テンプル症候群と鏡-緒方症候群、赤ちゃんの筋肉だけで働く遺伝子が関与の可能性

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. テンプル症候群と鏡-緒方症候群は、どちらも14番染色体に片親性2倍体という異常
  2. 胎児・新生児期の筋肉だけで機能するRTL1遺伝子が、テンプル症候群は全く働かず、鏡-緒方症候群は働き過ぎる
  3. マウスの実験で、RTL1遺伝子の働きの異常が、2つの病気の発症につながる可能性が判明

染色体が2本とも片親から受け継がれた場合に発症する病気

「テンプル症候群」と、指定難病の「鏡-緒方症候群」における筋肉の異常は、「RTL1」と呼ばれる遺伝子の働きが異常になることによって引き起こされている可能性が、マウスモデルを用いた研究から明らかになりました。

ヒトは、父親と母親からそれぞれ1本ずつ染色体を受け継ぎ、細胞には各染色体が2本1セットで存在しています。ところが、まれに染色体が片親から2本とも受け継がれる場合があります。これを片親性2倍体といいます。多くの遺伝子は、どちらの親から受け継がれた染色体に存在するものも同じように働きますが、いくつかの遺伝子は、父親から受け継がれたものだけ、もしくは、母親から受け継がれたものだけが働く仕組みになっています。そのような遺伝子は「インプリンティング遺伝子」と呼ばれます。片親性2倍体の場合、インプリンティング遺伝子は、全く働かなくなってしまうか、もしくは過剰に働くか、どちらかになります。

テンプル症候群と鏡-緒方症候群はいずれも14番染色体の片親性2倍体です。テンプル症候群は母親性2倍体で、成長遅延、筋緊張低下、乳幼児期の摂食困難、思春期の早発を示す病気です。一方、鏡-緒方症候群は、父親性2倍体で、母体の羊水過多、胎盤過形成、胎児の肋骨形態異常を伴い、呼吸不全によって命を落としたり(新生児致死)、精神の発達遅滞など重篤な症状が現れたりします。

RTL1遺伝子が全く働かなくても働き過ぎても筋肉の細胞が脆くなる

今回、研究グループは、RTL1というタンパク質が全く作られないモデルマウスはテンプル症候群、逆に多く作られ過ぎるモデルマウスは鏡-緒方症候群と同様の症状を示すことを発見しました。このRTL1の設計図になる遺伝子は、インプリンティング遺伝子の1つで、父親から受け継がれたものだけが機能できることがわかっています。詳しい解析から、RTL1が作られなくても、多すぎても、筋肉の細胞が脆くなることがわかりました。また、RTL1は、大人の筋肉では発現せず、胎児・新生児期の筋肉だけで発現しているため、この時期の筋肉に対して重要な働きをもっていると考えられました。

まだマウスの実験でわかった段階ですが、「疾患発症の原理が明らかになったことで、新規治療法開発へつながることが期待され、大きな社会的重要性があります」と、研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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