赤ちゃんで発症し命に関わる重症ミトコンドリア病、根本的な治療はまだない
千葉県こども病院、埼玉医科大学、順天堂大学の共同研究グループは、日本人の核遺伝子変異による新生児期・乳児期発症重症型ミトコンドリア病の罹患児を出産した経験のある13家族に対して出生前診断を実施し、妊娠経過や各家系の発症者の情報をまとめた結果を論文報告しました。
ミトコンドリア病は、約5,000人に1人の頻度で発症する、最も頻度の高い先天代謝異常症です。「ミトコンドリア」とは、細胞内小器官のひとつで、細胞の核にあるDNAとは別に、独自の小さな「ミトコンドリアDNA」を持ちます。ミトコンドリアのはたらきに関わる遺伝子は、細胞の核にもミトコンドリアにも複数存在します。核遺伝子の変異によるミトコンドリア病は、さまざまな遺伝形式で親から子に遺伝する可能性があります。赤ちゃんのうちに発症する重症ミトコンドリア病は、重篤な経過を辿り、命に関わるケースが多いこと、また、根本的な治療法がいまだ存在しないことが大きな課題となっています。
重症ミトコンドリア病の子どもを出産した経験者の半数で発症者と同じ遺伝子型を確認
今回、研究グループは、核遺伝子変異による重症ミトコンドリア病と遺伝学的に診断された子どもを出産した経験があるご家族からご相談を受け、出生前診断を実施しました。出生前診断は絨毛検査/羊水検査で行われ、対象となったのは、13家族の16妊娠でした。
その結果、おなかの中の赤ちゃんの半数で、同じ家系内の発症者と同じ遺伝子型が確認され、重篤なミトコンドリア病を発症する可能性が高いことがわかりました。この結果を受けて、遺伝カウンセリング、および、ご家族の意思決定における支援が実施されました。
今回の結果は、重症ミトコンドリア病を対象とした出生前診断に関する国内の現状をまとめた、日本で初めての報告となりました。今後、ミトコンドリア病の出生前診断における遺伝カウンセリングや遺伝医療を提供していくための、正確な情報源として活用されることが期待されます。さらに、ミトコンドリア病の遺伝子診断の整備、新たな病態解明や遺伝子に基づく治療開発など、ミトコンドリア病研究の一層の発展につながることが期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)