ASMと呼ばれる脂質を分解する酵素の低活性、または、欠損により発症する病気
仏サノフィ社は、酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(以下、ASMD)の成人患者さんと小児患者さんを対象に開発中の薬剤「オリプダーゼアルファ(olipudase alfa)」を評価する2つの臨床試験で、肯定的な結果が得られたと発表しました。
ASMDは進行性の希少疾患。細胞の中にある小器官「ライソゾーム」で、スフィンゴミエリンという脂質の分解酵素「酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)」の活性が低い(あるいはASMが存在しない)ために現れる、ライソゾーム病の一種です。
また、ASMDは歴史的に「ニーマンピック病」A型およびB型とも呼ばれます。ニーマンピック病A型は、神経症状が急速に進行し、中枢神経系の合併症により小児期の早い段階で亡くなるといわれています。ニーマンピック病B型も重篤で、生命が脅かされる可能性があり、主に肺、肝臓、脾臓と心臓に症状が現れます。
成人対象の臨床試験で、治験薬投与群の患者で症状が減少
オリプダーゼアルファの有効性と安全性/忍容性を評価した臨床試験「ASCEND試験」(第2/3相)には、16か国24施設からASMDの成人患者さん36人が参加。52週間にわたり隔週で、プラセボ(偽薬)またはオリプダーゼアルファの静脈内投与を最大3mg/kgで受けました。試験の主要評価項目として、ASMDの主な臨床所見として重要な、肺機能と脾臓の大きさの2項目が評価されました。
その結果、第52週時点の肺機能に関する相対的改善は、オリプダーゼアルファ群22%、プラセボ群3%と、オリプダーゼアルファが統計学的に有意でした。また、脾臓の大きさについても、オリプダーゼアルファ群で39.5%減少したのに対し、プラセボ群は0.5%でした。一方、すべての患者さんにおいて、試験中に有害事象が発生しましたが、臨床試験との関連はないと判断されました。
この病気の小児患者さんを対象とした「ASCEND-Peds」試験には、6か国から20人が参加。オリプダーゼアルファの最大用量を3mg/kgとし、試験の主要評価項目として隔週静脈内投与を64週間行った場合の安全性と忍容性が評価されました。結果、全ての患者さんに1件以上の有害事象がみられましたが、有害事象の多くは軽度と中等度でした。1人は重度で重篤なアナフィラキシー反応が現れ、投与との関連があるとされました。
オリプダーゼアルファは、欠損している、または機能が低下しているASMを補充し、スフィンゴミエリンの分解を促す目的で用いる酵素補充療法の薬剤です。現在、ASMDの治療薬として承認されている医薬品はなく、同薬は、世界初かつ唯一臨床開発後期に入った薬です。承認申請は、2021年下半期から開始となる見込みです。(遺伝性疾患プラス編集部)