前頭側頭葉変性症や筋萎縮性側索硬化症を引き起こす遺伝子に関する新たな発見

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. FTLDとALSの発症に関わるC9orf72遺伝子の異常伸長リピートRNAについて研究
  2. 異常伸長リピートRNAは、「RNAエクソソーム」により分解されていると判明
  3. さらに異常伸長リピートRNAが細胞内に蓄積する仕組みも明らかになった

病気の原因の1つ「異常伸長リピートRNA」、分解される仕組みは?

大阪大学の研究グループは、難病の「前頭側頭葉変性症」(FTLD)と「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)の原因の1つと考えられている物質に関して、新たな発見をしました。

FTLDは、脳の前頭葉や側頭葉を中心とした神経変性により、人格変化、行動障害、言語障害などが少しずつ進行する神経変性疾患。ALSは運動ニューロンの障害により手足、喉、舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がやせてしまい力がなくなっていく神経変性疾患です。この2つの病気に共通しているのが、「C9orf72」(chromosome 9 open reading frame 72)という遺伝子の変異です。

遺伝子からタンパク質が作られる途中段階で、RNAという物質が作られます。これらの病気では、C9orf72遺伝子の配列に変異があることで、RNAに、本来ないはずの「異常伸長リピート配列」という構造が入り込みます。この異常伸長リピートRNAは、細胞の中で分解されますが、分解を免れて残ったものが、病気の原因になることは、知られていました。しかし、この分解がどのような仕組みで起こっているのかは、不明でした。

患者さんの細胞を解析し、分解/蓄積される仕組みが判明

今回、研究グループは、C9orf72遺伝子のリピート伸長変異をもつ患者さんの細胞を詳しく解析しました。その結果、異常に伸長したリピートRNAは、「RNAエクソソーム」により分解されていることが明らかになりました。RNAエクソソームとは、RNA分解酵素を含んだタンパク質複合体で、細胞内RNAの品質管理に関与しています。

さらに、異常伸長リピートRNAをもとにつくられる「ジペプチド・リピート・タンパク質」が、RNAエクソソームの働きを邪魔することで、異常伸長リピートRNAの分解が抑制され、その結果、より多くの異常伸長リピートRNAが細胞内に蓄積することも判明しました。

研究グループは、「今回の研究成果はすぐさま患者さんの診断や治療の役に立つものではありませんが、複雑な疾患の病態を丁寧に明らかにして知見を集積していくことは、正しい治療標的の選定やバイオマーカーの開発の礎となります」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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