鎌状赤血球症はβグロビンと呼ばれる遺伝子の異常で引き起こされる
米国立衛生研究所(NIH)は、鎌状赤血球症の遺伝子治療に使用するためのウイルスベクター(ベクター)を新たに開発しました。
鎌状赤血球症は、血液に関連した遺伝性疾患で、米国で約10万人、全世界では数百万が罹患しているとされています。血液中の「βグロビン」という遺伝子の変異によって引き起こされます。この変異により、赤血球に含まれるヘモグロビンは異常を来し、通常、楕円形の赤血球が鎌のような形になって血管の壁に付着しやすくなります。その結果、血管の閉塞(詰まり)、痛み、貧血、臓器損傷といった症状を呈し、治療を受けなければ早く亡くなります。
遺伝子治療に用いられる「ベクター」は、治療に必要な遺伝子を細胞に運び込む「運び屋」の役割をします。これまでも米国では、鎌状赤血球症に対する遺伝子治療が行われてきました。その遺伝子治療は、「患者さんの骨髄から取り出した造血幹細胞に、ベクターで正常なβグロビン遺伝子を導入し、その上で患者さんの体内に戻す」、という流れで行われますが、従来用いられてきたベクターは、まだいろいろと改良の余地がありました。同研究所では、約10年前から改良に取り組み、ついに、これまでの機能を上回るベクターの開発に成功しました。
動物モデルでの検証で、新たなベクターは移植から4年後も存続
新しいベクターは、動物モデル(マウスとサル)の実験において、従来のベクターよりも4~10倍、細胞への遺伝子導入効率が良いことが確認されました。また、移植から4年後もその場にとどまることが可能だとわかりました。さらに、従来のベクターよりもはるかに大量に生産でき、時間とコストを削減できる可能性があることもわかりました。
研究グループは、「新しいベクターによって、ヘモグロビンに起因する疾患に対する遺伝子治療が前進するだろう」と、期待しています。
なお、この新しいベクターについては、すでにNIHが特許を取得しており、臨床試験が継続されています。(遺伝性疾患プラス編集部)