ALSの治療薬は、今のところ2種類しかない
慶應義塾大学は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんから採取した脳脊髄液に、極めて細胞毒性の高い「SOD1タンパク質」が含まれていることを世界で初めて発見しました。
ALSは、脳や脊髄にある運動神経細胞が変性する成人発症型の神経筋疾患で、日本国内にはおよそ1万人の患者さんがいると報告されています。発症年齢や罹病期間などは患者さんによって異なりますが、筋力低下・筋萎縮・麻痺などの症状とともに、発症後3〜5年ほどで呼吸困難となるため、人工呼吸器による補助が必要になります。
今のところ、認可されているALS治療薬はリルゾールとエダラボンの2種類だけで、その効果も限定的であることから、ALSの病理解明と根本的な治療法の早期開発が求められています。
患者さんの脳脊髄液に異常なSOD1を発見、新たな治療薬開発につながる可能性
SOD1タンパク質は、正式には「銅・亜鉛スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD1)」。銅・亜鉛イオンを結合する金属タンパク質で、細胞内に発生した活性酸素の「スーパーオキサイド」を分解する重要な役割を担っています。
今回、ALS患者さんの脳脊髄液を解析したところ、SOD1の構造が異常化していることを発見しました。また、この異常な構造が、運動神経細胞に対して強い毒性を発揮し、ALSを発症していると推測されました。さらに、実際、脳脊髄液からSOD1を除去すると、神経細胞の生存率が回復することも確認されました。
このSOD1タンパク質の異常化が、ALSの発症や症状の悪化に対して直接に関与しているのか、あるいは、病気の結果として生じる産物にすぎないのかについては、さらなる検証が必要です。しかし、この部分のメカニズムを明らかにできれば、ALSの治療薬開発に新たな展開が期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)