ヒトX染色体のDNA配列をほぼ完全決定、関連疾患の解明に期待

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ヒトX染色体のDNA配列に、疾患発症との関連が示唆されている未解明部分があった
  2. 新たな技術を用いて、X染色体DNA配列のほぼ全体が解読された
  3. 血友病やデュシェンヌ型筋ジストロフィーなど、X染色体関連疾患の病態解明に期待

X染色体の「セントロメア」は、従来技術では解読が困難

米国立ヒトゲノム研究所(National Human Genome Research Institute、NHGRI)は、これまで未解明な部分が多かったヒトのX染色体について、ほぼすべてのDNA配列を決定したと発表しました。

一般的に、人間には46本の染色体があり、22対(44本)の常染色体と2本の性染色体から構成されます。性染色体は、1つは母親から、もう1つは父親から受け継ぎますが、同じX染色体でもDNA配列には多くの違いがあります。また、染色体は46本合わせて約60億塩基対のDNAを含みますが、これを長さにすると約2mにも及ぶといわれています。

ヒトのゲノム配列は、脊椎動物の中で最も正確かつ完全に解読されているゲノム配列です。しかし実は、まだ解読できていない領域がいくつも残されています。ヒトのDNAは長いため、一度に読み取ることができません。そこで、DNAを小さな断片に切り刻んでから読み取り、その後で配列をパズルのようにつなぎ合わせています。そのため、短い配列の繰り返しが長く続くような領域は、その繰り返しが実際にいくつ続いているかなど、不明の状態でした。例えば、X染色体の「セントロメア」と呼ばれる中央部分は、こうした繰り返し配列が約300万塩基も続いているため、未解読領域の1つとなっています。一方で、この未解読領域には、疾患発症に関連している可能性のある重要な要素が含まれていると考えられてきました。

X染色体のほぼ全体のDNA配列を決定することに成功

研究グループは今回、DNAをこれまでのように細かく断片化せずに、長いままの状態で解析できる新技術を活用して、解読に挑みました。解析には、X染色体を1本しかもたない男性の細胞ではなく、2本もつ女性の細胞が用いられました。その結果、セントロメア領域を含め、ほぼ全体のX染色体のDNA配列を決定することに成功しました。長い反復配列の領域が正しく読めているか検証するためのゴールドスタンダードは存在しないため、複数の方法で検証が重ねられました。

X染色体のDNA配列の完全解読は、血友病やデュシェンヌ型筋ジストロフィーといった、X染色体関連の疾患の病態解明につながる可能性があります。

研究グループは、「今回の研究成果は、ゲノム医療の新時代の幕開けと言っても過言ではありません。ゲノムの機能やその情報が真に明らかになることで、医療は進展していくでしょう」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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