筋萎縮性側索硬化症による言語障害のメカニズムを調査
名古屋大学は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんの言語症状に関する研究データを発表。約半数の症例で、「田舎(いなか)」や「昨日(きのう)」などの漢字2文字以上の熟字全体に、日本語の訓をあてて読む熟字訓を読むことに困難をきたしていることがわかりました。
ALSは、運動まひや筋萎縮など、運動系の症状を主体とする神経変性疾患。行動や言語などの高次脳機能にも症状が出る可能性があることが近年報告されています。多くの場合は遺伝しませんが、全体のおよそ5%は家族内で発症するとされており、「家族性ALS」と呼ばれています。原因遺伝子も徐々に特定され始めています。
これまでにALS における言語症状を多数例で詳細に検討した報告はなく、症状と関連する脳内の神経ネットワークについても未解明でした。文字列に対して特殊な読みを求められる熟字訓の音読において、正しく読むためには、その語の持つ意味が重要な役割を担うと考えられおり、その障害は意味記憶の障害と密接に関連することが知られています。そこで研究グループは、ALS における言語症状を熟字訓の音読と意味記憶の障害という視点で検討するとともに、MRI 検査を用いて症状と関連する脳内変化を調べました。
熟字訓音読検査とMRI検査を実施、脳内神経ネットワークの異常を発見
研究グループはまず、ALS患者さん71人と、健常者68人に対して、「熟字訓音読検査」を含む高次脳機能検査を実施。熟字訓音読検査とは、具体的には「田舎=いなか」や「昨日=きのう」などの漢字2文字以上の熟字全体に、日本語の訓をあてて読む熟字訓の音読のこと。健常者のグループ(以下、健常者グループ)と比較して、ALS患者さんのグループ(以下、ALSグループ)では、熟字訓音読検査の成績が顕著に低下していました。
さらに、MRI画像研究への賛同が得られたALS患者さん34人と年齢、性、教育年数が一致した健常者34人において、安静時脳機能MRI画像をとり、脳内変化を検討しました。その結果、ALS患者さんでは、物や形の認知、物事の意味に関する記憶、発話などに関わる領域を結ぶ脳内神経ネットワークに異常をきたしていることがわかりました。
「この手法を応用して、さまざまな病態の解明や、ネットワークを利用した画期的なリハビリテーションの開発につながる可能性が期待されます」と、研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)