DNA修復開始には「2型RNA合成酵素」の「Lys1268」の「ユビキチン化」が重要
名古屋大学は、遺伝子にできたDNAの傷を効率よく修復するためには、「ユビキチン化修飾」と呼ばれる過程が重要であることがわかったと発表しました。また、この発見をふまえてモデルマウスを作成したところ、「コケイン症候群」と呼ばれる希少な遺伝性疾患と類似した諸症状が確認されました。
生物の遺伝情報を持っているDNAは、生体内の代謝や、体外からの放射線や化学物質など、さまざまな要因により常に損傷しています。このため、DNAを安定に維持・伝達するには、「DNA修復機構」によって損傷を除去、修復する必要があります。これまでに、どのように傷が修復されるかは提唱されましたが、どのように始まるかは不明なままでした。
そこで、研究グループは、次世代シーケンサー(DNAの塩基配列を高速で解析)等を用いた解析を実施。その結果、DNA修復の開始には「2型RNA合成酵素」と呼ばれる酵素の、「Lys1268」という部分(1,268番目のリジン残基)に、「ユビキチン」というタンパク質がくっつくこと(ユビキチン化修飾)が重要であることが明らかになりました。
コケイン症候群モデルマウスの作製に成功、病態解明や治療薬開発に期待
コケイン症候群は、発症頻度が出生100万人に1人程度の非常にまれな遺伝性疾患。DNA修復機構の異常により、小頭症や低身長、難聴、視力障害、歩行障害といった進行性の各種の神経症状、腎不全などを発症します。
研究グループは、今回の研究で明らかになった、2型RNA合成酵素の、ユビキチン修飾を受ける「Lys1268」を、別のアミノ酸(アルギニン)に置き換えたモデルマウス(RPB1-Lys1268Arg)を作製しました。するとこのマウスでは、コケイン症候群に代表されるヒトの「遺伝性早老症」と類似した、神経症状(運動神経の劣化)など諸症状が確認されました。
このモデルマウスは、今後、老化に関連するさまざまなヒト疾患の病態解明や、治療薬の開発に有益なツールとなることが期待されます。