知的障害や骨格異常がみられる新規希少疾患を特定

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 特定家系の男性の遺伝子解析の結果、新たな希少疾患を特定した
  2. 脊椎動物の個体発生に必須な遺伝子「NKAP」の異常によって発症していると可能性
  3. 骨格異常などの身体的特徴、一部は心血管系異常や泌尿器系の異常がみられる

マルファン症候群と類似の骨格異常や顔つきが特徴


東京大学は、「NKAP」と呼ばれる遺伝子(以下、NKAP遺伝子)の異常が原因で引き起こされる、新規希少疾患を特定しました。

研究グループは、多施設・複数コホートを用いた遺伝子の解析を行い、NKAP遺伝子に変異を認めた8家系10人の男性を発見。患者さんはいずれも、知的障害、筋緊張低下、マルファン症候群に類似した細長い手指や胸郭変形などの骨格異常を持ち、共通した顔つきなどの身体的特徴がみられました。さらに一部の患者さんでは、中心性肥満(お腹が出て胴体は太いが手足は細い)や、心房・心室中隔欠損、大動脈拡張などの心血管系異常や泌尿器系の異常など全身症状が確認されています。

遺伝子発現の異常が発達遅滞や骨格異常の可能性

「NKAP」はX染色体に位置する遺伝子で、血液免疫細胞の発生に重要な役割を果たしていることが知られています。NKAP変異により他の遺伝子発現に変動をきたすかを、さらに詳しく解析したところ、455遺伝子での発現増加、721遺伝子での発現減少を認め、多くの遺伝子発現に影響が及んでいることがわかりました。また、これら遺伝子発現の異常が、発達遅滞や骨格異常につながっている可能性が浮上しました。

また、受精卵から胚発生段階でのNKAP遺伝子変異の影響を、小魚のゼブラフィッシュで遺伝子変異モデルを作成、調べました。すると、ヘテロ接合体の場合は表現型異常が認められませんでしたが、ホモ接合体の場合は、受精後4日以内に眼の浮腫や中枢神経の壊死、脊椎の変形をきたして全例が死亡し、胚発生に必須の遺伝子であることが確認されました。

今後の課題として、この希少疾患の罹患率の検討、そして臨床症状がどの程度多岐にわたるかの検討が必要と考えられます。さらに同疾患の治療法解明に向けて、NKAPの細胞内における役割を明らかにする必要があります。「同病態の詳細がより明らかになると新たな治療戦略につながる可能性があります」と、研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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