先天性尿素サイクル異常症の赤ちゃんで、ヒトES細胞由来の肝細胞移植に成功

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 先天性尿素サイクル異常症の根治には、ある程度の成長を待っての肝移植が必要
  2. 肝移植までの橋渡し治療として、ヒトES細胞由来の肝細胞移植を世界で初めて実施
  3. 生後6日で行われた肝細胞移植が功を奏し、生後5か月目で肝移植も無事行われた

新生児で発症しても、肝移植をすぐには受けられない

国立成育医療研究センターは、世界で初めて、「先天性尿素サイクル異常症」の新生児に対し、「ヒトES細胞」由来の肝細胞を移植して治療する医師主導治験を行いました。

通常ヒトの体内では、肝細胞内に血中のアンモニア(有害物質)を取り込み、無害な尿素に変換する代謝経路「尿素サイクル」がはたらいています。先天性尿素サイクル異常症は、そのサイクルの異常により、血中のアンモニア濃度が高くなる(高アンモニア血症)などの症状を発症します。

この病気は、根治療法として肝移植が行われます。しかし、新生児に対する肝移植は、技術的に困難なうえに、移植された肝臓が新生児のおなかに対して大きすぎてしまうために呼吸不全や肝臓の圧迫による血流障害など、命に関わる重篤な合併症が起こることもあります。そのため、肝移植は、安全に移植することが可能な体重(約6kg、生後3~5か月)になるのを待って行われます。

生後6日目で肝細胞移植、生後5か月後に生体肝移植、無事退院

今回の治験では、根治療法として肝移植を行える大きさに成長するまでの「橋渡しの治療」として、同センターで作製された「ヒトES細胞」由来の肝細胞を、肝臓の血管内に注射する肝細胞移植が行われました。

ヒトES細胞とは、受精後5~6日程経過したヒトの胚から取り出した細胞で、人体のあらゆる細胞に変化する能力がある細胞のこと。ヒトES細胞を操作して、あらかじめ肝細胞にさせた状態で凍結保存しておくことで、今回の治験は実現可能となりました。

対象となった新生児は、生後2日目で高アンモニア血症を発症し、生後6日目に移植が実施されました。経過は良好で、移植後3か月の血液検査でもアンモニア値を含め特別な異常はありませんでした。そして、生後5か月が経過した時に、父親をドナーとして生体肝移植が行われました。術後の拒絶反応に対して免疫抑制療法を強化したところ軽快し、その後、合併症を起こすことなく過ごし、生体肝移植から2か月後に退院しました。

研究グループは、「今後も症例を重ね、引き続き安全性、有効性の検証を継続していきます。また、今回の治験をモデルケースとして、肝疾患に関する再生医療等製品の開発につながっていくことが期待されます」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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