータンパク質の異常は、アルツハイマー病やALS(筋萎縮性側索硬化症)などといった他の神経疾患でも関与が疑われています。運動神経の働きの低下は、遺伝的な異常を持たない健康な人の老化でも見られる症状。老化した人の神経細胞でもまた、KIF1Aモーターが暴走状態になっている可能性があります。「この研究で用いた分子モータータンパク質を1分子レベルで観察する手法は、他の神経疾患の解析にも用いることができる」と、研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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