マウスなどの小動物では病態を正確に再現するのが困難
京都大学は、霊長類の一種カニクイザルにおいて、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の病態再現に成功しました。小動物では病態再現できない難病の研究に貢献する可能性があります。
ADPKDは、頻度の高い遺伝的疾患のひとつで、患者さんは世界中に600万人いると推定されています。その半数以上が60歳までに末期腎不全になり、透析療法や腎移植が必要となる深刻な病気です。患者さんの多くは、PKD1という遺伝子の変異を片親から受け継いだ「ヘテロ接合体」の状態で病気が引き起こされています。さまざまな治療法が提案され、病態の進行をある程度抑えることは可能になってきていますが、依然として根治法は存在していません。
ヒトと小動物では生理的に異なる部分が多く、パーキンソン病やアルツハイマー病、エイズ、インフルエンザなどを小動物で再現することは困難であることがわかっています。ADPKDにおいては、患者さんの多くで幼少期から嚢胞発生が認められるのに対し、PKD1のヘテロ接合体マウスでは、寿命近くにならないと嚢胞が発生しないことから、マウスなどのげっ歯類モデルではヒトの病態を正確に再現できないのです。
カニクイザルを用いて病態再現に成功、長期間の病態進行モニタリングが実現
そこで今回の研究は、ヒトに近い霊長類であるカニクイザルに着目。ゲノム編集技術によりADPKD病態の最初期を再現したモデルサルを作製することに成功しました。このサルを詳しく調べたところ、PKD1遺伝子のヘテロ接合体変異では、集合管ではなく遠位尿細管から嚢胞形成が起きることも明らかになりました。
また、さまざまな重症度の嚢胞形成を示すADPKDモデルサルの作製、さらには、病状が進んだ患者さん、小児患者さんで見られる状態に似た嚢胞形成の再現にも成功しました。サルはマウスなどのげっ歯類よりも長い寿命を持つことから、小児期から大人になるまでの長期間に渡って病態進行をモニターできると考えられます。(遺伝性疾患プラス編集部)