若年性膵炎の新しい原因遺伝子を発見

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 若年で発症する膵炎患者さんに、遺伝子「TRPV6」の変異があると判明
  2. 「TRPV6」は、体内のカルシウムの恒常性を維持する重要な役割を担う
  3. この遺伝子変異は、日本人のみならず、フランス、ドイツの患者でも見つかった

若年発症患者では未知の原因遺伝子があると想定されていた

東北大学は、若年で発症する膵炎患者さんにおいて、カルシウムを選択的に透過する膜タンパク質「TRPV6遺伝子」に変異があること発見しました。

若年で膵炎を発症する人の多くは、遺伝子異常が背景にあると考えられており、遺伝性膵炎は厚生労働省の難病や小児慢性特定疾病に指定されています。これまで遺伝子の異常により、膵臓の「トリプシン」と呼ばれる消化酵素の活性化が促進されたり、トリプシン活性の暴走を防ぐ安全機構がうまく働かなくなったりした結果、膵炎が起こることが知られていました。しかし、特発性慢性膵炎患者の4分の3、家族歴の濃厚な遺伝性膵炎においても4分の1の家系では原因遺伝子異常が不明であり、未知の原因遺伝子が存在すると想定されていました。

体内でカルシウムの恒常性に関わる「TRPV6」の変異が原因のひとつとして特定される

研究グループは、若年発症の膵炎患者さんを対象に、次世代シーケンサーと呼ばれる機器を用いてゲノム配列の解析を行いました。結果、遺伝子「TRPV6」の突然変異(親から受け継いだ変異ではなく、その人で新しく発生した突然変異)が、この疾患の原因のひとつであることを特定しました。TRPV6遺伝子は、生体におけるカルシウムの恒常性を維持する重要な役割があります。

さらに、TRPV6の機能が失われる遺伝子変異が若年性の膵炎に高頻度で認められることを日本人のほか、フランス人、ドイツ人でも確認。また、同遺伝子の機能が働かなくなった変異マウスに慢性膵炎を発生させたところ、通常のマウスと比べて、膵炎が悪化することも確認されました。

この研究により、遺伝子異常によるTRPV6機能喪失の結果として膵炎発症に至るという、新しい膵炎発症のメカニズムが初めて明らかとなりました。病態解明のみならず、新たな膵炎の治療標的開発につながる大きな成果と考えられます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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