遺伝子異常で神経細胞死が起きるポリグルタミン病、有効な治療薬が乏しい
既承認薬の「L-アルギニン」が、神経難病ポリグルタミン病の治療薬候補になることが新たにわかりました。
ポリグルタミン病とは、共通の遺伝子変異を原因とする9つの神経変性疾患の総称。家族性脊髄小脳変性症、ハンチントン病、球脊髄性筋萎縮症が含まれます。タンパク質内の、グルタミンというアミノ酸が連続している部分を「ポリグルタミン」というのですが、遺伝子の異常によりポリグルタミンが異常に長くなると、その構造が不安定になって凝集し、神経に毒性を示すようになり、最終的には神経細胞死を引き起こします。
これまでに、いくつか候補となる物質が挙げられてきたものの、人体への安全性が低い、脳内に取り込まれにくい等の理由で、治療薬としての臨床応用が困難でした。
既承認薬「L-アルギニン」を経口投与でモデル動物の脳病理所見が改善
今回、研究グループは、L-アルギニンがポリグルタミンタンパク質の立体構造を安定化させて凝集を抑制することを発見。さらに、2種類のマウスモデルを含むさまざまなポリグルタミン病モデル動物にL-アルギニンを経口投与したところ、モデル動物の運動症状や脳病理所見を改善させました。
L-アルギニンは日本で医薬品としてすでに承認されており、先天性尿素サイクル異常症やミトコンドリア脳筋症の患者さんへの使用実績から人体への安全性、高い脳移行性が確認されています。ポリグルタミン病に対する分子標的治療薬として、L-アルギニンが速やかに臨床応用に向けて進むことが期待されます。
なお、研究グループでは、現在、ポリグルタミン病の中でも患者数の多い「脊髄小脳失調症6型」を対象にL-アルギニンの安全性と有効性を調べるための医師主導治験(第2相試験)を計画しています。
L-アルギニンはサプリメントとして市販もされていますが、研究で使用しているものとは用法、用量が異なるため、ご自身で服用されることのないよう留意ください。(遺伝性疾患プラス編集部)