新たな遺伝子治療法で全盲マウスの視力6割回復、網膜色素変性治療に応用できる可能性

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 網膜色素変性の治療に応用できる可能性がある新しい遺伝子治療技術が確立された
  2. この病気における従来の遺伝子治療で課題とされてきた「量」の問題を克服
  3. 新たな技術を用いて、全盲の網膜変性マウスの視力を6割程度回復

遺伝子異常を「破壊」ではなく「正常化」する高度な技術を実用化へ

東北大学は、新しい遺伝子治療の方法を開発し、全盲の網膜変性マウスを正常の6割程度まで視力回復させることに成功したと発表しました。

今回の新しい遺伝子治療法は「ゲノム編集」という手法を応用したものです。現在、ゲノム編集を用いた遺伝子治療で臨床応用の研究が進んでいるものは、主に病気の原因となる遺伝子を「破壊」することにより病気を治療しようとするものです。それに対し、病気の原因となる遺伝子を「正常化」するゲノム編集を用いた遺伝子治療は技術的に難易度が高く、実用化が難しい状況でした。

また、国の指定難病である「網膜色素変性」は、有効な治療法がなく、日本の失明原因となる病気の第2位です。近年、アデノ随伴ウイルス(AAV、非病原性のウイルス)と呼ばれるウイルスを2つ用いて正常な遺伝子全体を病気の細胞に補充する療法(遺伝子補充療法)が、重症型の網膜色素変性の治療として有効であると示されていました。しかし、AAVで一度に導入できる遺伝子の大きさには制約があるため、一部の網膜色素変性患者さんに対してのみ効果がある治療法でした。

新技術により全盲の網膜変性マウス視力を6割程度回復

今回の研究では、ゲノム編集に必要な構成要素の小型化を行い、従来2つのAAVに分けていたゲノム編集に必要な構成要素を、1つのAAVにまとめることに成功しました。この技術を用いた遺伝子治療を全盲の網膜変性マウスに施した結果、病因変異の約10%が正常化され、光感度を1万倍改善し、正常の6割程度の視力を回復しました。さらに、遺伝子補充療法と比較しても、同等の治療効果であることが確認されました。これにより、ヒトにおける網膜色素変性の治療に応用できる可能性が示されました。

「この成果は、これまでに治療の対象にならなかった網膜色素変性だけでなく、多くの遺伝性疾患に対する遺伝子治療の開発へ道を開くものです」と、研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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