患者さんのiPS細胞から運動神経を作って遺伝子解析
愛知医科大学は、球脊髄性筋萎縮症(Spinal bulbar muscular atrophy、以下SBMA)について、患者さん由来のiPS細胞からSBMAのモデルとなる運動神経を作成しました。そしてこのモデルを使って解析を行い、神経細胞が情報伝達をする構造「シナプス」に関連する遺伝子異常が、SBMAの病態に深く関わっていることを発見しました。
SBMAは成人で発症する難病。運動神経細胞の変性疾患で、進行は緩やかですが、根治療法はまだ確立されていません。「アンドロゲン受容体(AR)遺伝子」の変異が原因で発症することが明らかになっており、これまでにモデルマウスや細胞モデルを用いた研究が進められてきました。しかし、モデルマウスとヒトとでは病態に違いがあり、根本的な病態メカニズムは未だ解明できていません。
通常、ヒトから運動神経を採取することは困難とされています。そこで今回、研究グループは、SBMA患者さんからiPS細胞を樹立し、運動神経へと分化誘導することでSBMAの新たなモデルを作成。こうして得られた「患者さん由来の運動神経」を用いて、病気に関わる遺伝子の異常を探しました。
シナプス関連遺伝子の発現異常が、病態の原因になっている可能性
複数の解析を行った結果、SBMA患者さんの運動神経細胞の方が、SBMAではない人の細胞よりも、神経の働きに関する複数の遺伝子が活発に働いていることがわかりました。
特に、シナプスに関連する遺伝子として、筋肉の収縮が起こるために重要な「神経筋接合部」の形成に必要不可欠な遺伝子や、反対に同部の形成を抑えるように働く遺伝子が活発に働いていることが確認されました。これにより、これらの遺伝子の異常が、SBMAの病態である神経筋接合部の形成異常の原因となっている可能性が示唆されました。
「これまでに、モデルマウスでは神経筋接合部の変性が示されていましたが、今回初めてSBMA患者さんのiPS細胞を用いた研究により、運動神経におけるシナプス関連遺伝子の発現異常が示されました。こういった遺伝子の変動がSBMAの病態を理解する手がかりとなり、神経筋接合部を標的とした病気の進行を抑制する治療開発が期待されます」と、研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)